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特許出願中の発明を対象とする実施契約

〜従来技術文献調査の重要性〜

2008.5.1 野口 富弘

 事業の準備又は実施を早期に行うために、特許権だけでなく特許出願中の発明も貴重な財産権として活用され、特許出願段階での実施契約が活発化しています。一方で特許出願を行っても特許が成立するかは不確定であり、実施契約にはリスクが伴います。
 そこで、一つの裁判例を通じて実施契約時の留意点を紹介します。

1.事案の概要
 控訴人(実施権者)が、被控訴人(出願人)の特許出願中の発明(以下、「本件発明」という。)について拒絶理由通知がされたことを受けて、本件発明につき当事者間で締結した実施契約(以下、「本件実施契約」という。)に基づき支払った実施料の返還を求めた事案です(平成16年10月27日 東京高裁 平成16(ネ)3601)。

2.主な争点
本件実施契約は、本件発明に特許が成立する見込みがあることを前提に締結されたものか、及び本件発明の進歩性を否定するような従来技術文献が存在しないことが契約締結の重要な前提であるか。

3.東京高裁の判断
 東京高裁は、本件発明に特許成立の見込みがあることやその進歩性を否定するような従来技術文献が存在しないことは、これらのことを契約締結の重要な事項として取り決めたという事情が存在しない限り、重要な前提ではないと判示して控訴を棄却した。

4.特許出願段階の実施契約時の留意点
上述の裁判例のような争いに巻き込まれることを避けるためには、出願人の立場から見れば、以下のような特約条項を明記することが大切です。
@「拒絶査定の確定その他の事由により特許権設定登録ができなくなったことが確定した場合でも、その確定の日まで権利は存在したものとみなす」旨規定することで、そのときまでに支払われた実施料が法律上の原因を欠くものではないことを明確にする。
A「本契約に基づいてなされたあらゆる支払いは、いかなる理由によっても返還されないものとする」旨規定することで、対価の不返還を明確にする。
B特許出願した発明に特許が成立する見込みがどの程度あるかは、本来、契約締結に当たって、各当事者が自らの責任において調査し、判断すべき事項であるが、念のため「特許成立の見込みを前提としないこと、出願人には従来技術文献の調査義務がないこと」を規定しておく。

5.特許後の実施契約について
 特許後に無効審判により特許が無効とされた場合、特許権は初めから存在しなかったものとみなされるので、「無効審決が確定した場合でも、その確定の日まで特許権は存在したものとみなす」及び「実施料を返還しない」旨の特約条項を盛り込むことも大切です。

■特許出願、実施契約等については、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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