CAFC Update5

2004.2.17 

ERICSSON, INC. and TELEFONAKTIEBOLAGET LMERICSSON,
and
ERICSSON COMPONENTS AB,
vs.
HARRIS CORPORATION, INTERSIL CORPORATION,
and
HARRIS CANADA, INC.,
争点以外の文言が補正された場合、
均等論における禁反言は推定されない


1.概要

 Ericsson, Inc等(以下、Ericsson)は、電話機へ電力を供給する装置に関するUS4,961,222特許(以下、222特許)を所有しており、Harris Corporation等(以下、Harris)を特許権の侵害であるとして東テキサス地裁に訴えた。陪審員は文言上の侵害には該当しないが、均等論上侵害となるとの評決をなした。しかし地裁は陪審員の評決を認めず、Harrisの非侵害とする判決(JMOL: Judgment as a Matter Of Law)をなした*1。Ericssonはこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは均等論上の侵害に該当するとして地裁の決定を差し戻した。

2.背景

(1)222特許の内容
 本発明は電話交換機と個人加入者電話機との間のインターフェースとして動作する加入者線インターフェース回路(SLIC: Subscriber Line Interface Circuit)であり、音声信号を送信するアンプにより費やされる遊休電力を軽減することを目的とする。この装置はアクティブモード(電話機が使用されている場合に、音声信号アンプが電話機に電力を供給するモード)と低電力スタンバイモード(電話機が使用されていない場合に、補助アンプが電話機に電力を供給するモード)とを切り替えることにより電力を保護する。

 クレーム1によれば、ループセンサ回路が、受話器が持ち上げられているか(オフフック)、受話器受けにあるか(オンフック)を検出する。ループセンサ回路はその信号を制御回路へ送り、制御回路は制御信号を音声信号アンプ及び補助アンプへ送る。

 ループセンサ回路がオフフックであると判断した場合、制御信号は音声信号アンプを稼働させ、補助アンプを非稼働とする。一方、ループセンサ回路がオンフックであると判断した場合、電力を要求する音声信号アンプが、受話器が持ち上げられて電話する場合にだけ電話器へ電力を供給するために、制御信号は音声信号アンプを非稼働とし、補助アンプを稼働させる

(2)Harrisを提訴
 Harrisは複数種のSLICを販売しており、問題となっているイ号装置は低電力スタンバイモードを備えている。Ericssonは1998年11月に222特許クレーム1及び2の侵害であるとして訴えた。

(3)地裁の判断
 地裁では、音声信号アンプが、「受話器が持ち上げられて電話する場合にだけ電話機へ電力を供給する」つまり「・・だけ電力を供給する(only supply power)」の文言が問題となった。陪審員は、Harrisのイ号装置は文言上の特許の侵害とならないが、均等論下での侵害となると結論づけた。そして350万ドルの損害賠償及び13万6千ドルのロイヤリティの支払いを求めた。

 しかしながら、地裁は陪審員の決定を認めずHarrisの非侵害とするJMOLを認めた。地裁は、オンフックにある場合、イ号装置の音声信号アンプが電話機に一定の電力を供給しているという点に着目した。つまり、イ号装置の音声信号アンプは3つのトランジスタ(QRA23-25)を有しておりこれらは、腐食(電流)を避けるために微量な電力を常時加入者線に供給しており、またcaller-ID(ナンバーディスプレィ)等のオンフック機能を可能にするために、一定の電力を電話機へ供給しているのである。

 一方、Ericssonの証人であるDr. Thomas Rhyneは腐食電流を防止するために供給される電力は微弱なものであり、オンフック時に供給される電力はほんの数秒にすぎないと証言し、争った。しかし、地裁は、クレームの文言がオフフックにあるときに「だけ電力を供給する」と記載されている以上、一定の電力を供給しているイ号装置は権利範囲に属さないと結論づけた

3.CAFCの争点

(1)均等論の適用があるのか
 クレームの文言は、音声信号アンプはオフフックにあるときに「だけ電力を供給するである。これに対しイ号装置の音声信号アンプは、基本的にオフフックにある場合電力を電話機に供給しないが、3つのトランジスタは電力を供給しており、またCaller-ID機能が作動する場合、一定の電力を供給する。文言上の侵害には該当しないが、均等論上権利範囲に属するのか否かが問題となった。

(2)一の構成要素中、争点以外の文言が補正された場合、Festoで判示された禁反言が推定されるか
 本事件の最大の争点は、Festo判決*2において確立した均等論における禁反言の推定適用がなされるか否かにある。Festo判決においては、審査段階において減縮補正がなされた場合、特許性に関する補正であるとの推定を受け、禁反言が推定(反論可能)され均等論の適用は無い。222特許においては、下記の補正が112条等の要件を満たすために行われた。

補正箇所
「電力を要求する音声信号アンプが、受話器が持ち上げられて電話する場合にだけ

電話器へ電力を供給するために、制御信号により音声信号アンプを有効的に非接続非稼働とし、補助アンプをアクティブに接続稼働させる。」
1.  . . . which, by the control signals effectively disconnects disables the speech signals amplifiers and actively connects enables the auxiliary amplifiers so that the speech signal amplifiers, which require power, only supply power to the telephone set when the receiver is off its cradle and a call can be made.

 争点である「だけ電力を供給する」は補正されていないが、一の構成要素であるクレーム節における他の文言が、特許性を理由に補正された。この場合、Festo判決に従い、禁反言が推定され均等論の適用がなされないのか否かが問題となった。

4.CAFCの判断

(1)イ号装置のトランジスタは音声信号アンプの一部ではない
 Harrisは、イ号装置の音声信号アンプはトランジスタQRA23-25を通じてオンフックにあるとき、常時電話機へ電力を供給していると主張した。そうすると「・・だけ電力を供給する」との文言と矛盾するので、地裁の判断は正しいと主張した。

 これに対し、Ericssonは、イ号装置のトランジスタQRA23-25により供給される電力が「だけ電力を供給する」という文言に矛盾しないということを示すための実質的証拠を提出した。「だけ電力を供給する」の主語は、音声信号アンプであり、音声信号アンプが電力を供給するのである。Harrisは、QRA23-25トランジスタは音声信号アンプ回路の一部と主張したけれども、Ericssonは、それらのトランジスタは単に音声信号アンプのオンオフをスイッチする制御回路の一部にすぎないと反論した。Ericssonはこれを証明するために以下の証拠を提出した。

@QRA23-25トランジスタが音声信号アンプを稼働・非稼働する制御回路の一部であることを示す専門家の証言

A問題となっているトランジスタを「シャットオフトランジスタ」と名付けたHarrisのエンジニアノート

B音声信号アンプを待機電力状態において「非稼働にされた」「電力をダウンされた」と記載したHarrisのデータシート

 以上の証拠により、CAFCは、これらの証拠はQRA23-25トランジスタにより供給されるいかなる電力も音声信号アンプによって供給されないとの陪審員の判断をサポートするのに十分であり、それゆえ「だけ電力を供給する」という文言に矛盾するものではないと結論づけた。すなわち、222特許のクレームは音声信号アンプが、オフフックにある場合にだけ電力を供給するものであるところ、Harrisの反論の根拠であるトランジスタは音声信号アンプの一部ではなく、またイ号装置の音声信号アンプもオンフックにある場合非稼働であり、クレームの文言に矛盾しないと結論づけた。

(2)特殊機能による電力供給が極めて短時間であり、それがオプションである場合、それは均等である
 Harrisは、Caller-IDのようなオンフック機能においては、加入者に電話がかかってきた場合、一定の電力が電話機に供給されるので、「・・だけ電力を供給する」の文言解釈上矛盾すると主張した。CAFCでは、文言上権利範囲に属さないが、これが均等論上権利範囲に属するか否か問題となった。

 Ericssonは係争物が、Caller-ID機能の間は電話機がオンフックにあるとき、たった4秒間だけアクティブモードに切り替えるとした証拠を示した。短期間のモードの変化は、Caller-ID機能をオンにしている加入者が電話を受ける時にだけ起こる。Ericssonの証人は、それは0.1%以下の時間であると主張した。

 CAFCは、Caller-IDの機能があったとしても、イ号装置の音声信号アンプは、受話器がオフフック位置にあるときにだけ、ほとんど電話機へ電力を供給しているので、そのような些細な相違は「だけ電力を供給する」という文言に矛盾するものではないと判断した。つまり、Caller-ID機能が動作している場合、音声信号アンプが電力を電話機へ供給するとしても、それは極めて短時間であり、またそれが加入者のオプションであることから、実質的にはオフフックにあるとき「だけ電力を供給する」ということに相違ないと判断した。

 このように、CAFCは、Caller-IDが使用されている場合でさえも、イ号装置とクレームされた発明とは本質的に相違せず、その結果均等論下での侵害になると判断した。

(3)一の構成要素中、争点以外の文言が補正された場合、均等論における禁反言は推定されない
 CAFCは、下記に述べる反対意見はあるものの、Festo事件において確立された禁反言の推定は適用されないと結論づけた。均等の議論は、争点である音声信号アンプがオフフックにあるときだけに電力を供給するか否かであり、それが補正の対象となった「稼働(補正前:アクティブに接続され)」または「非稼働(有効的に非接続とされ)」ではないからである。換言すれば、均等の議論は、音声信号アンプが、受話器がオフフックにあるときにだけ電話器へ電力を供給するかどうかに関し、この文言は一度も補正されておらず、それゆえFestoの推定に従うことはできないと判示した。つまり、クレームの一構成要素において、争点となる文言が存在し、その文言は補正されていないが、他の文言が補正されていたとしても、禁反言の法理は推定されない旨が判示された。

 以上のことから、CAFCは、上述した証拠は均等論下での侵害であるとした陪審員の評決をサポートするものであるとし、地裁の非侵害とするJMOLを差し戻した。

(4)反対意見:Festoにおける劇的な抜け穴を生じさせるものである
 以上のCAFCの判決に対し、判事の一人であるNewman判事は下記の反対意見を述べている。Newman判事は、特許のクレームは、均等の議論となる文言へ補正されており、それによって禁反言のFestoにおける推定を生じていると主張した。そして、Festo事件で判示された禁反言の推定が主張されている均等に関して、Ericssonによる反証がなされているか否かを決定すべきであると反論した。

 CAFCの他の裁判官は、禁反言の推定が生じていない(それゆえ反論される必要がない)と述べた。なぜなら「だけ電力を供給する」の文言は補正されていないからである。すなわち、CAFCは、電力の供給(均等が主張されている文言)は補正により制限されているけれども、これらの機能的文言は変わらないままであるので、Festoにおける禁反言の推定は生じないと支持した。

 しかしながらNewman判事は、補正は電力が電話機へ供給されるという状態を減縮したものであり、それにより反論可能な禁反言の推定を生じさせていると述べた。CAFCの決定は、電力供給に関連するこれらの文言は補正されているけれども、3つの文言「だけ電力を供給する(only supply power)」が補正されていないので禁反言及び禁反言の推定は生じていないと判断した。Newman判事は、これはFestoにおける劇的な抜け穴を生じさせるものであると批判した。

5.結論

 CAFCは、均等論下での侵害を認め、非侵害とのJMOLを地裁へ差し戻した

6.コメント

 Festo事件においては、減縮補正が審査段階でなされた場合、特許性に関する補正であると推定され、これにより禁反言が推定され均等論の主張はできない。しかし、以下に列挙された点を権利者が反証することにより、均等論がフレキシブルに主張できることが判示された。

@補正の理由が主張された均等物に対してほとんど関係がない場合

A均等物が出願時に予測不可能であった場合

B争点となっている置換物を特許権者が記載できなかったであろう合理的理由があるとき

 本事件は、特許の権利範囲を広げようとする均等論の法理と、それを制限する禁反言の法理との関係を、Festo判決後さらに明確にするものとして非常に興味深い。一のクレーム節に特許性に関する減縮補正がなされたが、それが均等論の争点に関するものではない場合、禁反言の推定はなされないと判示された。しかしながら、その補正が、争点の均等に関する文言に少なからず関連するのであれば、Festoの禁反言の推定が適用されるべきであるとの反対意見も、見逃せない。今後個別具体的な事件が他に争われることにより、この関係がより明瞭になるであろう。

 以下はNewman判事のコメントである。

CAFCは均等論に関してより明確な基準を追い求めており、おそらくFestoおける裁判所の決定においてそれを見つけた(特許性のための減縮補正は反論可能な禁反言の推定を生じる)。今この判例を明確にかつ統一的に適用する義務が我々にはある。もし補正されたクレーム節に補正されていない文言があり、均等論が議論となっているクレーム節に対する減縮補正がある場合、Festoの禁反言が適用されないというCAFCの判断を私は支持することが出来ない

判決 2003年12月9日

以 上
【関連事項】
判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/02opinions/02-1571.html

【注釈】
*1 Ericsson, Inc. v. Harris Corp., No. 4:98cv325 (E.D. Tex. July 11, 2002)
*2 Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co, Ltd., 535 U.S.. 722 (May 28, 2002)

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