CAFC Update13

2004.10.20 

CARDIAC PACEMAKERS, INC.,
GUIDANT SALES CORPORATION, and ELI LILLY AND COMPANY,
Plaintiffs-Appellants,
and
ANNA MIROWSKI,
Plaintiff-Appellant,
s.
ST. JUDE MEDICAL, INC.,
PACESETTER, INC., and VENTRITEX, INC.,
Defendants-Cross Appellants.


 “Step of”を用いた方法クレームが特許法112条パラグラフ6の推定適用を受けるか

1.概要

 Cardiac Pacemakers, Inc.(以下、CPI)等はU.S.PatentNo.4,407,288(以下288特許)「埋込可能な心臓刺激装置及び刺激方法」の権利者であり、St.Jude Medical, Inc.等(以下、争点とSt.Jude)を特許権侵害であるとして、南地区インディアナ州連邦地方裁判所に提訴した。なった288特許のクレーム4は特許法112条パラグラフ6の適用を受ける結果、非侵害であるとした陪審員の評決が地裁で支持され、特許非侵害との判決がなされた*1。CPIはこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは、”Step of”を用いた288特許の方法クレームが特許法112条パラグラフ6の推定適用を受けると判断した地裁の判断を誤りとし、差し戻し判決をなした。

2.背景

 人間の心臓活動は心臓の筋肉に対する神経等を通じた複雑な刺激によりおこる。心臓不整脈はこのプロセスの異変によるものであり、心臓の動作が遅くまたは早くなる。このような心臓不整脈患者には適切な処置が必要とされる。訴訟の対象は、埋込可能な細動除去器(implantable defibrillators(以下、ICDs)である。ICDsは永久的に体に埋め込まれ、心臓の異常な動きを判断し、心臓の筋肉に適切な強さで刺激を与えて治療を行う。ICDs自体は1980年頃に開発されたが、本発明はそれに改良が加えられたものである。288特許は、継続して不整脈の状態を判断し、マルチモードを選択的に切り替えて治療を行う。例えば、ゆるい不整脈の場合、細動を治癒するため比較的穏やかなペースの電気ショックを与えるモードへ移行し、激しい不整脈の場合、早いペースでの電気ショックを与えるモードへ移行するようプログラムされている。

 CPIは288特許のクレーム4*2の侵害であるとして、St.Judeを連邦地裁に訴えた。侵害の争点となったポイントは以下のとおりである。
 A method of heart stimulation・・・the method comprising the steps of:
(a) determining a condition of heart from among a plurality of conditions of the heart;・・・
心臓刺激方法であって以下のステップを含む・・・
(a)心臓の複数の状態から心臓の状態を決定する

 地裁は、構成要素(a)は112条パラグラフ6におけるステップ+ファンクション(Step for〜ing+機能)形式であると判断した。米国特許法第112条パラグラフ6は、
「組み合わせにかかるクレームにおける構成要素は、具体的構造、材料、または行為を明記せず、特定の機能を果たすための手段または工程として表すことができ、かかるクレームは、明細書に記載された対応の構造、材料、ないし行為、またはそれらの均等物をその範囲として解釈される。」
と規定している*3。つまりクレームに具体的な行為(act)を記載することなく機能的な記載を認める代わりに、その権利範囲は明細書に記載された具体的な行為及びその均等物に限られるのである。地裁は、構成要素(a)は、明細書に記載された心臓の状態を決定するための特定処理及びこの処理に技術的に均等な技術だけをカバーすると判断した。そして、St.Judeのイ号方法は上記特定処理及びこれに均等な技術を用いていないことから、特許非侵害との判決がなされた。

3.CAFCの争点

Step ofを用いた方法クレームが特許法112条パラグラフ6の推定適用を受けるか?

 方法クレームを「Step for-ing+機能」により記載した場合は、特許法112条パラグラフ6の規定が推定適用される。一方上記形式以外、例えば「Step of-ing」で記載した場合であっても同規定が推定適用される場合がある*4本事件では、「Step of-ing」の形態で記述された構成要素(a)が、特許法112条パラグラフ6の推定適用を受け、心臓の状態を決定するための特定処理及びこの処理に技術的に均等な技術だけに限定されるのか否かが問題となった。なお、この特定処理は、「評価回路及びPDF(Probability density function)回路の出力を解析することにより不整脈を検出及び識別する」ことが明細書に開示されており、イ号方法は評価回路及びPDF回路並びにその均等物を用いていなかった。

4.CAFCの判断

the method comprising the steps of」が自動的に112条パラグラフ6の推定適用を受けることはない。クレームの形態が何であれ、クレーム解釈は明細書の記載に基づきなされなければならない

 地裁は、CPIが主張するように、「step for」が存在しないことを理由に112条パラグラフ6が推定されないと解釈するならば、心臓不整脈を検出するあらゆる方法をCPIに認めてしまうことになると述べた。そして地裁は、288特許は広い範囲をカバーしてしまうので、構成要素(a)は明細書に記載された心臓の状態を決定するための特定処理及びこの処理に技術的に均等な技術だけをカバーすると決定した。
 これに対し、CAFCは、地裁が特許法112条パラグラフ6を誤って適用したと結論づけた。その理由としてCAFCは、
「方法クレームは、必ず方法のStepを記載するものである。クレームのプリアンブル「the method comprising the steps of」は、自動的に112条パラグラフ6の形式に変更されるものではない。また、プリアンブルにおける「Step of」の使用によって、それに続く各構成要素がステップ+ファンクション形式であるとの推定を引き起こすこともない。」
と述べた。このように、原則として112条パラグラフ6の推定適用がなされないことを述べた上で、
「クレームの形態が何であれ、クレーム解釈は明細書の記載及び審査経過に基づきなされなければならない」
とする基本ルール*5を挙げて、地裁の解釈を修正するよう命じた。すなわち、クレーム4についての112条パラグラフ6による限定解釈が排除され、明細書及び審査経過に基づきイ号方法が「心臓の状態を決定するステップ」を備えるか否か地裁において決定するよう命じた。

5.結論

 CAFCは、”Step of”を用いた288特許の方法クレームが特許法112条パラグラフ6の推定適用を受けると判断した地裁の判断を誤りとした。そして、本判決に従ったクレーム解釈により侵害の有無を判断するよう差し戻し判決をなした。

6.コメント

 特許法112条パラグラフ6に並行して規定されているミーンズ+ファンクション(means for〜ing+機能)形式の解釈については多数の判例が蓄積されている*7本事件では、ステップ+ファンクション形式でない方法クレームが特許法112条パラグラフ6の推定適用を受けるか否かが争われた。判決では、クレーム4が「Step for」を用いていないことから、112条パラグラフ6の推定適用を受けず、またそのクレーム解釈は明細書及び審査経過に基づきなされなければならないと基本原則に則った判断がなされた。
 Step for」を用いていないが、同条の推定適用を受けた事件も存在する*6すなわち、各ステップが、「行為(act)」ではなく「機能(function)」によって記載されている場合、同条の推定適用を受ける。
例えば、「reducing the coefficient of friction・・(摩擦係数を減じるステップ)」*8及び「raising the PH・・(PHを引き上げるステップ)」*9各処理が機能的な記載であり、具体的にどのような行為(act)により処理されるのかが記載されていない。これらの場合は明らかに、112条パラグラフ6の推定適用を受ける。しかしながら、本事件では構成要素(a)「心臓の状態を決定する」が「行為」であるか「機能」であるかまで議論されることなく地裁の判断が退けられた。
 なお、本事件は288特許の有効性(非自明性要件103条及びベストモード要件112条パラグラフ1)、損害賠償額及び存続期間の延長についても争われたが紙面の都合上その内容を割愛した。

判決 2004年8月31日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/02opinions/02-1532.html

【注釈】
*1 Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Medical, Inc., NO. IP 96-1718-C H/G, 2000 U.S. Dist. LEXIS 17352 (S.D. Ind. Nov. 29, 2000) (Claim Construction); Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Medical, Inc., NO. IP 96-1718-C H/G, 2002 U.S. Dist. LEXIS 14767 (S.D. Ind. July 5, 2002) (Amended Final Judgment).

*2 288特許のクレーム1及びクレーム4は以下のとおり。

1.  A method of heart stimulation using an implantable heart stimulator capable of detecting a plurality of arrhythmias and capable of being programmed to undergo a single or multi-mode operation to treat a detected arrhythmia, corresponding to said mode of operation the method comprising the steps of:

(a) determining a condition of the heart from among a plurality of conditions of the heart;

(b) selecting at least one mode of operation of the implantable heart stimulator which operation includes a unique sequence of events corresponding to said determined condition; and

(c) executing said at least one mode of operation of said implantable heart stimulator thereby to treat said determined heart condition.

4.  The method of claim 1, wherein at least one mode of operation of said implantable heart stimulator includes cardioversion.

*3 ヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説 第3版」社団法人発明協会p104

*4 CCS Fitness Inc. v. Brunswick Corp., 288 F.3d 136, 62 USPQ2d 1664 (Fed. Cir. 2002), USPTO Manual of PATENT EXAMINING PROCEDURE 8th Edition 2181

*5 Kinik Co. v. U.S. International Trade Comm'n, 362 F.3d 1359, 1365 (Fed. Cir. 2004) ("クレームの文言は明細書及び審査経過で用いられた事項を含めた意味及び範囲を有する"); Multiform Desiccants, Inc. v. Medzam, Ltd., 133 F.3d 1473, 1478 (Fed. Cir. 1998) ("技術的用語を理解するもっとも有用なソースは明細書及び審査経過である。"); Grain Processing Corp. v. American Maize Products Co.,

*6 Seal-Flex, Inc. v. Athletic Track and Court Construction, 172 F.3d 836, 850, 50 USPQ2d 1225, 1234 (Fed. Cir. 1999)

*7 Cole v. Kimberly-Clark Corp. 41 USPQ 2d 1001(CAFC, 1996), Wanner-Jenkinson v. Hilton Davis Chemical, 41 USPQ 2d 1865(1997), Med. Instrumentation & Diagnostics Corp. v. Elekta AB, 344 F.3d 1205 (Fed. Cir 2003)

*8 In re Roberts, 470 F.2d 1399, 176 USPQ 313(CCPA 1973) USPTO Manual of PATENT EXAMINING PROCEDURE 8th Edition 2181

*9 Ex parte Zimmerley, 153 USPQ 367(Bd. App. 1966) USPTO Manual of PATENT EXAMINING PROCEDURE 8th Edition 2181


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