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特許権者の製品=権利範囲内に属するもの?

~実施契約前に検討しよう!~

2010.7.1  新井 景親

1.はじめに
 特許権の範囲(技術的範囲)は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められますが(特許法第70条)、特許請求の範囲の記載は、お世辞にも読み易いとは言えず、理解に時間を要します。そのため実施契約を締結する場合に、特許権者が自らの製品を見せて特許権の内容を説明することがあります。確かに製品を見れば理解は容易となりますが、その製品は本当に技術的範囲に属するのでしょうか?

2.知的財産高等裁判所(知財高裁)における判決(平成20年(ネ)第10070号)
 平成21年1月28日に知財高裁において、特許権者(以下被告)との共同事業者から製品の説明を受け、専用実施権の契約を締結したものの、説明を受けた製品は技術的範囲に属さなかった事件について判決がなされました。製品は石風呂装置であり、専用実施権者(以下原告)は石風呂装置の実施(製造・使用等)を温泉宿泊施設に再許諾するビジネスを行っていました。なお本事件に係る特許権は、進歩性無しとして専用実施権の設定後に無効が確定していますが、特許が無効となっても契約金は返還しない旨の特約があり、特許無効を理由とした原告の返還請求は認められていません。

3.当事者の主張
 原告は、説明を受けた製品が技術的範囲に属さないとわかっていれば、そもそも実施契約を締結しなかったのであるから、本実施契約は法律行為の要素に錯誤があり、無効である、契約金は返還されるべきと主張しました(民法第95条)。これに対し被告は、製品は技術的範囲に属すること及び仮に製品が技術的範囲に属さないとしても、契約を締結する際に必要な調査をするのは当然であるから、原告には重大な過失があり、契約の無効を主張することができないと反論しました(同但書)。

4.知財高裁の判断
 知財高裁は、製品は技術的範囲に属さないと認定した上で、原告には重大な過失があり、実施契約の無効を主張することができないと結論づけました。その理由として「本件実施契約は営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであり、その対象は本件特許権であるから、契約の当事者としては、取引の通念として、契約を締結する際に、契約の内容である特許権がどのようなものであるかを検討することは、必要不可欠であるといえる。合理的な事業者としては、発明の技術的範囲がどの程度広いものであるか(中略)等を総合的に検討することは当然である。そして技術的範囲の広狭については、特許公報、出願手続及び先行技術の状況を調査検討することが必要になるが、仮に、自ら分析及び評価することが困難であったとしても専門家の意見を求める等により、適宜の評価をすることは可能である」と述べています。また原告は再許諾によって実際に利益を得ており、原告の認識の誤りが原告の事業の妨げになったとは解せず、製品が本件発明の技術的範囲に含まれていない限り本実施契約を締結する意思表示をすることがなかったとは認められない、とも述べています。  技術的範囲に属するか否かは、一見して判断できるものではありません。実施契約を締結する際には、相手の説明を鵜呑みにせず、専門家を交えて検討すべきでしょう。

■ 発明に関する調査について質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。

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