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特許権侵害時の損害賠償額算定方法の見直し

~逸失利益と実施料相当額の重畳適用~

2019.6.3 難波 裕

 2019年5月17日に特許法の改正法が公布され、1年以内に施行されます。本号では改正法の内、特許権侵害時の損害賠償額の推定等に関する規定の改正内容について解説致します。

1.改正前の損害賠償額の算定方法
 民法の原則では、不法行為による損害額の立証責任は原告(権利者)が負います。しかし、特許紛争では損害額の立証が困難である場合が多いため、権利者の立証責任を軽減すべく、損害賠償の推定額等を定めた規定が特許法102条に設けられています(商標法等も同様)。
 改正前の旧102条1~3項では、以下の3つの算定方法が規定されていました。
 1項:損害額=「侵害品の譲渡数量」×「権利者の製品の単位数量あたりの利益額」
 2項:損害額=「侵害者が侵害行為により受けた利益額」
 3項:損害額=「実施料相当額」
1項・2項は権利者の逸失利益を補填するための規定で、この場合は権利者自身の実施(製品の製造・販売等)が必要です。3項は、権利者が実施していない場合でも、最低でも実施料相当額(いわゆるライセンス額)を保証するための規定です。
 ただし、1項では、権利者が実施・販売できなければ逸失利益が発生しないとして、権利者の実施能力(生産設備など)、及び販売事情(市場環境など)に応じて損害額を覆滅(減額)できるとしていました。

2.特許法102条1項の改正
 しかし、例えば侵害者と権利者の間で実施能力等に大きな差がある場合、損害額が大幅に減額されて、十分な賠償を得ることができない恐れがあります。実務上はそのような場合を考慮して、2項、3項の算定方法による損害額を予備的に請求するほか、覆滅部分に3項を重畳適用し、権利者が実施・販売できない部分に対して実施料相当額を請求する予備的主張が行われていました。しかし、1項と3項の重畳適用については、近年はこれを認めない判例 *1が出されていました。
  そこで本改正では、「譲渡数量」×「単位数量あたりの利益額」を上限として、実施能力・販売事情に応じて覆滅された場合は、覆滅部分に「実施料相当額」を加算可能とする改正が行われました。
  1項:損害額=「譲渡数量」×「単位数量あたりの利益額」(実施能力・販売事情に応じて覆滅)+「実施料相当額」(覆滅部分に限る)
  これにより、権利者が手厚く保護されることになりました。
  *1 平成17年(ワ)第12207号「ゴーグル事件」等

3.特許法102条4項の新設
  本改正ではさらに、特許法102条4項が新設され、「実施料相当額」を算定するに当たって、「特許権の侵害があったことを前提として合意した場合の実施料相当額を考慮できる」と規定されました。侵害者は特許権を侵害しているわけですから、その点を踏まえ、例えば特許権を侵害せず事前にライセンス交渉をした場合と比べて増額するなど、侵害の事実を考慮して実施料相当額を算定できる点が明記されました。

◆特許法の改正に関する御質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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