青色発光ダイオードに係る特許を受ける権利が
会社側に承継されたことが認められた中間判決

2002年9月30日
      岡本敏夫


 青色発光ダイオードに係る特許を受ける権利が従業者から会社側に承継されたか否かについて、東京地裁は特許を受ける権利が会社に承継されたことを認めました。

【本事案における語句及び特許法の説明】
 @「特許を受ける権利」とは、発明の完成により発明者に発生する権利であり、特許権のことを意味するものではありません。
 特許出願は、「特許を受ける権利」を有する者が行います。よって、発明者でない第3者が特許出願を行うには、「特許を受ける権利」を発明者から第3者(例えば、発明者が勤めている会社)に承継させることが必要になります。
 A会社に勤める従業員が、会社の業務を行うことで発明したものは「職務発明」と呼ばれます。
 発明が「職務発明」であっても、「特許を受ける権利」は発明を行った従業員に発生します。
 但し、発明者の従業員と会社との間に、「職務発明」による「特許を受ける権利」を承継させる「契約、勤務規則その他の定め」が成立している場合、「特許を受ける権利」は発明者の従業者から会社へ承継されます。
 また、「職務発明」による「特許を受ける権利」が会社へ承継された場合、発明者の従業者は、会社から発明による相当の対価を受ける権利を有します。

【事案の概要】
 原告は被告会社の従業員として青色発光ダイオードに関する研究・開発を行い、平成2年9月ころ、青色発光ダイオードに関係する発明をした。
 この本件発明は被告会社により特許出願が行われ、平成9年4月に被告会社が特許権者として登録された。
 原告は、本件発明についての特許を受ける権利は被告会社に承継されておらず、本件特許権の一部を原告に移転すること及び被告会社が本件特許権で過去に得た利益に対する不当利得の返還等を請求していた。

【争点】
@本件発明は、職務発明に該当するか。
 原告は、業務命令を無視して青色発光ダイオードの研究を続けたので、本件発明は「職務発明」でないと主張。
A本件において、「契約、勤務規則その他の定」が存在するか。
 原告は、従業員と被告会社との間で、特許を受ける権利を被告会社に承継させる旨の合意(黙視の合意)は成立していないと主張。また、原告は「譲渡証書」に鉛筆で署名しただけで、押印もしていないから、契約は成立していないと主張。

【中間判決の要旨】
@本件発明は、職務発明に該当する。
 原告が業務命令に反して研究を続けた結果、本件発明をしたことは、相当の対価を算定する際に考慮されるべき事情にすぎないので、本件発明は「職務発明」に該当する。
A本件において、「契約、勤務規則その他の定」は存在する。
 ・被告会社の昭和60年改正社規第17号は、「勤務規則その他の定」に該当する。
 ・本件発明のされる前までに、従業員と被告会社との間で、職務発明の特許を受ける権利は被告会社に承継される旨の合意(黙視の合意)が成立していた。
 ・証拠上、原告と被告会社の双方の契約意思を明確に認定できるので、本件発明の特許を受ける権利を譲渡する旨の個別の譲渡契約が成立している。

 よって、「勤務規則その他の定め」及び「契約」が存在したので、本件発明についての特許を受ける権利は、発明者である原告から被告会社に承継されたものと云うべきと、判断された。

【今後の審理】
 本件発明の特許を受ける権利が被告会社に承継されて被告会社が有効に本件特許権を有しているということを前提として、職務発明の特許を受ける権利の承継に対する相当の対価について審理される。

(中間判決について)
 中間判決とは、民事訴訟において審理方針や審理対象を整序し、訴訟を促進するために、審理の途中にされる判決です。中間判決をしたときは、中間判決は終局判決を行う当該審級の裁判所を拘束し、中間判決に対しては、独立した不服申立ては許されず、当事者は、終局判決に対する上訴の中で、その判断の当否を争うことができるだけとなります。
                                  

以 上

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