CAFC Update28

2006.1.20 

IPXL HOLDINGS,L.L.C.,
Plaintiff-Appellant,
v.
AMAZON.COM,INC.,
Defendant-Appellee.

弁護士費用請求の申し立て期限はいつか?

1.概要

 米国特許法第285条は、
「裁判所は、例外的な場合(exceptional case)に、勝訴当事者のために合理的な弁護士費用を裁定することができる*1。」
と規定している。勝訴者であるアマゾン社(以下、被告)は略式判決後、IPXL社(以下、原告)が、特許無効が明白であるにもかかわらず無用の訴訟を提起したとして、弁護士費用の請求申し立てを行った。この申し立ては判決後いつまで行うことができるか?この点が本事件の争点となった。
 米国特許法第285条は、特に申し立て期間に関し言及していない。一方、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)には、判決後14日以内に申し立てをすべき旨が規定されている。被告は判決後17日経過後に弁護士費用請求の申し立てを行った。
 地裁は、規則54条の期間を徒過していることを認めた上で、裁量により米国特許法285条による弁護士費用約2億円の支払いを原告IPXL社に命じた*2

2.背景

 原告は、U.S. Patent No.6,149,055(以下、055特許)「電子ファンド送金または取引システム」を所有している。055特許は、電子金融取引を実行するためのシステムに関し、ユーザにより少ない手順で金融取引の実行を可能とすべく、ユーザにより予め定義された情報を記憶し、ユーザが取引を選択できるよう単一の画面にそれらの情報を表示するものである。
 一方、被告の1クリックシステムは、インターネットサイトAmazon.comに導入されている。この1クリックシステムは、すでにユーザ情報(クレジットカード番号、配達先など)が記憶されたユーザに、これらの情報を再入力させること無く注文を可能とするものである。
 原告は、被告の「1クリックシステム」が055特許を侵害するものとしてバージニア州連邦地方裁判所に提訴した。地裁では特許の有効性、侵害の有無、記載要件及び弁護士費用につき争われた。地裁は特許無効、非侵害、そして弁護士費用2億円を被告アマゾン社に対し支払う判決をなした。
 原告IPXL社はこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは、特許無効の支持判決をなしたが、原告IPXL社に対してなされた弁護士費用の支払い判決を差し戻した。

3.CAFCの争点

   米国特許法第285条の申し立て請求期限はいつか?
 上述したように米国特許法第285条には、いつまでに請求すべしとの明文の規定は存在しない。これに関して連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)には、
 「他の法律または裁判所の命令で規定されている場合を除き、申し立ては、判決後14日以内に行わなければならない。」
と規定されており、同規則第6条(b)には、
 「申し立て期間の徒過が、正当な理由による不注意である場合に限り」
規則54条に規定する14日の期間を延長することを認める旨を規定している。
 本事件においては、特許無効・非侵害とする略式判決後、17日経過後に被告(アマゾン社)が弁護士費用の請求申し立てを行った。
 地裁は、被告の申し立ては同規則第54条に規定する期間を徒過していること、及び、同規則第6条の期間延長もなされていないことをも認めたうえで、地裁は、
 「米国特許法第285条に基づく弁護士費用の請求は、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)の規定にかかわらず妨げられない」
と判断した。また地裁は、
 「たとえ同規定に基づく弁護士費用の申し立て期間が、規則第54条に従うとしても、裁判所は裁量でこれを行使でき、被告にこの期間の徒過を認めることができる。」
 と判断した。その結果、地裁は米国特許法第285条に基づく弁護士費用の請求を認めた。
 本事件では、米国特許法第285条の申し立て期間に関し、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)が適用されるか否か、適用されるとした場合に裁判所が同規則にかかわらず、裁量で米国特許法第285条の行使を認めることができるか否かが争点となった。

4.CAFCの判断

   いかなる弁護士費用の請求も、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)に従わなければならない
 CAFCは、本事件が「例外的な場合(exceptional case)」であるとすると、被告の米国特許法第285条に基づく弁護士費用の請求は正当なものであると認めた上で、いかなる弁護士費用の請求も、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)に従わなければならないと判示した。その理由として、CAFCは、
 「米国特許法第285条には、なんら、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)を免除する旨の規定が設けられていない。」
ことを挙げた。すなわち、米国特許法に特別に申し立て期間に関する規定がない限り、連邦民事訴訟規則第54条(d)(2)(B)が適用される旨を判示した。これにより、地裁がなした判断、すなわち米国特許法第285条そのものの規定が、申し立て時期にかかわらず弁護士費用の請求を認めるものであるとする判断は法的に誤りであると結論付けた。
 また、被告は、地裁に14日の期間の延長を認める裁量を与える根拠となる規則第6条(b)(2)に基づく手続を行っていないことから、申立期間を延長すること及び原告の申し立てを否定することに関し地裁は裁量を濫用したと判示した。

5.結論

 原告IPXL社に対する弁護士費用の支払い判決は違法であるとして差し戻した。

6.コメント

 これは、有名な1クリック特許を有するアマゾン社が逆に訴えられた事件である。アマゾン社のWebサイトのシステムは、055特許の技術的範囲に属さないと判断され、また055特許は新規性(米国特許法第102条)が無く無効と判断され、しかも、特許法第112条に規定する記載要件も満たしていないことから、「例外的な場合」として、被告アマゾン社は弁護士費用の請求申し立てを行ったのである。しかし、たった3日の遅れで2億円が消えた。
 なお、特許有効性及び記載要件等に関する議論は紙面の都合上割愛する。

判決 2005年11月21日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。

http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/05opinions/05-1009.pdf

【注釈】

*1 ヘンリー幸田著 米国特許逐条解説第3版p246 社団法人発明協会
2 IPXL Holdings, L.L.C. v. Amazon.com, Inc., 333 F. Supp. 2d 513 (E.D. Va. 2004) ("Summary Judgment"), and awarding Amazon attorney fees, see IPXL Holdings, L.L.C. v. Amazon.com, Inc., No. 04-CV-70 (E.D. Va. Sept. 24, 2004) ("Attorney Fees").


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