CAFC Update(43)

2007.4.20 


In Re Bose Corp.

Res Judicata(既判事項の法理)とTrade Dress

-先行スピーカ特許及び先行商標登録出願が与える影響-


1.
概要

 Res Judicata(以下、既判事項の法理)は、第1の訴訟と同一の訴訟原因に基づく第2の訴訟を排除する法理であり、訴訟経済上認められているものである。しかし、この法理にも例外があり、第2の訴訟で問題となっている法律及び事実が第1の訴訟で明確に決定されていない場合は、第2の訴訟が認められる*1

 Bose(以下、原告)はスピーカシステムについて特許を取得しており、このスピーカの形状についても権利化を図るべく商標登録出願(第1回商標登録出願)を行った。前審では商標が機能的であるとして拒絶の維持判決がなされた。

 原告は前審の後、機能性に関する最高裁判例がなされたこと及びスピーカに関する状況が変わったことから実質同一の商標について再度商標登録出願(第2回商標登録出願)を行った。この場合に、既判事項の法理がどのように適用されるか否かが問題となった。

2.背景

 原告は1995年9月26日、下図に示す「スピーカシステム」のデザインを商標として登録すべく出願(第2回商標登録出願)を行った。



 この出願には、商標の説明として次の文言が記載されていた。
「当該商標はエンクロージャを備え、実質的に5角形である横断面を備える。これは、弓のように曲がったエッジをもつ実質的に5角形状の天板、及びこれに平行な実質的に5角形状の底板を備える。」

 原告はこの商標登録出願以前にも実質的に同一の商標登録出願(No.73.127,803、第1回商標登録出願)を行っている。さらに当該スピーカシステムについて1976年に特許出願を行い、1979年に特許を成立させている(U.S. Patent No. 4,146,745)。

 第1回商標登録出願(803出願)においては、商標が機能的であるとして審査において拒絶され、Trademark Trial and Appeal Board(以下、審判部)及びCAFCにおいてもその判断が支持された*2。以下では前審となるCAFCでの判決をBose1という。

 原告は上述のように1995年再度実質的に同一の商標について第2回商標登録出願を行った。審査官及び審判部は、既判事項の法理により第2回商標登録出願についても登録を受けることができないと判断した*3。原告は、Bose1とは状況が異なることを根拠に、審判部の決定を不服としてCAFCに控訴した。

3.CAFCの争点

 前審後の、形状の相違の主張、及び最高裁判例が既判事項の法理に影響を与えるか?
 既判事項の法理に関し、原告は以下の点を主張した。

主張点1:第2回商標登録出願の前面のエッジは願書に記載のとおり、弓のように曲がっている(bowed edge)。その一方で、第1回商標登録出願の前面エッジは湾曲(curved)している。このように前面エッジ形状がBose1とは異なるので、既判事項の法理を適用すべきではない。

主張点2:Bose1の後に最高裁判例(TrafFix Devices v. Marketing Displays, 532 U.S. 23 (2001)、以下TrafFix最高裁判決)がなされた。TrafFix最高裁判決は機能性の判断手法を変更するものである。よって最高裁判例に従い、再度審理すべきである。

4.CAFCの判断

単なる意味論の相違では既判事項の法理を覆すことができない
(1)主張点1について
 CAFCは原告の主張を退けた。Bose1においても、前面のエッジをスピーカの一部として、機能性分析において十分に議論している。Bose1においてはエッジが「湾曲」である点について審理されている。これに対し本願の願書には「弓のように曲がったエッジ」と記載されているものの、実質的に同一の意味である。これは意味論における言い逃れにすぎず、既判事項の法理が適用されると判示した。

対応特許の図面に記載されたデザインが恣意的、付随的または装飾的か?
(2)主張点2について
 CAFCは、TrafFix最高裁判決はBose1に何ら影響を与えるものではなく、既判事項の法理が適用されると判示した。  ランハム法第2条(e)(5)には、機能的な商標の登録を認めない旨が規定されている*4。そして機能的か否かを判断するに際し、TrafFix最高裁判決では、以下の事項を判示した。

(A)商標のデザインに関し特許出願がなされている場合、当該デザインが機能的であるとの有力な証拠となる。

(B)しかし、特許図面にそのデザインが単に「恣意的、付随的、装飾的」に記載されているにすぎない場合、機能性判断の証拠として採用されない。

 原告は特許図面に記載の前面エッジのデザインは恣意的なものであり、TrafFix最高裁判決(B)により、再度審理すべきであると主張した。しかし、原告が保護を求めているのは前面エッジだけではなく、5角形状のスピーカ全体のデザイン商標である。よって前面エッジのデザインが恣意的というだけでは不十分と判示した。

5.結論

 CAFCは、既判事項の法理により原告の請求を認めなかった審判部の判断を支持する判決をなした

6.コメント

 ランハム法においては、識別機能を有していれば登録が認められ、その商標についての保護が認められる。この商標の範疇にはトレードドレス(Trade Dressが含まれる。

 トレードドレスとは、商品の色、画像、または形状、もしくは、パッケージである。例えばコカコーラのボトルが該当する。トレードドレスを保護すべきか否かは、上述したTrafFix最高裁判決に基づき判断される。基本的には(1)機能的か否か(functionality)(2)識別性があるか否か(distinctiveness)が判断される。この機能性の要件は特許法と商標法とのバランスをとるために存在するものである。

 本件スピーカシステムはBoseの原点とも言うべき901である。901に関する原告特許の権利はすでに消滅しているため、形状について再度権利化を図ったのであろうが、既判事項の法理により認められなかった。
判決 2007年2月8日
以 上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.fedcir.gov/opinions/06-1173.pdf

【注釈】
*1 Parklane Hosiery Co., Inc. v. Shore, 439 U.S. 322, 326 (1979)
*2 In re Bose Corp., 772 F.2d 866 (Fed. Cir. 1985) (Bose I)
*3 In re Bose Corp., Serial No. 74734496 (T.T.A.B. July 12, 2005)
*4 ランハム法2条(e)(5)(15 U.S.C §1052(e)(5))


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