CAFC Update14

2004.11.23 

POLY-AMERICA, L.P.,
Plaintiff-Appellee,
vs.
GSE LINING TECHNOLOGY, INC.,
Defendant-Appellant

単一の経済ユニットとして機能しているとしても、非独占ライセンシーの
損害に基づく逸失利益をライセンサーに補償することはできない

1.概要

 Poly-America, L.P.(以下Poly-America)は、U.S. Patent 5,763,047(以下047特許)及びU.S. Patent5,804,112(以下、112特許)の特許権者である。047特許はゴミ埋め立て地用の多層ライナー(裏当て)に関し、112特許はそのライナーを製造する方法である。2000年6月Poly-AmericaはGSE Lining Technology, Inc.(以下、GSE)を特許権侵害で訴えた。地裁はGSEが112特許及び047特許を故意に侵害していると判断し、GSEに対し逸失利益として約7百万ドル、適正ロイヤリティとして約26万ドルをPoly-Americaへ支払うよう命じた*1。GSEは逸失利益の算定を不服としてCAFCへ控訴した。地裁での逸失利益の算出は、特許権者Poly-Americaと実質上単一の経済ユニットとして機能している非独占ライセンシーPoly-Flexの販売損失に基づきなされた。CAFCはPoly-America及びPoly-Flexが異なる独自性及び機能を有する別会社であると認定し、またPoly-Flexが非独占ライセンシーであること等を理由に、特許権者には逸失利益が認められないと判断し、差し戻し判決をなした。

2.背景

 Poly-Americaは、ゴミ埋め立て地用の多層ライナーに関する047特許及び112特許の特許権者である。これらは1996年4月3日に出願され1998年に成立した。本特許にかかる多層ライナーは、傾斜面での保持能力を高めるべく押出形成された2枚の外層と、これらに挟まれた平滑層とから構成されている。なお、047特許*2は多層ライナー、112特許はそのライナーを製造する方法である。Poly-Americaと密接な関係が認められる姉妹会社Poly-Flexは非独占ライセンスを得て、特許製品の製造・販売を行っていた。
 2000年6月Poly-AmericaはGSEを特許権侵害でテキサス連邦地方裁判所に訴えた。地裁は112特許及び047特許の有効性を認めた上で、GSEがこれらの特許を故意に侵害していると判断し、GSEに対し逸失利益(lost profit)として約7百万ドル、適正ロイヤリティ(reasonable royalty)*3として約26万ドルをPoly-Americaへ支払うよう命じた。GSEは逸失利益の算定を不服としてCAFCへ控訴した。

3.CAFCの争点

 単一の経済ユニットとして機能する非独占ライセンシーの損害に基づき、逸失利益がライセンサーに補償されるか
 被告であるGSEは、Poly-Flexは原告Poly-Americaの姉妹会社ではあるが、独占的ライセンスを有さないことから侵害による損害を得る権利を有さないと主張した。つまり、地裁がPoly-AmericaとPoly-Flexとを単一の経済ユニットとして取り扱い、GSEの販売によってPoly-Flexが被った販売損失に基づく逸失利益をPoly-Americaに誤って認めたと主張した。
 一方、原告Poly-Americaは、Poly-Flexと共同で、製造、マーケティング及び販売について単一の経済ユニットとして、機能していると反論した。また、Poly-Americaは、Poly-Flexとのライセンス契約において、
「少なくとも両者間において、Poly-Americaは047特許及び112特許の侵害によりPoly-Flexに生じた損害を回収する権利を有する。」
と規定されている点を主張した。
 つまり、原告ライセンサーPoly-Americaと非独占ライセンシーPoly-Flexとが実質上一体となって特許製品の製造・マーケティング・販売を行っており、侵害行為により非独占ライセンシーPoly-Flexに損害が発生した場合、特許権者Poly-Americaにその逸失利益が補償されるか否かが問題となった。なお、ライセンサーPoly-Americaは現実には特許製品の販売を行っていない。

4.CAFCの判断

 独自性及び機能が異なる別会社である場合、ライセンシーの損害に基づく逸失利益はライセンサーには補償されない
 CAFCは、Poly-America及びPoly-Flexが、ライナーの製造及び販売において共同した2つの存在の如く利益を分かち合っているように見えると述べた。しかし、特許権者にライセンシーの逸失利益を認めるだけの関係は存在しないと認定した。その理由として、Poly-America及びPoly-Flexは共通する親会社を有するが、単なる一会社の一部門ではなく別会社であり、親会社は各会社のゴール及び目的に沿うよう会社の独自性及び機能を設定していることを挙げている。このようにCAFCは独自性及び機能が異なる別会社である場合、ライセンシーの損害における逸失利益はライセンサーであるPoly-Americaには補償されないと判断した。
 また、CAFCは、Poly-AmericaとPoly-Flexとの間のライセンス契約における、「Poly-Americaが特許の過去の侵害によりPoly-Flexに生じた損害を回収する契約上の権利を有する」の規定はこの状況を変えるものではと判断した。その理由として、
「ライセンシーは一般に、ライセンスが独占的なものでない限り、損害賠償を請求できない」
と判断した過去の判例*4を挙げた。このライセンス契約においては、明確に非独占ライセンスと規定されており、これは最低限のライセンスだけを受けるものであって、特許法のもと、侵害により被った損害に基づく逸失利益を非独占ライセンシー自身が回収する権利はないからである*5。そして、CAFCは、
GSEの侵害に対してPoly-America が何ら損害を被っていない場合に、Poly-Flexとの私的契約の元でPoly-Americaに対する逸失利益を認めることは、人工的にPoly-Americaのために逸失利益を作り上げることになる。」
と述べ、Poly-Americaへの逸失利益を否定した。

5.結論

 地裁は、非独占ライセンシーであり、別会社であるPoly-Flexの販売損失に基づき、特許権者Poly-Americaの逸失利益を認めたことから、CAFCはその決定を取り消した。またCAFCは、地裁に対しGSEの侵害によりPoly-Americaに逸失利益があったか否かを判断するよう命じ、またその逸失利益がないとすれば、Poly-Americaが受けるべき適正ロイヤリティを決定するよう地裁に差し戻した。

6.コメント

 ライセンサーと非独占ライセンシーとが実質上一体化し、協調して特許製品の製造、販売等を行っており、侵害行為により当該ライセンシーに損失が生じた場合でも、両者にそれぞれの独自性及び機能が認められない限り、ライセンサーにその逸失利益が補償されないと判断された。特許権者Poly-Americaは特許製品を販売していないため、逸失利益は認められず*6、7百万ドルは夢と化し、損害賠償額は適正ロイヤリティである26万ドルだけとなった。
 なお、本事件は112特許及び047特許の有効性(102条(b)on sale bar要件及び非自明性要件103条)についても争われたが紙面の都合上その内容を割愛した。この点CAFCは特許有効とした地裁の判断を支持している。

判決 2004年9月14日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/04opinions/04-1022.html

【注釈】

*1 Poly-America, L.P. v. GSE Lining Tech., Inc., No. 3:00-CV-1457-D (N.D. Tex. Aug. 13, 2003)
*2 047特許のクレーム1
1. A blown-film textured liner, comprising:
a) a first layer of thermoplastic material having an upper flat surface and a lower flat surface;
b) a second layer of thermoplastic material bonded to said upper flat surface of said first layer of thermoplastic material, said second layer of thermoplastic material comprising a random distribution of peaks and valleys, wherein said second layer is not coextensive with said first layer; and
c) a third layer of thermoplastic material bonded to said lower flat surface of said first layer of thermoplastic material, said third layer of thermoplastic material comprising a random distribution of peaks and valleys.
3 適正ロイヤリティは米国特許法第284条パラグラフ1に規定されている。
 「・・・ただし、その賠償額は、いかなる場合においても侵害者による発明の実施に対する適正なロイヤリティに、裁判所で定めた利子及び経費を加えた額を下回ってはならない。」ヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説 第3版」社団法人発明協会p284-285
 この適正ロイヤリティに基づく損害賠償は、特許権者が逸失利益を立証できない場合に請求するものであり、日本国特許法第102条第3項に規定するいわゆる実施料相当額の考えに近似している。適正ロイヤリティの算定は、過去のライセンス実施料の実績、業界の標準的水準、仮想的交渉に基づく推定額(Hypothetical negotiation:高額な賠償額が認定されることが多い)等に基づき算出される。
4 Rite-Hite Corp. v. Kelley Co., Inc., 56 F.3d 1538 (Fed. Cir. 1995), Ortho Pharm. Corp. v. Genetics Inst., Inc., 52 F.3d 1026, 1032 (Fed. Cir. 1995) 
5 Rite-Hite, 56 F.3d at 1552
6 「特許権者による逸失利益の回復が、特許権者が現在も継続して特許製品を販売している状況にだけ限られるわけではないということは事実である。しかし、逸失利益を含む損害を請求するためには、特許権者は製品を販売していたことが必要である(係る製品の利益は侵害者の販売により失われる)。」Rite-Hite Corp. v. Kelley Co., Inc., 56 F.3d 1538, 1548-49(Fed. Cir. 1995)


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