*3 対抗要件としてのソフトウェア著作権登記
(1)ソフトウェア著作権登記の法的効果については、前回(第4号6頁)にご説明したところですが、ソフトウェア著作権を譲渡する場合において、その登記は第3者対抗要件としての意味を持ちます。そこで、今回はこの点について、ご説明したいと思います。
(2)条例27条は「登記を完了したソフトウェアについて、ソフトウェアの権利が譲渡された場合には、譲受人は、譲渡契約の正式締結後3ヶ月内に、ソフトウェア登記管理機構に対し登記申請をしなければならない。これを怠った場合、第3者の侵害活動に対抗できない。」と規定します。
 本件では、乙からMP1000A を譲り受けたC社の行為は条例30条6号に該当しますが、B社はA社との譲渡契約の正式締結後3ヶ月内に登記申請をしていませんから、結局、C社の侵害行為には対抗できないことになります。
(3)ところが、興味深いことは、人民法院は、B社はA社の副経理であった乙の侵害行為に対しても、登記がないことを理由に対抗できないという判断を示していることです。
 日本で同じ条文の解釈が問題になれば、「第3者」の意味を「登記がないことを主張できる正当な利益を有する者」というように制限的に理解し、乙のような存在は「第3者」に該当しないとして、登記がなしに法的責任を追及できるという判断が示される可能性が高いと思われます。
 しかし、この事案に関する人民法院の見解によれば、有償譲渡を受けた会社が登記を怠る限り、何人に対しても、法的責任を追及することができなくなりますから、譲受人にとって登記取得は非常に重大な意味を持つことになります。
(4)では、本件において、仮にB社が、譲渡契約の正式締結後3ヶ月を経過した時点で登記を怠っていたことに気付いた場合、その時点で登記申請をすることができるでしょうか。
 この点、条文に忠実に3ヶ月を経過すれば、登記することができないと解説するものがあります。(ヤン・チンチィ主編「最新知識産権案例精粋与処理指南」法律出版社 798頁)この見解にしたがえば、3ヶ月を経過して登記を怠っていたことに気付いた場合には、譲渡人に依頼して、譲渡契約を締結し直してもらい、新しい締結日から3ヶ月内に登記をするほかなくなります。しかし、もしその時点で譲渡人が好意的に協力してくれなかったり、精算されていたりすると、登記の途は閉ざされることになります。
 譲受人にとっての登記の重要性に鑑みると、このような結論は明らかに不当ですから、「3ヶ月」というのは一応の目安を示したものにすぎず、この期間経過後も登記ができなくなるわけではない、と解釈するのが妥当であると思います。
 しかし、このような見解は筆者の私見にすぎず、登記実務は3ヶ月ルールを厳格に遵守している可能性がありますから、譲渡契約後、直ちに登記をすることが安全であることはいうまでもありません。
*4 善意の第3者の保護
(1)B者からクレームを受けたC社は、B社に登記がないことを指摘するのではなく、C社が善意の第3者であったことを主張しています。そこで、仮にB社が譲渡契約の正式締結後の3ヶ月内に登記をしていた場合、C社が善意であったという事実が、B社の法的責任の追及にどのように影響するかを検討します。
(2)この点、条例32条1項本文は「ソフトウェアの占有者が、当該ソフトウェアが他者の権利を侵害するものであることを知らず、また合理的な理由なくして知らない場合には、その侵害責任は、当該権利侵害ソフトウェアの提供者が負う。」と規定しています。したがって、C社がMP1000AがB社の「権利を侵害するものであることを知らず、また合理的な理由なくしてこれを知らない場合(不知道或者没有合理的依据知道該軟件是侵権物品)」には、B社は原則としてソフトウェアの提供者である乙に対して法的責任を追及できるだけで、C社には追求できないことになります。
 もっとも、「権利を侵害するものであることを知らず、また合理的な理由なくしてこれを知らない場合」の意味は、私には理解できません。「合理的な理由なくしてこれを知らない場合には、善意だが重過失ある場合」も含まれることになりますが、こうした悪意者と同視できる者に保護を付与するのは適当ではないでしょう。「合理的な理由(合理的依据)」という表現を用いているところからすると、立法者の真意は善意無過失を表現したかったのではと推察されますが、そうであれば「合理的な理由により知らない場合(因合理的依据而無法知道)」と表現しなければならなかったように思われます。
(3)さて、善意者保護を図る条例32条1項本文に対して、条例32条1項但書は「但し、占有者が占有している権利侵害ソフトウェアを廃棄しなければ、ソフトウェア著作権者の権益を保護できない場合には、占有者は、その占有する権利侵害ソフトウェアを廃棄する義務を負い、これによって被った損害について、権利侵害ソフトウェアの提供者に求償できる。」と規定して、適法な譲受人保護とのバランスを図っています。
 したがって、善意の第3者であるC社は、B社に対して損害賠償や公開の謝罪といった法的責任(条例30条本文)を負担することはありませんが、C社が「占有している権利侵害ソフトウェア(MP1000A)を廃棄しなければ、ソフトウェア著作権者(B社)の権益を保護できない場合」には、C社は権利侵害ソフトウェア(MP1000A)廃棄する義務を負うことになります。
*5 A社に対する法的責任の追及の可否
 B社は、乙の侵害行為について、A社に対して、「企業法人は、その法的代表者およびその他職員の経済活動について民事責任を負う」と規定する民法通則43 条に基づいて、法的責任を追及することは可能であるように思われます。この点、乙についてすら法的責任の追及ができないのに、A社に対する追求が可能なのかという疑問が生じますが、A社は譲渡契約の当事者であって、「第3者」ではないことからすると、条例27条はA社に対する法的責任追及の障害にはならないと考えられるからです。
(以上)
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