CAFC Update7

2004.4.20 


SUPERGUIDE and GEMSTAR
vs.
DIRECTV, THOMSON, and ECHOSTAR*1

後に生じた技術が権利範囲に属するか


1.概要

 Superguide Corporation(以下、SuperGuide)は視聴者に番組スケジュールを提供するシステムに関するUSP4,751,578(以下、578特許)、USP5,038,211(以下,211特許)及びUSP5,293,357(以下,357特許)を所有しており、Gemstar Development Corporation(以下、Gemstar)に対し専用実施権を付与している。SuperGuide及びGemstarはこれら3つの特許権の侵害であるとしてDirecTV Enterprises, Inc等(以下、DirecTV)、Thomson Consumer Electronics(以下、Thomson)及びEchoStar Communication Corporation(以下、EchoStar)を相手取り、ノースカロライナ州西地区地裁へ訴えた。
 ノースカロライナ州西地区地裁は、被告DirecTV、Thomson及びEchoStarが578特許、211特許及び357特許を侵害するものではないとの判決をなした*2。しかしながら、CAFCは、非侵害との判断の基礎となっている地裁のクレーム文言解釈の一部に誤りがある事を理由に、地裁の判決を一部支持、一部差し戻しし、非侵害との判断を無効にし、本判決に従ってさらなる審理を行うよう命じた

 なお、本事件は争点が多数存在するため、GemstarとEchoStarとの間で争われた578特許の文言解釈に焦点を合わせて解説することとした。


2.背景

(1)578特許の内容
 番組ガイドはTV放送局が、視聴者にオンラインで番組スケジュールを提供するものである。従来、視聴者はこの情報をサーチすることはできず、TV画面に希望する情報が現れるまで待つ必要があった。本特許は、番組ガイドのサーチを可能とし、視聴者が希望する番組情報だけを画面に表示するものである。なお、このシステムはIPGまたはIPGs(Interactive electric Program Guides)と呼ばれている。578特許はIPGメモリーにおける記憶、及び、膨大な番組スケジュールの部分集合サーチについてクレームしている。

(2)578特許のクレーム1
 578特許のクレーム1*3の内容は以下のとおりである。
1.更新可能な情報を、スクリーンをもつTV上に電子的に、制御可能に表示する システム  であり以下の構成要素を含む
 (a)省略;
 (b)マイクロコントローラの指示に従い、規則的に受信されるTV信号(regularly received television signal)とマイクロコントローラにより生成された信号とを混合するミキサー(mixer)
 (c)マイクロコントローラからの指示を受信し、ミキサー及びTV局から無線周波数(RF:radio frequency)情報を受信し、その情報を、表示用TVへ送信されるビデオ信号に変換する無線周波数部
 (d)省略;

 なお、下記の解説では問題となった構成要素(b)及び(c)について検討しており、下線部の文言解釈が争点である。発明の概要は以下のとおりである。
 当該システムは、マイクロコントローラ、無線周波数部及びミキサーから構成され、マイクロコントローラは視聴者の指示に従い番組情報の部分集合を検索する。ミキサーは、マイクロコントローラから出力される信号(検索結果)と、無線周波数部から出力されるTV信号(Video Data)とを混合する。ミキサーはその混合した信号をビデオ信号へ変換し無線周波数部へ出力する。


3.CAFCの争点

出願後及び特許成立後に生じた技術が権利範囲に含まれるか
 争点は、「規則的に受信されるTV信号」、「ミキサー」及び「無線周波数情報」の文言解釈であり、これらがアナログ信号だけに限定されるのか、あるいはデジタル信号をも含むのか否かが問題となった。
 578特許は1985年に出願され、1988年に特許が成立した。申請時における80年代半ばにおいては、TV放送はアナログ信号により送信されており、デジタル信号による放送は一部研究機関によって開発段階にあるにすぎず、90年代になって初めて商用化された。DirecTV等のイ号システムはデジタル放送によるものであり、出願後に開発された新たな技術までもが578特許の権利範囲に属するのか否かが問題となったのである。

 なお、地裁は上記文言について以下のように解釈した。
 地裁は1985年に放送されていたTV信号はアナログ信号だけであると認めたうえで、「番組案内が使用されていないとき、受信されたTV信号は直接無線周波数部を通じてTVへ送信される」と記述した明細書の部分を根拠にして、「無線周波数情報」及び「規則的に受信されるTV信号」の文言はアナログ信号に限定されるべきである、換言すればデジタルのTV信号は含まないと述べた。すなわち、地裁は、「規則的に受信されるTV信号」が搬送波上で変調され、ケーブル/衛星システム等を通じて送信されるアナログ信号を意味すると結論づけ、「規則的に受信されるTV信号」は1990年代半ばに最新技術として理解されたデジタルTV信号を含まないと結論づけた。

 また、「ミキサー」は、マイクロコントローラから出力されるデジタル信号(この点は争いがない)と、無線周波数部から出力される信号(デジタル信号までをも含むのかが問題)とを混合する装置である。地裁は、文言上のクレーム範囲は特許が申請された時点でそれが理解されている意味に限定されるという理由により、無線周波数部からはアナログ信号が出力されると解釈し、「ミキサー」はこのアナログ信号と、マイクロコントローラから出力されるデジタル信号をD/A変換したアナログ信号とを混合する装置であると解釈した。


4.CAFCの判断

(1)クレームの文言を発明時における従来技術に限定していない限り、後に生じた技術もカバーする
 CAFCは、地裁が「規則的に受信されるTV信号」、「無線周波数情報」及び「ミキサー」の文言を解釈するにあたり、クレームの文言を最初に検討することにより分析を開始すべきであったと述べた。地裁の判断及び被告の主張は以下のとおりである。「規則的に受信されるTV信号」は1985年当時のTVにより規則正しく受信されていたTV信号の形式に言及しており、またデジタル信号を受信できるTVはその当時存在していなかったので必然的にデジタル技術は排除される。
 しかし、CAFCは、かかる議論を否定した。クレームの文言は問題となっている上記文言を特別な技術の形式に限定していないからである。つまり、クレームにはアナログ又はデジタル等の信号形式を特に明記しておらず、実際アナログ及びデジタルの文言はクレームのどこにも現れていないからである。

 また、CAFCは、地裁及びEchoStarが、問題となっているクレームの意味をアナログ技術に限定する根拠とした判例として、Kopykake事件*4を根拠とした点を誤りであるとした。Kopykake事件において問題となっている限定は食べ物に「スクリーン印刷」がなされる点を要求しており、イ号製品は「インクジェット印刷」を使用していた。このように問題点はクレームの文言「スクリーン印刷」が文言上「インクジェット印刷」を含むか否かである。明細書は明示的に「スクリーン印刷」を「通常の」または「従来存在していた」技術と限定していた。特に明細書では、「ここで用いられているスクリーン印刷の文言は従来のスクリーン印刷だけではなく、他の従来の印刷プロセス及び他の従来の手段をも含む。」と記述されていた。紙の印刷業界においては、インクジェットシステムは良く知られているが、食べ物に画像を印刷する観点からは従来の印刷プロセスではなかった。
 それゆえCAFCは、インクジェット印刷は発行時におけるクレームの文言によりカバーされないと結論づけたのである。しかしCAFCは、この判例は本事件とは関係がないと述べた。なぜなら、Kopykake事件において特許権者は明示的にクレームの文言を発明時における従来の技術に限定しているからである。これとは対照的に578特許はクレームの文言を発明時における従来技術に限定していない
 以上のとおり、クレームに何ら限定が加えられていないことから、「規則的に受信されるTV信号」及び「無線周波数情報」は、発明時におけるアナログ信号だけではなく、後に普及したデジタル信号をも含むと解釈された。

(2)法律は、出願人が明細書において全ての考えられる、また可能性のある未来の発明の実施例を記載することを要求するものではない
 また、CAFCは、ミキサーによって受信される「規則的に受信されるTV信号」は、明細書において「ビデオデータ」として記述されている点に着目し、「規則的に受信されるTV信号」が無線周波数部により直接的に受信される信号であるとは記述されていないと判断した。
 CAFCは、出願時から権利成立時までの技術背景について以下のように述べた。「ビデオデータ」はアナログ又はデジタルのどちらかで通信されるということに関しては、578特許の継続中に当業者に十分知られているということは争う余地がない。また1981年において最初のデジタルTV基準が作られたとき、システムはテレビ会議及びビデオテクストを提供するためにデジタルデータを用いていた。また1985年までに、電話方式用のデジタルビデオデータの送信用基準の開発が始まっていた。さらに1988年までに、つまり578特許が発行されたとき、ビデオ業界では、TVブロードキャスト用のデジタルビデオ基準を作るためのMPEG(Motion Picture Experts Group)を確立することについて、十分な関心があった。
 さらに、CAFCは、578特許の明細書に、特許権者がアナログ及びデジタルの信号に気づいていることを示す記述があると述べ、例えば、明細書にデジタル信号の送信の例を記述している点をあげた。その上で、特許権者がアナログ技術に限定する意図があったのなら、明示的にアナログの文言を用いることにより容易にそうできたであろうと述べた。
 以上のことから、CAFCは、578特許の記述された明細書には何らかかる限定を見つけることはできず、また明細書及びクレームがデジタルフォーマットでのビデオ信号を受信する「ミキサー」を排除する根拠はないとした。

 さらに、法律は、出願人が明細書において全ての考えられる、また可能性のある未来の発明の実施例を記載することを要求するものではないとの判例*5を挙げた。CAFCは、「規則的に受信されるTV信号」、つまりビデオデータが両方のフォーマットを含み、双方の技術を知る当業者がビデオのために使用できるとき、発明の範囲をアナログ技術に限定するという根拠はないとした。


5.結論

 以上のとおり、地裁における文言解釈に誤りがあったことから、他の特許の争点をも含め一部差し戻し、一部支持の判決をなし、非侵害との判断を無効にした


6.反対意見

 上記判決に対しCAFCの判事の一人であるMichel判事は以下のように反対意見を述べている。Michel判事は、他の判事が、「特許権者は明確にアナログ信号とデジタル信号との相違に気づいているので、特許権者は「規則的に受信されるTV信号」を容易にアナログに限定でき、そして彼らはそれをしていなかったのでデジタル信号をも含む」と述べた点に反論した。
 なぜなら問題は、文言解釈は素人に対する意味ではなく、特許の開示の文意において、その当時のTV技術における当業者にとって特別な意味を持っていたかどうかにあるからである。そしてMichel判事は、専門家の供述を本判決が反映していない点を述べた。
 DirecTV及びHughesの証人であるMartin Sperberは、「1985年頃において、当業者は「規則的に受信されるTV信号」という文言を、通常のTV放送局から送信されるアナログのNTSC(National Television System Committee)信号を意味すると考える。そして1985年において、TV業界における当業者は、これをデジタルの衛星信号を意味するとは解釈しないだろう。」と述べた。
 また、原告のGemstarの証人であるS. Merrill Weissは、「通常全てのTV信号はアナログ信号であり、1990年代半ばに、様々なシステムがデジタルTV信号を送信し始めたのである。」と述べた。
 Michel判事は、以上の専門家の供述から、1985年当時の当業者はクレームの文言を、当時一般に送信されていたアナログTV信号だけを意味し、後に開発され、後に送信されたデジタル信号は意味しないのであると述べた。しかも、デジタル信号技術は1980年中頃に他の技術者によって開発中にあったということは疑いがないが、本事件における特許権者はそのような信号を受信するシステムを開発していなかったのである。クレームされた発明は疑いもなく家庭用の商業製品であり、研究用ではない。また、1985年当時では家庭用受信機による受信はアナログ信号だけであるという背景も指摘した。
 以上のことからMichel判事は、文言上のクレームの範囲を、当時TV産業において使用されていない受信信号技術システム、換言すれば発明者らにより実施化が考えられていない技術、にまで広げることはできない、つまり、1985年に出願された578特許において記述され実行可能なもの以上の範囲にまで広げることはできないと反論した。


7.コメント

 本事件におけるCAFCの判決は近年のプロパテントの政策に沿って、権利範囲を拡大する方向に辿り着いた。反対意見において述べられているように、後に生じた技術までもが、権利範囲に含まれたという感が拭えない。いずれにせよ本事件のような問題を避けるためには、明細書作成の際、最先端技術を把握している発明者から背景技術情報及び現在開発中の最新技術情報までをも注意深く入手する必要があろう。
 Michel判事は、最後に近年のCAFCの文言解釈が、「素の(plain)」意味、「通常の(ordinary)」または「辞書の」意味に解釈される*6傾向にある点について警鐘を鳴らしている。Michel判事は、文言解釈はむしろ、関連する技術分野及び特許時の当業者の見地から決定されるべきであると述べた。なぜならこの傾向により、クレーム、明細書、または審査経過において明確な文言限定なしに、また発明者が現実になした発明にかかわらず、クレームの文言に対する可能な限りの最も広い範囲を付与するからである。

判決 2004年2月12日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/02opinions/02-1561.html


【注釈】

*1 当事者が多数であること及び当事者間の係争関係が複雑であることから省略して記載した。正しくは以下のとおりである。

SUPERGUIDE CORPORATION,
      Plaintiff-Appellant,
vs.
DIRECTV ENTERPRISES, INC., DIRECTV, INC., DIRECTV OPERATIONS, INC., and HUGHES ELECTRONICS CORPORATION,
                      Defendants/Third Party Plaintiffs-Appellees,
and
THOMSON CONSUMER ELECTRONICS, INC.,
                        Defendant/Third Party Plaintiff-Cross Appellant,
and
ECHOSTAR COMMUNICATIONS CORPORATION, ECHOSTAR SATELLITE CORPORATION, and ECHOSTAR TECHNOLOGIES CORPORATION,
                      Defendants/Third Party Plaintiffs-Appellees,
vs.
GEMSTAR DEVELOPMENT CORPORATION,
                 Third Party Defendant-Appellant.
*2 SuperGuide Corp. v. DirecTV Enters., Inc., 211 F. Supp. 2d 725 (W.D.N.C. 2002)

*3 578特許のクレーム1
1. A system for electronically controllably viewing updateable information on a television having a screen comprising:
 (a) a microcontroller including input/output interfaces, a microprocessor, and an updateable memory comprising at least a RAM, said RAM of said microcontroller being updateable via an electronic medium and storing updated information including at least television programming information;
 
(b) a mixer for mixing a regularly received television signal with the signal generated by the microcontroller in accord with instructions of said microcontroller;
 (c) an RF section for receiving instructions from said microcontroller and for receiving radio frequency information from the mixer and a television station and properly converting the information into video signals which may be sent to said television for viewing; and
 
(d) a remote control system, said microcontroller being controllable by said remote control system, for permitting a viewer of said television to direct said microcontroller to perform a search on at least said updated television programming information contained in said RAM of said microcontroller, a subset of at least said updated television programming information being output to said mixer so as to provide on the television screen television programming information desired by the viewer in a desired format.

*4 Kopykake Enters., Inc. v. Lucks Co., 264 F.3d 1377 (Fed. Cir. 2001)

*5 SRI Int’l v. Matsushita Elec. Corp. of Am., 775 F.2d 1121 (Fed. Cir. 1985) (en banc).

*6 Tex. Digital Sys., Inc. v. Telegenix, Inc., 308F. 3d 1193, 1202 (Fed. Cir. 2002). Iverness Med. Switz. GmbH v. Warner Lambert Co., 309 F.3d 1373,1378 (Fed. Cir.  2002)

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