CAFC Update11

2004.8.20 


HONEYWELL INTERNATIONAL INC.
and HONEYWELL INTELLECTUAL PROPERTIES, INC.
vs.
HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION


独立クレームをキャンセルして従属クレームを独立クレームに書き直しただけで、
禁反言が推定され均等論を主張できない


1.概要

 Honeywell International Inc.等(以下、Honeywell)は、飛行機用の補助電源ユニットに関するU.S.Patent No.4,380,893(以下,893特許)及びU.S.Patent No.4,428,194(以下、194特許)を有している。Honeywellは1999年5月、Hamilton Sundstrand Corporation(以下、Sundstrand)を893特許クレーム8,10,11,19および23の侵害であるとして、また194特許のクレーム4の侵害であるとして訴えた。地裁では特許は有効であり、文言上の侵害には該当しないが、均等論上の侵害になると判断した。CAFCは、問題となっている独立クレームは審査経過で、従属クレームから独立クレームへ書き直されたことから、禁反言が推定され、Honeywellがこれを反証しない限り、均等論は主張できないと判断した。


2.背景

 Honeywellの893特許及び193特許は飛行機用の補助電源ユニット(APU)に関し、問題となっている893特許のクレーム8*1及び194特許のクレーム4*2はいずれも「吸込み案内板(inlet guide vanes)」を含んでいる。審査において、議論となっているクレームはもともと「吸込み案内板」を含まない他の独立クレームに従属する従属クレームであった。これらの独立クレームは先行技術から自明であるとして拒絶された。しかし、審査官は「吸込み案内板」を含む従属クレームを独立クレームに補正すれば特許を認めると示唆した。これに対応して拒絶された独立クレームはキャンセルされ、従属クレームがこの独立クレームを含むよう補正された。
 地裁では、文言上の侵害には該当しないことは明らかであったが、吸込み案内板及びその位置が、イ号装置において均等の機能を果たすか否かが争われた。Sundstrandは、問題となっているクレームは、元の独立クレームをキャンセルして「吸込み案内板」を含む従属クレームを独立クレームに書き直したので、最高裁のFesto判決*3において判示された如く禁反言が推定され、「吸込み案内板」に関するすべての均等物が権利範囲から除外されると主張した。
 地裁は、クレームは単に独立クレームへ書き直しただけで、「吸込み案内板」の構成要素は補正されていないので、Sundstrandの主張を退け均等論上の侵害になると結論づけた*4


3.CAFCの争点

従属クレームを独立クレームに書き直しただけで、禁反言が推定されるか?
 Festo判決においては、審査段階において減縮補正がなされた場合、特許性に関する補正であるとの推定を受け、禁反言が推定(反論可能)され均等論を主張できない旨が判示された。ただしその推定は、以下の3つのいずれか一つを立証することにより反証することができる*5
@その均等物が出願時に予測不可能であったとき
Aその補正の理由が争点となっている均等物とほとんど関係がないとき
B争点となっている置換物を特許権者が記載できなかったであろう合理的な理由があるとき

 本事件においては、元の独立クレームが自明であることを理由に拒絶されたことから、「吸込み案内板」を記載した従属クレームを単に独立クレームに書き直して特許を取得した。このように従属クレームを独立クレームに書き直しただけで、「吸込み案内板」に対して禁反言が推定されるのか?CAFCではこの点につき争われた。


4.CAFCの判断

 元の独立クレームをキャンセルして、従属クレームを独立クレームへ書き直した場合、禁反言が推定され、均等物を放棄したものと推定される
 CAFCは元の独立クレームをキャンセルして、従属クレームを独立クレームへ書き直した場合に、禁反言が生じるか否かにつき、Festo最高裁判決以降に争われたDeering事件*6及びRanbaxy事件*7を引用した。

@Deering事件
 Deering事件においてCAFCは、
「独立クレームをキャンセルし、従属クレームを独立クレームへ書き換えることは、均等論の適用を推定的に妨げる。」
と判示した。元の独立クレーム1は、梁に沿って動く滑動おもりを含む重量計を定義していた。従属クレーム3は、前記滑動おもりの「ゼロ位置」限定を含んでいた。クレーム1は審査官により自明であるとして拒絶されたので、特許権者はクレーム1をキャンセルし、クレーム3を独立クレームへ書き直した。
 CAFCは、特許権者は明らかに元の独立クレーム1と権利の成立した独立クレーム1との間の領域を放棄したので、これは減縮補正に当たると判断し、推定的に、「滑動おもりのゼロ位置」に関しては均等を議論することの障害になると結論づけた。

ARanbaxy事件
 元の独立クレームは、初期物質を高イオン化有機溶媒へ溶解するプロセスを含む化学プロセスである。クレーム3,5,7は、クレーム1の高イオン化有機溶媒の限定として、スルホキシド、アミド、及び蟻酸をそれぞれ挙げていた。審査官は、クレーム1は自明であるが、クレーム3,5,7については独立クレームに書き換えることにより特許可能であると述べた。出願人はクレーム1,3,5,7をキャンセルし、新クレーム11を作成した。クレーム11は、スルホキシド、アミド、及び蟻酸からなるグループという限定を含む以外はクレーム1と同じであり、従属クレームを書き直して一つの独立クレームへ補正した。

 CAFCは、
「特許性に関連する理由により補正された場合、禁反言が推定されることを述べた上で、特許権者は、元のクレームに記載されていたように、高イオン化有機溶媒に含まれている均等物を放棄したと推測される。」
と結論づけた。
 CAFCはこれら2つの事件を本事件に当てはめた。本事件で問題となっている独立クレームは元々「吸込み案内板」の要素を含まない独立クレームの従属クレームであった。これらの独立クレームは、吸込み案内板の要素を追加しながら、独立項に書き直され、元の独立クレームはキャンセルされた。よって本事件でも、吸込み案内板に対するすべての均等物の放棄が推定されると結論づけた。


5.結論

 以上の理由により、CAFCは、審査経過でなされた補正は「吸込み案内板」の均等物についての推定的放棄が生じると結論付けた。そして、均等論下での侵害の判断を無効とし、HoneywellがFesto基準下で、上述した3つの要件を反証することができるかどうかを判断するよう地裁に命じた


6.反対意見

 以上の結論に対し、判事の一人であるNewmanは反対意見を述べている。
 Newman判事は、
112条パラグラフ4*8の規定に反して、従属クレームは一度も拒絶されておらず、補正されておらず、また限定されていないにもかかわらず、裁判所は、従属クレームを独立クレームへ書き直すことがFestoにおける「減縮補正」であると判断した。この前提から、裁判所は、元の独立クレームがキャンセルされたときはいつでも、独立クレームへ書き直された従属クレームの全ての要素は、全ての均等物の放棄の推定対象となると判断した。この新しいルールは特許出願人に従属クレームを使用することを避けさせることになり、コストの増加及び審査を困難にさせることになる。」
と述べた。
 その根拠として、従属クレームを独立クレームに書き直すことは権利範囲を全く変更するものではないこと*9、従属クレームにのみ記載された「吸込み案内板」については何ら拒絶されておらず補正もされていないこと、並びに、Deering事件及びRanbaxy事件を本事件に当てはめるのは妥当ではないと主張している。Newman判事は、Deering事件及びRanbaxy事件について以下のように述べている。

@「Deeringにおいて、元々の独立クレームは、「前記梁により運ばれる滑動おもり」を備える重量計であり、従属クレームは独立クレームの「滑動おもり」要素をさらに「ゼロ位置」を含むよう限定している。裁判所は、従属クレームにおける滑動おもりのゼロ位置と、キャンセルされたクレームの滑動おもりの限定のない位置との間の領域は、Festoにおける禁反言が生じると判断した。この判断は、従来の禁反言のルールに従うものである。」

A「同様にRanbaxyにおいて、元の独立クレームは「高イオン化有機溶媒」を含んでおり、従属クレームはスルホキシド、アミド、及び蟻酸の溶媒カテゴリーを追加している。広い「高イオン化有機溶媒」は先行技術により拒絶され、出願人は従属クレームのスルホキシド、アミド、及び蟻酸を保持しながら、これをキャンセルした。従属クレームはそれから独立クレームに書き直された。裁判所は正しく、他の有機溶媒均等物のRanbaxyの主張に対するFesto禁反言を適用した。裁判所は正しくこれらの減縮されたクレーム要素に対して禁反言のルールを適用した。」

 Newman判事は、Deering事件及びRanbaxy事件の過去のCAFCの判断を肯定した上で、これらを本事件に当てはめるのは妥当ではないと述べた。
 Honeywellの事件に当てはめると、「吸込み案内板」は補正によって何ら変更されていなかった。従属クレームはこの新しい特徴を追加したのであって、これらの特徴は元の独立クレームには存在しなかったのである。反対に、Deering及びRanbaxyにおいては、従属クレームは元の独立クレームの要素を限定しており、元のクレーム要素と補正されたクレーム要素との間の放棄の推定が生じた。反対にHoneywellの事件では、吸込み案内板はどのような形であれクレームされておらず、吸込み案内板の放棄された領域は存在しない。このように裁判所は無制限に禁反言を推定した。」
 つまり、Deering事件及びRanbaxy事件においては、元の独立クレームの構成要素に含まれていた事項を、従属クレームの記載を元に限定している点で、元の独立クレームに含まれていない新たな構成要素を従属クレームの記載に基づき追加補正している本事件と相違する。しかもこの追加の構成要素(吸込み案内板)については何ら変更されていないことから、当該構成要素の均等物が放棄されたと推定されるのは妥当ではないとNewman判事は指摘している。
 そして、Newman判事は、この新しいルールは問題を何ら解消せず、出願人が従属クレームを避けることにより、均等論にアプローチするかもしれないと懸念している。そしてこれは、費用の増加及び審査の遅延をも招くと述べた。

7.コメント

 本事件によれば、元の独立クレームをキャンセルし、元の独立クレームに存在しない、新たな構成要素を含む従属クレームを独立クレームへ書き換えた場合でも、禁反言が推定され、その新たな構成要素について均等物の放棄が推定されることが示された。そしてその推定を覆すためには、Festoで判示された3つの要件のいずれかを特許権者が立証する必要がある。反対意見にも述べられているように、元の独立クレームに何ら記載されていない従属クレームの構成要素(吸込み案内板)は、拒絶の対象でもなく、補正により限定されたわけでもない。元の独立クレームに新たな構成要素として追加する形式的な補正をしただけである。この追加した構成要素に対する均等物までもが放棄されたと推定されるのは不合理に思える。またこれを回避するために予め全て独立クレーム形式で記載して出願するというのも実務上現実的ではない。
 今後、全てのケースに一律に、このルールが適用されるか否かは明らかではないが、従属クレームを独立クレームへ書き直した場合、禁反言が推定され均等論の主張が妨げられる可能性があることを特許権者は考慮すべきであろう。またこのルールが定着した場合、重要発明については独立クレーム形式でクレームを作成する必要があるといえる。

判決 2004年6月2日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/02opinions/02-1005.html

【注釈】

*1 893特許のクレーム8(下線部は争点である。)
8.  A gas turbine engine accessory power unit having a fluctuating compressed air supply demand, said accessory power unit comprising:
(a) a compressor having adjustable inlet guide vanes;
(b) duct means for receiving compressed air discharged from said compressor and supplying the received air to the pneumatically-powered apparatus;
(c) surge bleed means operable to exhaust from said duct means a selectively variable quantity of air to assure at least a predetermined minimum flow rate through said duct means and thereby prevent surge of said compressor;
(d) sensing means for sensing the value of a predetermined, flow-related parameter within said duct means and generating an output signal indicative of said value, said value of said flow-related parameter being substantially independent of the temperature of the compressed air;
(e) comparator means for receiving said sensing means output signal and generating an error signal representing the difference between the sensed value of said parameter and a desired value thereof, said comparator means having an adjustable control set point representing said desired value of said parameter;
(f) means for transmitting to said comparator means a reset signal for varying said set point as a function of the position of said inlet guide vanes in accordance with a predetermined reset schedule; and
(g) control means for receiving said error signal and transmitting to said surge bleed means a control signal to operate said surge bleed means, the magnitude of said control signal having, relative to the magnitude of said error signal, a proportional component and an integral component,
whereby said minimum flow rate though said duct means is essentially constant regardless of the compressed air supply demand of the pneumatically-powered apparatus.

*2 194特許のクレーム4(下線部は争点である。)
4. A method of utilizing a compressor of a gas turbine engine to power pneumatically-operated apparatus having a variable inlet air flow demand, the compressor having adjustable inlet guide vanes, said method comprising the steps of:
(a) interconnecting a supply duct between the compressor and the pneumatically-operated apparatus;
(b) flowing discharge air from the compressor through said supply duct to the pneumatically-operated apparatus;
(c) maintaining an essentially constant minimum supply duct flow rate, despite fluctuations in the flow rate of air received by the pneumatically-operated apparatus, by exhausting air from said supply duct in response to variations therein of the value of a predetermined, flow-related parameter, the flow rate of air exhausted from said supply duct being related to the magnitude of said parameter value variations in both a proportional and time-integral manner, said maintaining step including the steps of providing an outlet passage from said supply duct, positioning in said outlet passage a surge bleed valve operable to selectively vary the flow of air outwardly though said outlet passage, generating an integral control signal in response to said variation in said flow-related parameter, generating a proportional control signal in response to said variations in said flow-related parameter, and simultaneously utilizing said integral and proportional control signals to operate said surge bleed valve;
(d) adjusting the relationship between the magnitudes of said integral and proportional control signals and the magnitudes of said parameter variations as a function of the position of the inlet guide vanes.

*3 Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 535 U.S. 722 (2002)
*4 Honeywell Int’l Inc. v. Hamilton Sundstrand Corp., 166 F. Supp. 2d 1008 (D. Del. 2001).
*5 高岡亮一著 アメリカ特許法実務ハンドブック第2版p327 中央経済社
*6 Deering Precision Instruments, L.L.C. v. Vector Distribution Systems, Inc., 347 F.3d 1314 (Fed. Cir. 2003),
*7 Ranbaxy Pharmaceuticals, Inc. v. Apotex, Inc., 350 F.3d 1235 (Fed. Cir. 2003)
*8 米国特許法第112条パラグラフ4は以下のように規定する。
「複合従属形式のクレームは、その従属する特定のクレームの全ての限定事項に拘束されるものとする。」(ヘンリー幸田著 米国特許法逐条解説(第3版)p104 社団法人発明協会
*9 Bloom Eng'g Co. v. N. Am. Mfg. Co., 129 F.3d 1247, 1250 (Fed. Cir. 1997)、Wahpeton Canvas Co. v. Frontier, Inc., 870 F.2d 1546, 1553 (Fed. Cir. 1989)、及びHartness Int'l Inc. v. Simplimatic Eng'g Co., 819 F.2d 1100, 1108 (Fed. Cir. 1987)


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