インクカートリッジ再利用不可
〜特許権侵害の成否、知財高裁でキャノン逆転勝訴〜

廣田 由利 2006.3.1


 リサイクル・アシスト(以下、リ社という)は、使用済みのキャノン製インクカートリッジを回収し、インクを再充填して販売しており、この行為につき、キヤノンが起こした特許権侵害訴訟の判決が、2006年1月31日に知的財産高等裁判所でありました。
■キャノンの特許発明 構成(A)と構成(B)との組合せにより、開封時のインク漏れ等の問題が解決された製品に係るものと、その製造方法に係るものです。
■特許権の消尽 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が日本国内で特許製品を譲渡した場合には、特許権は消尽し(使い果たされ)、特許権者は、以後、第三者が特許製品を使用、譲渡等する行為について差し止めすることは出来ません(BBS事件最高裁判決)。
■東京地裁の判断 第1審の東京地裁は、これを踏まえ、次の通り、判示しました。
…特許権の効力のうち生産する権利については消尽はあり得ないので、特許製品を適法に購入した者が、新たに別個の実施対象を生産すると評価される行為をすれば、特許権を侵害することになる(根拠:学説)。本件発明においては、構成(A)が重要で、構成(A)は、インクを使い切った後もそのまま残存していること、インク自体は,特許された部品ではないこと等から、リ社の行為は新たな生産と認められず、国内消尽が成立するので、キャノンは、権利行使することが出来ない。
■知財高裁の判断 控訴審の知財高裁は、上記最高裁判決を踏まえ、次の通り、判示しました。
…@特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再利用がされた場合、A特許製品につき第三者により特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部について加工又は交換がされた場合には、特許権は消尽せず、特許権者は特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが出来る。本件の場合、インクを再充填すれば再度使用出来るので、効用を終えたとはいえず、資源の有効利用という観点からも@には該当しない。しかし、構成(A)及び(B)は本件発明の本質的部分に当たり、特許製品において、インクが消費されると構成(A)及び(B)の充足性を失うが、リ社がインクを再充填することで、構成(A)及び(B)が再充足され、特許発明という観点からAには該当する。従って、特許権は消尽せず、キャノンは、権利行使することが出来る。…知財高裁は、第1審判決を取り消して、キャノンの差し止め請求を認容しました。
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以 上
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