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賠償額150億円の文言解釈

〜ソフトウェア不正コピー防止技術〜

Z4 Technologies, Inc.,
v.
Microsoft Corporation,
and
Autodesk, Inc.

執筆者 弁理士 河野英仁
2008年1月18日

1.概要
 米国特許訴訟における損害賠償額は年々増加傾向にある。ソフトウェア特許に関しても同様である。本事件では、特許権侵害が認められ1億1500万ドルもの損害賠償が命じられた。これに加えて被告が故意侵害を継続し、またその行為を隠したとして懲罰的に2500万ドルの追徴が認められた。合計額は1億4000万ドル(約150億円)となった。

 被告はクレームの文言解釈について争い、被告製品はこれらの特許を侵害しないと主張した。クレームの文言「ソフトウェアに関するパスワード」が争点の一つとなった。当該文言一つが150億円の損害賠償を左右した。以下では、CAFCがこの文言をどのように解釈したかを解説する。

2.背景
 Z4 Technologies(以下、原告)はU.S. Patent No. 6,044,471(以下、471特許)及びU.S. Patent No. 6,785,825(以下、825特許)を所有している。なお、825特許は471特許の継続出願である。これらの特許はコンピュータソフトウェアの不正コピー及び不正使用の問題を解決せんとするものである。

 本発明は、登録情報を監視し、また、パスワード認証機関によって、認証ユーザに定期的にパスワードをアップデートさせることにより、認証ソフトウェアの数を制御する。特に本発明は多段認証を行うことを特徴とする。初期パスワードにより、ユーザに使用許諾期間を付与する。ユーザは、当該使用許諾期間を超えてソフトウェアを使用するための第2パスワードを受信すべく、登録情報をソフトウェア会社へ送信しなければならない。

 以下に、本発明の詳細を、図面を用いて説明する。図1は本発明の概要を示す説明図である。
471特許
図1 471特許のFIG.1

 ユーザ30または企業32に対し、ソフトウェアが記録されたCD-ROM10が配布される。ソフトウェアはコンピュータ12または企業内のコンピュータ34にインストールされる。ソフトウェアを動作させるためにはパスワードが必要である。ユーザは登録情報をパスワード管理器24へ送信する(38)。登録情報には、シリアル番号14、氏名、電話番号、コンピュータ12のハードウェア情報等が含まれる。

 パスワード管理器24は、初期パスワードをユーザに送信する(40)。これによりコンピュータ12は認証コンピュータ42となる。カウンター44及びカレンダー46により期間が計測される。使用許諾期間に達した場合、更新のため登録情報を再度パスワード管理器24へ送信する(50)。パスワード管理器24は登録情報の認証を行い、認証に成功した場合、新たなパスワード52及び更新プログラム54をコンピュータ12に送信する。これにより、次の使用許諾期間までソフトウェアの使用が可能となる。

 2004年9月22日原告は、Microsoft及びAutodesk(以下、被告)を471特許のクレーム32及び825特許のクレーム44,131を侵害するとしてテキサス州連邦地方裁判所に提訴した。

 訴訟において、原告は被告の「Office(登録商標)」及び「Windows(登録商標)」に搭載されている「Product Activation」が、これらの特許を侵害していると主張した。地裁は、被告の侵害を認め、1億1500万ドルもの損害賠償を認めた。原告はこれに加えて、被告が故意に特許権侵害を行ったこと及び当該行為を隠していたことを理由に追徴的な損害賠償を求めた。地裁はこれを認め2500万ドルの追徴損害賠償を認めた*1。被告はこれを不服として控訴した。

3.CAFCでの争点
 ソフトウェアに関連するパスワード(a password associated with the software)
 問題となったのは471特許のクレーム32*2の「ソフトウェアに関連するパスワード」の文言である。

 クレーム32は以下のとおりである。
コンピュータでの実行が可能なソフトウェアデータが記憶されたコンピュータでの読み取り可能な記録媒体であって、前記ソフトウェアは、認証されていないユーザによる前記ソフトウェアの使用を低減するための命令を含み、前記記録媒体は以下を含む、
前記ソフトウェアに関連するパスワードを要求する命令;
前記パスワードが前記ソフトウェアに伝えられた後に、前記ソフトウェアを動作可能にする命令;
前記ソフトウェアの継続使用のために前記ソフトウェアに伝えられる新たなパスワードをさらに要求する命令;and
登録情報を通信するために前記ソフトウェアの認証された代表者に自動的に連絡し、また、前記ソフトウェアの継続使用のための認証を自動的に得る命令。

 被告のイ号製品もソフトウェアのインストール時にプロダクトキーを入力する必要がある。しかしながら被告は、当該プロダクトキーはクレームの「ソフトウェアに関連するパスワード」に該当しないと主張した。特定のCD-ROMに係るソフトウェアと、これに付与されるプロダクトキーとの間には関連性はなく、他のCD-ROMに係るソフトウェアに対しても、当該プロダクトキーを使用することができる。

 つまり、被告のプロダクトキーは、他のソフトウェアに対しても共通に使用されるのである。そうすると、一のプロダクトキーを用いて、一のOfficeの認証を行った場合、クレーム32の文言に合致するが、一のプロダクトキーを用いて他のOfficeの認証を行った場合、クレーム32の文言に合致しないことになる。このように、場合によっては特許の文言に合致しない際に、特許権の侵害といえるか否かが問題となった。

4.CAFCの判断
「non-infringing mode of operation(非侵害動作モード)」を有していても、特許権侵害となる。
 上述した如く、被告はイ号製品のプロダクトキーは、他のソフトウェアに対しても共通に使用されることから、クレーム32の文言「ソフトウェアに関連するパスワード」を満たさないと主張した。

 しかしながら、CAFCは被告の当該主張を退けた。イ号製品においては、直接ユーザに各ソフトウェアに提供される特定のプロダクトキーを入力することを要求している。このプロダクトキーの入力はインストール時のみならず、使用許諾期間の更新の際にも必要とされる。

 これらを総合的に考察すると、たとえ特定のプロダクトキーが他のソフトウェアに潜在的に使用することができるとしても、特許侵害に該当することに変わりはないとCAFCは結論づけた。このように、場合によって侵害にあたらないことを、「non-infringing mode of operation (非侵害動作モード)」という。

 「非侵害動作モード」はHilgraeve v. Symantec事件*3において判示された。Hilgraeve v. Symantec事件では、イ号装置が合理的にクレーム構成要件を具備していることから、たとえイ号装置が非侵害動作モードを有するとしても、侵害と判断された。

 以上のことから、本事件においてもイ号製品は、非侵害動作モードを有するものの、総合的に判断すればクレーム32の文言「ソフトウェアに関連するパスワード」の文言を充足することから、特許権侵害と認定された。

5.結論
 CAFCは特許侵害と判断した地裁の判断を支持した。

6.コメント
 本事件においては、紙面の都合上割愛したが、その他、クレーム32中の「ユーザ」及び「自動的に」の文言解釈も争点となった。裁判所がどのようなアプローチでクレームの文言を解釈しているか参考となる判決である。この短い文言によって巨額の損害賠償額の有無が決定される。クレーム作成の際には文言の用法には十分注意する必要があると言える。

 なお原告は本判決後、被告のWindows Vista(登録商標)及びOffice 2007(登録商標)についても本特許を侵害しているとして同様の訴訟を提起している。

判決 2007年11月16日
以 上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。 http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/06-1638.pdf

【注釈】
*1 z4 Techs., Inc. v. Microsoft Corp., No. 06-cv-142 (E.D. Tex. Aug. 18, 2006)
*2 471特許のクレーム32
32. A computer readable storage medium having data stored therein representing
software executable by a computer, the software including instructions to reduce use of
the software by unauthorized users, the storage medium comprising:
instructions for requiring a password associated with the software;
instructions for enabling the software after the password has been communicated to the software;
instructions for subsequently requiring a new password to be communicated to the software for continued operation of the software; and
instructions for automatically contacting an authorized representative of the software
to communicate registration information and obtaining authorization for continued operation of the software.
*3 Hilgraeve Corp. v. Symantec Corp., 265 F.3d 1336, 1343 (Fed. Cir. 2001)

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