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技術を開発したら有罪?

〜Winny事件に見る技術開発の留意点〜


2009.5.1 新井 景親

 1 初めに
 ファイル交換ソフトは、多数のユーザが利用することによって、その利便性が高まり、経済的価値が増大します。そのため開発したファイル交換ソフトを多数のユーザが利用している場合には、ユーザからの使用料の徴収またはファイル交換時に宣伝広告を掲載することにより開発者又はサイト運営者は大きな利得を得ることができます。しかし開発されたファイル交換ソフトによって、第三者の権利が侵害された場合には、Winny事件に見られるように、開発者に責任が及ぶ場合があります。
 
 2 Winny事件の事実関係
 Winny(P2P型ファイル共有ソフトの一つ)の開発者(以下甲という)は自身のホームページ(HP)においてWinny を公開し、その最新版を継続的に公開していました。乙は甲のHPからWinnyを入手し、著作権の対象となる音楽ファイル、映像データなどの交換を行っており、乙の行為は著作権(公衆送信権、著作権法23条)を侵害するものでした。つまり著作権を侵害したのは乙であって、甲自身は著作権を侵害していません。ただ、Winnyの最新版を継続的に公開することによって、乙は最新版を入手して著作権侵害行為を容易に行うことができたため、検察は、Winnyを公開し、Winnyの最新版を継続的に公開する行為が、刑法62条1項に規定する幇助に該当すると主張しました。
 
  3 Winny事件における裁判所の判断 
  裁判所は、幇助に該当するか否かを判断するための要件として、@その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する甲の認識A甲がWinnyを提供する際の主観的態様如何によって判断されるべきとしました。その上で、ファイル共有ソフトによって利用されているコンテンツの内、約90%が著作権などの対象となっていること、甲と関係者との間で交わされたメールにWinnyが社会問題化していることを甲が認識していることを伺わせる内容が含まれていたこと、社会問題化した後も最新版を公開していたという事実などに基づいて、Winnyの開発行為及び開発当初Winnyを公開していたことには違法性は認められないが、Winnyによる著作権侵害が社会問題化した後も、甲がWinnyの最新版を公開し続けた行為は、幇助犯を構成すると結論づけて、甲を有罪としたのです(なお本事件は現在控訴中であり、有罪は確定していません)。
 
  4 技術開発における留意事項
  裁判所の判断に基づくと、ファイル交換ソフトを開発することに違法性はありません。ただしファイル交換ソフトを違法な方法で利用されるおそれがある場合には、悪用を防止する機能を実装するなどの対策をとらない限り、ソフトウエアの適法な利用を利用規約でうたったとしても、それだけでは免責されないと考えるべきでしょう。この問題はファイル交換ソフトに限らず、技術一般について発生します。たとえばコピー機であれば、紙幣の複製を防止する機能を搭載して、偽札の発生を防いでいます。技術開発を行う際には、開発した技術が使用される態様について十分な検討を行い、違法な行為を防ぐ機能を搭載すべきでしょう。

◆技術開発と知的財産権との関係についてのご質問は、河野特許事務所まで気軽にご連絡ください。

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