1.概要
Gerald Pellegrini(以下、Pellegrini)はブラシレスモータ回路に関するU.S.Patent4,651,069(以下、069特許)を所有しており、069特許の侵害であるとしてAnalog
Device, Inc.(以下、Analog)をマサチューセッツ地方裁判所に訴えた。地裁では特許の非侵害とする略式判決*1がなされ、Pellegriniはこれを不服として控訴した。CAFCは、Analogが米国内で発明の構成部品の設計及び販売指示を行っているが、構成部品の製造及び販売は米国外で行われていることから、米国特許法第271条(f)(1)に規定する侵害に該当しないと判断し、地裁の決定を支持した。
2.背景
Pellegriniは069特許の発明者兼特許権者であり、この特許はブラシレスモータ回路に関する。AnalogはADMCチップと呼ばれる集積回路チップを開発及び製造している。2002年8月PellegriniはAnalogを069特許の直接侵害及び間接侵害であるとして訴えた。069特許の特定のクレームは、ブラシレスモータにおけるADMCチップ及びその他の部品の組み合わせからなっている。
ADMCチップはもっぱら米国外(アイルランド、台湾における製造会社)で製造されていることに争いはなく、また、ADMCチップのほとんどは米国外の顧客に販売され配送されている*2。
Pellegriniは、Analog本社は米国にあり、ADMCチップの製造、販売、設計等の指示は米国からなされているので、ADMCチップは「米国内もしくは米国外へ供給し、または供給せしめた」ものとみなされるべきであり、Analogは米国特許法271条(f)(1)での侵害に該当すると主張した。地裁はこの主張を拒絶し、非侵害との判断を求めるAnalogの略式判決の申し立てを認めた。Pellegriniはこれを不服として、CAFCに控訴した。
3.CAFCの争点
本社が米国内に存在し、米国内で発明の構成部品の設計及び販売指示等が行われているが、発明の構成部品の製造及び販売が米国外で行われている場合、米国特許法271条(f)(1)に規定する侵害に該当するか否か?
米国特許法271条(f)(1)は、以下のように規定している。
「特許発明の構成部品の全てまたは要部を、米国内もしくは米国外へ許可なく供給し、または供給せしめた者は、そのような構成部品が、全体もしくは部分的に組み立てられていないが、米国内で組み立てられるような状態にあり、もし米国内で組み立てれば特許権を侵害するものであるとき、侵害の責任を負うものとする*3。ただし、積極的に組み立てを示唆している場合に限る。
米国特許法271条(f)(1)は、1984年の法改正(Patent Law
Amendment Act of 1984)により追加されたものである。法改正以前は、Deepsouth事件*4で判示されたように、組み立て前の装置の部品をセットで販売したとしても、侵害に問われることはなかった。しかし、産業界からの批判が相次ぎ、米国特許法271条(f)(1)が追加され、特許製品を組み立てず、その部品をセットとして輸出する行為が侵害となることが明らかになった*5。
本事件では、Analogの本社は米国内にあり、製品の設計、開発、テスト、価格決定、及びオーダの受注及び販売指示等は、全て米国から行われている。その一方で、製品の製造及び組み立ては米国外の下請会社が行い、そこから米国外の顧客に配送されている。つまり、発明の構成部品は米国内に物理的に存在しないが、米国からの指示により米国外で構成部品が製造され、米国外の顧客に構成部品が配送されている。この場合に、米国特許法271条(f)(1)にいう「発明の構成部品を米国外へ供給または供給せしめた」ものとみなされるか否かが問題となった。
4.CAFCの判断
271条(f)(1)の文言は、訴えの部品の所在に焦点を当てているのであって、被告の所在に焦点を当てているのではない
CAFCは、この点について、
「AnalogはADMCチップを製造し、使用し、販売の申し出を米国でしておらず、また米国内へADMCチップを輸入していない。Analogはまた、米国内または米国外へADMCチップを供給しておらず、さらに米国内または米国外へADMCチップを供給せしめていない。271条(f)(1)における「供給または供給せしめ」は、部品の物理的な供給に言及しているのであって、単に販売等の指示の供給または会社における管理の供給に言及しているのではない。271条(f)(1)の文言は、訴えの部品の所在に焦点が当てられており、訴えられている侵害者に焦点を当てているのではない。」
と判示した。つまり、Analogは発明品の部品を供給せしめる指示を米国から与えていたかもしれないが、それらの部品は米国内に存在せず、米国外へ物理的に供給されていないので、米国特許法271条(f)(1)における侵害には該当しないと判断された。
5.結論
CAFCは、米国特許法271条(f)(1)に規定する侵害には該当しないとした地裁の決定を支持する判決をなした。
6.コメント
部品の設計、販売指示等を米国で行い、部品の製造、販売が米国外で行われた場合に、米国特許法271条(f)(1)に規定する侵害に該当するか否かが争われた初めての事件である。物理的に米国内にその部品が存在しそれを輸出しない限り、「供給」したとみなされないと判断された。日本ではこれに対応する規定として日本国特許法第101条が設けられている。本事件のように、部品を日本国内において「業として・・生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」がない限り日本国特許法第101条は適用されず、本事件と同様の判断がなされると考えられる。判例中に示されていたように*6、控訴原告人のPellegriniは少なくともマーケットとなりうる米国外の国にも特許出願をしておくべきであった。
判決 2004年7月8日
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