CAFC Update15

2004.12.20 

INSITUFORM TECHNOLOGIES, INC.,
Plaintiffs-Cross Appellants,
vs.
CAT CONTRACTING, INC.,
Defendants-Appellants,

禁反言の推定はFesto最高裁判決で判示された第2の要件に従い反駁できる

1.概要

 Insituform Technology, Inc.,等(以下、原告)は地下に埋設された損傷パイプを取り出すことなく修復する技術に関するU.S. Patent No. 4,366,012(以下、012特許)を有しており、CAT Contracting, Inc.,等(以下、被告)の使用するイ号工程が012特許のクレーム1*1を侵害するとして、1990年テキサス州南地区連邦地方裁判所に訴えた。本事件は長期にわたり、複雑な裁判、控訴、及び交差上訴(cross-appeal)を経て14年が経過した*2。原告は、被告のイ号工程が均等論上012特許のクレーム1を侵害していると主張した。一方、被告は原告が012特許の審査過程においてクレーム1を減縮補正していることから、禁反言が生じ均等論を主張することはできないと反論した。
 第3回目の控訴審では、Festo事件においてCAFCが2000年になした判決*3(コンプリート・バー: 特許性に関連してクレームを減縮補正した場合は、その補正されたクレームの構成要素に対する均等論の適用が完全に妨げられる)に従い、均等論は認められず非侵害との判決がなされた*4。この決定に対し原告は最高裁判所に事件移送命令を申請した。最高裁判所は同時期になされたFesto事件最高裁判決*5で判示されたフレキシル・バー(特許性に関して減縮補正があった場合でも、下記に述べる3要件のいずれかを原告が証明することにより、禁反言の推定を論駁でき柔軟に均等論を主張し得る)に従い、CAFCがなした決定を無効とした*6
 Festo最高裁判決では、特許権者が、減縮補正の根本的理由が、均等物に対してほとんど関係がないことを証明できれば、禁反言の推定が論駁でき均等論を柔軟に主張し得ると判示された。本事件では、原告が審査過程でなした減縮補正の根本的理由が、均等物であるイ号工程に対してほとんど関係がないのか否かが争点となった。CAFCは、原告が先行技術との相違を主張するためになした補正は、イ号工程とはほとんど関係がないことを立証できたと判断し、均等論下での侵害を認める支持判決をなした。

2.背景

(1)012特許の内容
 地下パイプには大きな応力がかかり、その結果パイプにひびが入る等の欠陥が生じる。過去に地下パイプを修復する方法として、損傷したパイプを掘り出し取り替える方法が知られている。012特許はパイプを掘ることなく地下のパイプを修復するプロセスに関する*7。012特許のクレーム1は、地下パイプに挿入するライナーを製造する方法である。ライナーは、外層の不浸透フィルム、及び、内層の樹脂吸収用フェルト層からなる。外層不浸透フィルムの開口部を通じて、ライナーの内部に吸引器(vacuum)が使用される。開口部の外には吸引用キャップが設けられ、吸引器を吸引用キャップの他端に接続する。吸引器を用いることにより、内層と外層との間の空気が除去されて真空となる結果、ライナー内部は樹脂で含浸(impregnate)される。吸引を終えた場合、外層の不浸透フィルムの開口部は密閉され、吸引用キャップはライナーの次の開口部で再び用いられる。これを繰り返すことにより、ライナー全体に樹脂が含浸されることになる。
(2)審査経過
 審査官は先行技術(Everson U.S. Patent No. 4,182,262)を理由に出願を拒絶した。原告は出願時のクレーム1-4*8を適宜補正することにより拒絶を克服し012特許が成立した。このとき、012特許のクレーム1には、出願時のクレーム1にはない文言“a cup”が追加された(なお、出願時のクレーム4には記載されていた)。
(3)訴訟経過
@第1回控訴審、第2回控訴審
 原告は被告の使用するイ号工程が012特許のクレーム1を侵害するとして、1990年テキサス州南地区連邦地方裁判所に訴えた。訴訟は長期にわたる。第1回目の控訴審差し戻し命令において、地裁は被告のイ号工程は原告のクレーム1を均等論上侵害すると判断し*9、被告はこれを不服として控訴した。第2回目の控訴審においてCAFCは、審査経過による禁反言は、原告が均等論を主張することの障害にならないと判断し地裁の判断を支持する判決をなした*10
A第3回控訴審
 第3回目の控訴審において、被告はCAFCが2000年になしたFesto判決*3(以下、FestoI)の適用を求めた。すなわち、FestoIにおいて、CAFCは特許性に実質的に関連するクレームの減縮補正は、その補正されたクレームの構成要素に対する均等論の適用を完全に妨げることになる(所謂コンプリート・バー)と判示した。CAFCは、012特許の審査経過の再検討後、FestoIに従い、原告が012特許のクレーム1について減縮補正をなしたと判断した*4。つまり、出願当初のクレーム1は吸引用カップの数は限定されていなかったが、先行技術を回避するために、補正により「単一のカップ(a cup)」と限定されたことから、減縮補正に該当すると判断された。かかる減縮補正により、CAFCは、原告はこのクレームの構成要素に対していかなる範囲の均等をも主張することができず、複数のカップを用いるイ号工程は均等論のもと侵害に該当しないと判断した*4。CAFCは、FestoIで判示されたコンプリート・バーを適用し、地裁の最終決定を覆した。原告は最高裁に事件移送命令を申請した。
B最高裁判決
 最高裁判所は同時期になされたFestoI(コンプリート・バー)の決定を無効としCAFCに対し差し戻し判決*5(以下、FestoII)をなした。FestoIIにおいて、最高裁はCAFCがなしたコンプリート・バーを破棄し、フレキシル・バーを採用した。つまり、審査経過において特許性に関して減縮補正があった場合でも、下記の3要件のいずれかを原告が証明することにより、禁反言の推定を論駁でき柔軟に均等論を主張し得ると判示された。その3要件は以下のとおりである。
i)均等物が出願時に予測不可能(unforeseeable)であること
ii)減縮補正の根本的理由(rationale)が均等物に対してほとんど関係(tangential relation)がないこと
iii)争点となる置換物を特許権者が記載できなかった合理的理由があること*9
 最高裁判所はFestoIIに従い、CAFCがなした第3回目控訴審の決定を無効とし*6、CAFCに差し戻し判決をなした。本事件は第4回目の控訴審となる。

3.CAFCの争点

原告の減縮補正の根本的理由と、均等物であるイ号工程との関係
 本事件では、FestoIIにおける第2の要件の成否が問題となった。すなわち原告が、減縮補正の根本的理由が均等物であるイ号工程とほとんど関係がないことが立証できれば、均等論を主張し得る。
 被告は、出願時のクレームはカップ及びその数についての限定がなかったところ、先行技術を回避するために「単一のカップ(a cup)」を追加する補正を行ったことから、禁反言が推定されると主張した。そして、この禁反言の推定により、原告は複数カップの使用を放棄したものとみなされ、複数のカップを用いるイ号工程は均等論上侵害に該当しないと主張した。
 これに対し原告は、かかる推定は反駁できると主張した。その理由として、単一カップ工程としたクレーム1の減縮補正の根本的理由は、均等物(イ号工程の複数カップ工程)に対して全くというほど関係がないことを挙げた。特に原告は、補正の理由は、ライナーチューブの遠端にある単一の吸引器を開示した先行技術を回避するものであって、その補正は樹脂近くに複数のカップを置くイ号工程と全く関係がないと主張した

4.CAFCの判断

減縮補正の根本的理由が、均等物であるイ号工程とほとんど関係がないことを、原告が立証できるか
CAFCは出願時のクレーム及び審査経過を検討した。出願時のクレーム*81には、カップ、その数及び位置、さらには吸引器の位置さえも記載されていなかった。クレーム1の従属クレーム2は、チューブ内部の樹脂が進行する方向において、吸引器が使用される旨が記載されており、従属クレーム3は、吸引される領域に向かって樹脂が含浸される点を記載している。カップの位置替え、及び開口部に使用されるカップを通じて吸引する技術を発明者が開示しているのはクレーム4だけであった。これら4つのクレームいずれも、先行技術を理由に拒絶された。
 この先行技術には、樹脂源と反対側のチューブ終端における単一の吸引源からの吸引を開示している。原告は、先行技術は、チューブ終端において吸引器を用いることから、非常に大きな吸引圧縮機が必要になると、その問題点を指摘した。そして、吸引源を樹脂近くの開口部(window)のカップ(a cup)を通じて繰り返し使用するよう、従属クレーム2-4をクレーム1に組み入れて補正した。これにより小さな吸引圧縮機の使用が可能となり、先行技術の問題点を解消したと主張した。
 CAFCは審査経過を検討した結果、原告の減縮補正の理由はチューブ終端にて吸引を行う先行技術との差異を出すためになされたものであって、複数のカップを用いた吸引を行うイ号工程とはほとんど関係がないと判断した。その理由として、原告は複数のカップを用いた吸引では、先行技術の問題を回避することはできないとは、全く述べておらず、また競業者がこの減縮補正により、複数のカップを用いた吸引を放棄したとは考えられないからであると述べた。
 CAFCは、原告がFestoIIにおける第2の要件、つまり原告が審査過程でなした減縮補正の根本的理由は、均等物であるイ号工程とほとんど関係がないことを立証したことから、イ号工程は均等論上クレーム1を侵害するとした地裁の判決を支持する判決をなした。

5.結論

 FestoIIに従い、原告が、減縮補正の根本的理由が均等物であるイ号工程とほとんど関係がないことを立証したことから、CAFCは、イ号工程は均等論上クレーム1を侵害するとした地裁の判決を支持する判決をなした。

6.コメント

 本事件ではFesto最高裁判所判決で判示された第2の要件の成否が問題となった。特許権者は均等論を柔軟に主張できる反面、この要件の立証義務は特許権者に課されるところ、原告特許権者は見事に禁反言の推定を論駁した。実務上、減縮補正を行う場合が大多数であることから、今後第2の要件の成否について争われるケースが増加すると思われる。本事件は、第2の要件「減縮補正の根本的理由が、均等物とほとんど関係がない(no more than a tangential relation)」が具体的に判示されたケースとして、十分参考になるであろう。

判決 2004年10月4日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/99opinions/99-1584.html


【注釈】

*1 012特許のクレーム1
1. A method of impregnating with a curable resin an inner layer of resin absorbent material disposed in an elongate flexible tube having an outer layer formed by an impermeable film, the method comprising the steps of
(1) introducing into one end of the elongate tube a mass of the curable resin sufficient to impregnate the entire resin absorbent inner layer of the tube,
(2) forming a window in the impermeable outer layer of the tube at a distance from said one end of the tube,
(3) drawing through the window a vacuum in the interior of the tube downstream of said one end by disposing over the window a cup connected by a flexible hose to a vacuum source which cup prevents ingress of air into the interior of the tube while the tube is being evacuated, the outer layer of the tube being substantially impermeable to air,
(4) beginning at or near the end at which the curable resin mass was introduced, passing the tube between squeezing members which force the resin to flow towards the region of vacuum application as the tube progresses through the squeezing members,
(5) when the resin reaches the vicinity of the region of vacuum application, removing the cup and sealing the window,
(6) providing another window in the impermeable layer of the tube downstream of the previously formed window,
(7) drawing through the new window a vacuum in the interior of the tube while progressively moving the tube through the squeezing members to force the resin to flow toward the new region of vacuum application, and
(8) repeating steps 5, 6, and 7, where necessary to impregnate the entire resin absorbent inner layer of the flexible tube.
*2 第1回目の控訴審:Insituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., 99 F.3d 1098, 1106-07 (Fed. Cir. 1996) (“Insituform I”).
*3 Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd., 234 F.3d 558 (Fed. Cir. 2000) (en banc) (“Festo I”).
*4 第3回目の控訴審:Insituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., 10 Fed. Appx. 871, 877 (Fed. Cir. 2001) (“Insituform III”)
*5 Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd., 535 U.S. 722 (2002) (“Festo II”). 
*6 Insituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., 535 U.S. 1108 (2002).
*7 技術概要は下記HPを参照されたい。
http://www.insituform.com/newsite/munsewers/mun_1_01.html
日本語サイト:http://www.insituform.gr.jp/index.html
*8 出願時のクレーム1-4
1. A method of impregnating a flexible tube comprising an inner layer of resin absorbent material and an outer layer in the form of an impermeable film, wherein the resin absorbent layer is impregnated with a curable resin by applying a vacuum to the inside of a flexible tube whilst the resin is brought into impregnation contact with the resin absorbent material, the impermeable film serving as a means to prevent ingress of air into the interior of the tube, whilst the impregnation process is taking place.
2. A method according to claim 1, wherein the resin is introduced into one end of the tube in a quantity calculated effectively to impregnate all of the resin absorbent material of the tube, and the vacuum is applied to the interior of the tube, downstream of the resin mass, so that the resin will tend to flow towards the vacuum application region.
3. A method according to claim 2, wherein the lining tube containing the mass of resin is fed through a pressure applying nip, such as may be defined by a nip roller, which, together with the movement of the tube, squeezes the resin in a direction towards the region of the application of the vacuum, at the same time flattening the tube and assisting in the even distribution of the resin.
4. A method according to claim 2, wherein the vacuum is applied through a window in the film in the wall of the tube by means of a cup applied to said window and connected to a source of vacuum by means of a flexible hose, whereby the cup can move with the tube during its movement relative to said nip, the cup being moved and applied to a position spaced downstream from the previous window, said previous window being sealed by means of a patch or the like, whereby the process is repeated for respective lengths of the tube until the entire tube length has been impregnated.
*9 Insituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., CA No. H-90-1690 (S.D. Tex. Dec. 31, 1996).
*10 Insituform Techs., Inc. v. Cat Contracting, Inc., 166 F.3d 688, 692 (Fed. Cir. 1998) (“Insituform II”).
*9 高岡亮一著「アメリカ特許法実務ハンドブック 第2版」中央経済社p317-18


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