CAFC Update1

2003.10.14 


RESONATE INC. v. ALTEON WEBMASTER, INC.
ロードバランサー(負荷分散装置)に関する事例

1. 背景
(1)Resonate Inc.(以下、R社)はWeb上の負荷分散方法に関する特許5,774,660を有しており、660特許のクレーム6が特許権の侵害にあたるとしてAlteon Webmaster, Inc(以下,A社)に対し北カリフォルニア地裁へ提訴した。地裁ではA社はクレーム6を侵害しないと判断し、R社はこれを不服としてCAFCへ提訴した。

(2)負荷分散装置(load balancer)は、外部ネットワークからの要求を一元的に管理し、同等の機能を持つ複数のサーバに要求を転送する装置である。アクセス数が少なく、また情報量の少ないサーバであれば、単体のサーバが利用されるが、ムービー、音楽等サイズの大きいデータを取り扱い、かつ、アクセス数が多い場合はサーバに負担がかかりダウンすることもある。そのため通常複数のサーバを用意し、負荷分散装置にてクライアントからの要求を適宜分配するようにしている。R社は負荷分散装置の従来技術としてDNSラウンドロビン
方式及びルーターベース負荷分散装置を記載している。DNSラウンドロビン方式は1のドメイン名に複数のIPアドレスを割り当て、問い合わせがある度に順番に答えることにより、一台のコンピュータへアクセスが集中するのを防止する方式であり、ルーターベース負荷分散装置はルーターを負荷分散装置として用いるものである。

(3)R社は660特許において従来技術の問題点として以下の2点をあげている。第1に、従来の方式ではアクセスを分散させるため、複数のサーバに同じデータを保存しておく必要がある(ミラーサイト)。そのためデータがムービー等である場合は、記憶領域が大量に必要となる。第2に、サーバからブラウザへデータが送信される際、データがルーターを経由するためこれがボトルネックになりシステムが低下することになる。

(4)R社はこの問題を解決するために660特許において、第1の解決方法として「リソースベース」、「コンテンツベース」負荷分散方法を提案した。これは、複数のサーバにリソース毎(コンテンツ毎)にデータを用意しておき、負荷分散装置(ルーター)がクライアントからどのようなデータ(コンテンツ)の要求があるかを判断し、その要求に対応するサーバへアクセスを許可するものである。第2の解決方法として、バイパス方式を提案した。これは選択されたサーバからクライアントへデータが送信される場合に、ボトルネックとなりうる負荷分散装置をバイパス(迂回)するものである。

2. 争点
(1)争点となっているのはクレーム6の以下の文言解釈である。
reading the requested resource on the assigned node and transmitting the requested resource to the client
 「割り当てられたノード(サーバ)上の要求されたリソースを読み出し、クライアントへ要求されたリソースを送信するステップ」
つまり、負荷分散装置がサーバを割り当て、その後その要求されたデータをクライアントへ送信する際に、負荷分散装置を経由するのか、それともバイパスするのか問題となった。

(2)A社の商品Web Switchは上述した第1の解決手法を備えるが、サーバからクライアントへ要求されたデータが送信される場合、ルーター(負荷分散装置)を経由する。地裁ではA社の商品は負荷分散装置をバイパスせず経由するので、データ送信の際に生じるボトルネックの問題を解決できない。従って、この構成要件を具備しないものとして非侵害と判断した。

3. CAFCの判断
(1)クレームに記載されていない部分の解釈にあたって、新たなクレームの文言を追加、代用はすることはできない。クレームの文言解釈にあたってはまず、クレームの文言そのものが有する意味を検討し、ついでその意味と明細書・図面中の意味とが首尾一貫しているか否かを判断する。例えば、明細書中に特に用語の意味が定義されているか等を検討する。判決では明細書中の記述は出願人が選択したクレームの文言の代用にはならないと判示した。つまり、明細書の記述は記載されたクレームの文言解釈に利用されるが、クレームに記載されていない部分の解釈にあたって、新たなクレームの文言を追加、代用はすることはできない
 クレーム6はtransmitting the requested resource to the clientと記述しているだけであり、これが負荷分散装置をバイパスするのか、経由するのか一切記述されていない。したがってクレームの文言解釈にあってはサーバからクライアントへ送信されるデータが負荷分散装置をバイパスする根拠はないとした。

(2)裁判所はクレームを書き直してはならない
 続いて、判決では問題となっている「transmitting the requested resource to the client」以外の他の構成要件、明細書、及び審査経過全体を考慮して、データが負荷分散装置をバイパスしなければならないとする根拠があるか否かについて検討している。
 地裁では負荷分散装置を経由するのあれば、その旨をクレームに詳細に記載すべきであって、クレーム6には単にサーバからクライアントへ情報が送信されるとしか記載されていないから、負荷分散装置をバイパスするものと解釈した。これに対し判決では、「Courts do not rewrite claims」の原則を示した。See K-2 Corp. v. Salomon S.A., 191 F.3d 1356, 1364 (Fed. Cir. 1999) ("Courts do not rewrite claims; instead, we give effect to the terms chosen by the patentee."); Autogiro Co. of Am. v. United States, 384 F.2d 391, 396 (Ct. Cl. 1967) ("Courts can neither broaden nor narrow the claims to give the patentee something different than what he has set forth.").
つまり、他の構成要件、審査経過等を考慮しても出願人はクレームにおいて情報が送信される経路を特定しているとはいえないから、裁判所はクレームから除外されている言語に基づいてクレームの文言を書き換えてはならないとした。

(3)明細書に複数の課題が存在する場合にクレーム中にその課題を解決するための手段全てを含む必要がない
 上述したように、明細書の従来技術、サマリー、発明の利点等には660特許の課題として複数のサーバに同一のリソースを記憶させておかなければならない点及び負荷分散装置に負担がかかることを記載しており、これを解決するために、負荷分散装置がリソース毎にリクエストを分散させ、また負荷分散装置をバイパスさせる点を記載している。A社は、このように機能させるためには負荷分散装置をバイパスすると解釈するのが妥当と主張した。これに対しR社は、本発明は、リソースベースによる負荷分散を第1の主要技術とするものであり、バイパスさせる技術は本発明の側面であってクレーム6には含まれないと反論した。
 判決では、明細書に複数の課題が存在する場合にクレーム中にその課題を解決するための手段全てを含む必要がないと判示した。See Honeywell, Inc. v. Victor Co. of Japan, 298 F.3d 1317 (Fed. Cir. 2002) (holding that claimed invention did not need to solve both problems in the prior art when claim included language addressing only one problem).クレーム6にはリソースベースによる第1の技術を明確に記載しており、そのうえ負荷分散装置をバイパスさせてボトルネックを解消するとの明示的な記載はクレーム6には全く存在しないからである。

(4)結論
 以上の理由により、サーバからクライアントへ情報が送信される場合に、データが負荷分散装置をバイパスするとした地裁の判断を誤りとし、地裁への差し戻し判決とした。

4. コメント
 日本のクレーム解釈においても、イ号装置が明細書に記載された作用効果を生じない場合、技術的範囲に属しないと判断される(作用効果重視説)。地裁ではボトルネックの課題を解決するためには、負荷分散装置をバイパスすることが必要であることから、クレーム6の解釈にあたり、サーバからクライアントへデータが送信される場合、負荷分散装置をバイパスすると解釈し、負荷分散装置を経由するA社の商品を非侵害と判断した。しかしながら、課題、利点が複数存在する場合には、上述したようにクレームにはそれらを解決するための手段を全て含む必要がないと判示した。明細書の作成にあたっては、複数の課題を一出願に含めることが多い。そのような場合、本件のように権利解釈に疑義が生じないように、それぞれ課題、利点に対応させて階層的にクレームする必要があるといえる。また、実施例においても一の課題、利点のみを有する形態も存在する旨を明細書中に記載しておくことが重要と考えられる。

 判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/02opinions/02-1201.html
以 上

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