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特許権侵害の損害賠償請求

~損害額の算出に特許権者の実施は必要?~

2013.5.1 廣田 由利

 特許法第102条は特許権が侵害された場合の損害額を推定するために設けられており、第1項は損害額を、 (侵害者の販売数量)×(特許権者製品の単位当たりの利益額)で算出し、第2項は、侵害者が侵害行為によって得た利益の額を特許権者が受けた損害額と推定し、第3項はライセンス契約時の実施料相当額を損害額としています。第2項は、特許権者が損害額を立証するのは困難であり、侵害行為がなければ得られたであろう利益を損害額と推定することで、特許権者の立証の負担を軽くしています。この規定は特許権者の実施を前提とするのか、その解釈が知財高裁(平成24年(ネ)10015号)で争われました。以下に、この事件の概要を説明いたします。

1.事件の背景
 本件の特許発明は、ごみ貯蔵機器の上部に取り付けるごみ貯蔵カセット(紙おむつ入れ)に関するものです。特許権者(英国のサンジェニック社)は、コンビ社との間で販売店契約を結び、コンビ社に対し、英国で製造したカセット(原告カセット)を販売(輸出)し、コンビ社は日本国内で原告カセットを販売していました。被告のアップリカ社は、特許発明の技術的範囲内にある紙おむつ用のカセット(被告カセット)を日本国内に輸入・販売していました。特許権者は、被告カセットの輸入・販売の差し止めと、上述の第2項に基づく損害賠償とを請求する訴えを東京地裁に起こしました。

2.東京地裁の判断(平成21年(ワ)第44391号)
 東京地裁は、被告のカセットの輸入・販売の差し止めを認めた上で、特許権者は日本国内において特許発明を実施していたとは認められず、第2項の推定の前提に欠けるので、同項に基づき損害額を算定することはできないとし、第3項に基づき算定した損害賠償額(実施料相当額)の支払いを命じました。特許権者はこれを不服として知財高裁に控訴しました。

3.知財高裁の判断
 知財高裁は、特許権者はコンビ社を通じて原告カセットを日本国内において販売しているといえること、被告は被告カセットを輸入・販売することにより、コンビ社のみならず、特許権者とも日本の市場において競業関係にあること、被告の侵害行為により原告カセットの販売が減少していることを認めました。その上で、被告は、第2項は損害の発生自体を推定する規定ではないこと、特許権者が「日本国内」で「実施」を行っていることを要すると主張するが、同項には特許権者が実施を行っていることを要する旨の記載はなく、同項は損害額の立証の難しさを軽減するために設けられた推定規定であるので、厳格な要件を課す必要はなく、特許権者の実施は前提要件とはいえず、侵害行為がなければ特許権者が利益を得られたであろう事情が存在する場合には同項を適用できると判断しました。そして、このように解釈しても、特許権の効力が日本国外(英国)まで及ぶものでもないと付け加えました。
 知財高裁において、損害賠償額は東京地裁における約1814万円から約1億3462万円にアップし、特許権者が保護されることになりました。

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