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均等論による特許権の範囲

~特許請求の範囲に記載されていない事項~

2017.11.1 新井 景親

  特許権侵害は、原則的に、特許請求の範囲に記載された構成要件を全て満たした場合に認められます。しかし、構成要件を厳格に解釈した結果、特許権者の権利が不当に制限される場合を考慮し、例外的に、特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一な範囲(均等)まで特許権侵害が認められることがあります。2017年3月24日に、最高裁判所(以下、最高裁)は、特許発明に係るマキサカルシトール(角質を柔らかくする効果のある成分)の製法について、被疑侵害者が実施している製法(以下、イ号製法)が特許発明と均等であると判断し、特許権侵害を認めました(平成28年(受)1242号)。

1.意識的除外
 均等の認定には、5要件(最高裁判決、平成6年(オ)第1083号参照)を全て満たす必要があります。5要件には、被疑侵害者が実施している対象製品等が、特許出願手続きにおいて、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情があるか否かという要件(意識的除外)が含まれており、今回の最高裁判決では、イ号製法が意識的除外に該当するか否かについて判示しています。

2.最高裁の判断
 本件においては、特許発明の出発物質及び中間体におけるビタミンD構造はシス体であるのに対し、イ号製法のビタミンD構造はトランス体である点が異なりました。被擬侵害者は、前記ビタミンD構造がトランス体であることについては、特許請求の範囲及び明細書には記載されておらず、またトランス体について、特許権者は出願時に容易に想到することができたのであるから、特許権者は、トランス体については、意識的に特許請求の範囲から除外していると主張しました。
 判決は、出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないとしました。その上で、客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるとしました。
 そして、イ号製法は特許請求の範囲から意識的に除外されたものではなく、本件特許発明と均等であり、イ号製法の実施は本件特許権を侵害すると結論づけました。

3.考察
 特許請求の範囲から意識的に除外したと認定されるには、代替手段を権利者が認識していることを示す客観的表示が必要とされました。出願経過中に、新規性・進歩性を満たす為に補正を行い、先行技術を除外した場合を除けば、権利者の認識の客観的表示を証明することは、極めて困難になったと言わざるを得ません。自社が特許権を取得していない技術を含む製品を開発する場合、当該製品に近似した特許発明がないか事前に先行特許調査を行い、近似した特許発明が発見された場合には、開発予定品の技術を除外したことが表示されているか、慎重に確認する必要があります。

◆特許権侵害の成否について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。


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