CAFC Update17

2005.2.21 

NTP, INC.
Plaintiff-Appellee,
vs.
RESEARCH IN MOTION, LTD
Defendant-Appellant

国境を越えた侵害行為に対するネットワーク発明の権利解釈

1.概要

 NTP, Inc.(以下、原告)は、既存の電子メールシステムに、無線ネットワークを統合し、モバイルユーザに無線ネットワーク下でpush型での電子メールの転送を行うシステムであるU.S. Patent5,436,960(以下,960特許)等5件の特許を有している。Research In Motion, Ltd.(以下、被告)は、既存の電子メールがメールサーバに到達した場合にユーザのハンドヘルド端末に、無線ネットワークを介して電子メールメッセージを転送するBlackBerryシステムを提供している。
 原告はこれら被告のBlackBerryシステムが5つの特許を侵害するとして東地区バージニア連邦地方裁判所に提訴した。地裁は原告の訴えを認め、差し止めのほか、損害賠償として約5千3百万ドルを認めた*1
 被告は、地裁のクレームの文言解釈に誤りがあること及び被告のBlackBerryシステムにおいてメールを転送する装置がカナダに存在することから、米国特許法271条(a)が適用されず、特許の侵害には当たらないこと等を理由としてCAFCに控訴した。
 CAFCは、地裁の文言解釈の一部に誤りがあったこと、また、たとえ被告のBlackBerryシステムにおいてメールを転送する装置がカナダに存在するとしても、特許発明にかかるシステムの使用は米国内であるから、米国特許法271条(a)の適用は妨げられず、特許侵害に該当するとして地裁の判決を支持したことから、地裁の判決を一部差し戻し、一部支持する判決をなした。
 なお、以下では文言解釈についての議論は割愛し、米国特許法271条(a)にかかる議論に焦点を当てて解説する。

2.背景

(1)特許発明の概要
 従来の電子メールシステムは以下のように動作する。まず、ユーザは電子メールクライアント(Outlook(登録商標)等)を用いてメッセージを作成する。この作成された電子メールは送信者のコンピュータから送信者のISP(internet service provider)サーバへ送られる。送信者のホストコンピュータは受信者のISPメールサーバ及びその関連するIPアドレスを特定するためにDNS(domain name system)サーバを用いる。送信者のホストコンピュータと受信者のISPメールサーバとの通信が確立した場合、メッセージは、ISPサーバの受信者用メールボックスに保存される。受信者がISPメールサーバとの間で通信を確立することにより電子メールのメッセージが、受信者のコンピュータにダウンロードされる。このシステムは、受信者がメールサーバとの間で通信を確立し、そこからメッセージを引き出さない限り電子メールは配信されないのでpull型と呼ばれている。
 本発明は、この電子メールシステムの機能はそのままに、無線ネットワークを統合し、受信者のメールサーバに電子メールが到達した場合に、無線ネットワークを介して、受信者のハンドヘルド装置へpush型により電子メールを転送するシステムである。原告は1991年5月20日に出願を行い、1995年7月25日に960特許を成立させ、その後これに関連する継続出願を行い、U.S. Patent 5,625,670、5,819,172、6,067,451、及び6,317,592(以下、670特許、172特許、451特許、592特許)を取得した。
(2)被告のBlackBerryシステム
 被告はカナダオンタリオに本社を置き、BlackBerryシステムを販売している。BlackBerryシステムも、電子メールをpush型によりユーザのハンドヘルド装置へ無線ネットワークを介して転送するものである。具体的な仕組みは以下のとおりである。
 新しい電子メールが検出された場合、メールサーバから電子メールが読み出され、そのメッセージは暗号化された後にカナダに存在する被告のBlackBerry Reply装置に送信される。BlackBerry Reply装置は、無線ネットワークを介して受信者のハンドヘルド装置へ電子メールを転送する。
(3)地裁の判決
 2001年11月13日原告は被告が特許を侵害するものとして、東地区バージニア連邦地方裁判所に提訴した。訴えによると、BlackBerryシステム(ハンドヘルド装置、転送ソフトウェア、及びこれらに関連するネットワーク等)が、40を超えるシステム及び方法クレーム等*2を侵害しているというものである。被告はBlackBerryシステムのReply装置の物理的位置は、カナダであるので271条は適用されないと主張した。地裁は被告の主張を否定し、被告のBlackBerryシステムの差し止めを認め、さらに損害賠償として約5千3百万ドルを認めた。

3.CAFCの争点

ネットワーク発明を構成する一装置が外国に存在する場合に、直接侵害(米国特許法271条(a))が成立するか
 米国特許法271条(a)は直接侵害について規定している。
(a)本法に別段の定めがある場合を除き、米国内において特許の存続期間中に、特許発明を権限なく生産し、使用し、販売の申し出を行い、または販売した者は、特許を侵害したものとする。
 特許の地域的範囲は限定されており、271条(a)は、米国内において発生した特許侵害に対してのみ適用される*3。271条(a)が適用されない場合は、271条(f)(特許製品の部品を米国内で製造し、最終的な組み立てを海外で行うために輸出する行為が直接侵害となる)または271条(g)(特許された方法により製造されたものを輸入等する行為が直接侵害となる)が適用される。なお、間接侵害(寄与侵害)については271条(b)及び(c)に規定されている。
 被告は、イ号システムのBlackBerry Reply装置はカナダに存在するので、侵害活動の全てのステップが「米国内において」行われているという法定要件を満たさないと主張した。すでに説明したように、被告のReply装置は電子メールシステムにおける送信者のコンピュータから、BlackBerryシステムの無線ネットワークを介して受信者のハンドヘルドへ電子メールメッセージを転送及び配送処理を行うものである。一方原告は、Reply装置は960特許の構成要件「interface switch」,670,172及び451特許クレームの構成要件「interface」に該当すると主張した。
 すなわち、米国特許法271条(a)に「米国内において」と規定されているところ、クレームの構成要件「interface switch」の一部が物理的に米国外に存在する場合に、直接侵害が成立するか否かが問題となった。

4.CAFCの判断

被告装置の一部が米国外に存在するとしても、被告システムの制御及び使用による恩恵を米国内で受けることができる場合、米国内における使用に該当し271条(a)における直接侵害が成立する。
【結論】
CAFCは以下のように結論づけた。カナダに存在する被告のReply装置は、クレームの構成要件「interface switch」に該当する装置であるが、他の被告システムの装置は全て米国に存在し、被告システムの制御及び使用によるメリットは米国内で受けることができることから、CAFCは271条(a)の目的に添う被告システムの使用の位置は米国であると結論付け地裁の判断を支持した。被告が引用したDeepsouth事件*4に基づく被告の主張を否定した上で以下の理由により地裁の判断を支持した。
Decca事件】
CFACはその前身であるCCPA(Court of Custom and Patent Appeals)において判示されたDecca事件*5を引用した。この事件はDecca Ltd.(原告)が米国政府(被告)の使用する「オメガ」ナビゲーションシステムが特許を侵害するとして訴えたものである。このシステムは船及び飛行機の全地球測位システムとして用いられ、米国内にあるマスター制御ステーション、及びノルウェーを含む各地に位置するトランスミッターステーションから構成される。政府は本事件の被告がなしたように、クレームされたコンビネーション全体の装置が米国領域内で製造されまたは使用されたときにだけ特許侵害が成立するから、米国外にあるトランスミッターステーションの位置により侵害は成立しないと主張した。CCPAはかかる議論を否定した。その理由として、以下のように述べている。
ノルウェーステーションからの送信は、米国で制御されていた。具体的には、政府がこれらを確立し、ステーションからの信号を定期的に米国内で監視していた。さらに、米国内のステーションと、ノルウェーのステーションとの送信同期は全て米国で行われていた。換言すれば、ノルウェーステーションはノルウェーに存在するが、ノルウェーステーションからの信号を活用するナビゲータは、そのステーションを事実上「使用」しており、信号を受信できるどのような場所でもこれらを使用できるということは明らかである。」
 これにより、「オメガ」ナビゲーションシステムは271条(a)のもと米国内における「使用use」に該当する侵害行為であると判断した。
【本事件への適用】
 CAFCは、BlackBerryシステムはDecca事件における侵害システムに類似すると述べた。
 被告のReply装置は、クレームの一構成要件「interface switch」に該当しカナダに存在するが、他の被告システムの装置は全て米国に存在し、これらの制御は全て米国でなされ、また、被告システムの使用による恩恵は米国内で享受できることから、CAFCは被告システムの「使用」の位置(location)は米国内であると判断した。つまり、Decca事件におけるように、米国内において被告システムの制御が可能であること、さらに、被告システムの購入者及び顧客は米国内でその利益を享受できるから、特許法271条(a)にいう「米国内における・・使用」に該当し、直接侵害に該当すると判断し、地裁の判決を支持した。

5.結論

 被告システムを構成する一装置はカナダに存在するが、他の装置が米国に存在しシステムの制御が米国内でなされること及びその利益が米国内で受けることが可能であることから、米国内での使用であり米国特許法271条(a)にいう直接侵害に該当するとした地裁の判断を支持する判決がなされた。なお、一部文言解釈については誤りがあったことから一部差し戻し判決となった。

6.コメント

 本発明のようなネットワーク関連発明、またはビジネス関連発明は複数の装置がインターネット等を介して接続され、これら装置間での一連の処理について発明が成立することが多い。インターネットは全世界につながっているため国境を越えた侵害行為が必然的に問題となる。例えばクライアントコンピュータは国内に存在するが、サーバコンピュータが国外に設置されている場合、どのように特許権者が訴追すればよいかが問題となる。特許権者は間接侵害(寄与侵害271条(b)(c))を主張すればよいのか等数々の議論がなされている*6。本判決では、発明を構成する一装置が国外に存在するとしても、制御が国内で可能であり、使用者がその恩恵を国内で享受できるのであれば「米国内における特許発明の使用」に該当し、米国特許法271条(a)に規定する直接侵害が適用される点が明らかになった。ネットワーク関連発明及びビジネス関連発明等を所有する特許権者には追い風になる意義のある判決である。
 判決では960特許のシステム及び方法クレームについて議論されていたが、原告特許権者は抜け目なく、各装置、つまりユーザが用いるハンドヘルド装置及びソフトウェア等についても漏れなく権利化している。合計5つの特許に1000以上ものクレームが様々な形態で権利化されており、コンピュータ関連発明にかかる特許で訴訟に勝つためのクレームとして十分参考になる。

判決 2004年12月14日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/03opinions/03-1615.pdf

【注釈】

*1 NTP, Inc. v. Research in Motion, Ltd., No. 3:01CV767 (E.D. Va. Aug. 5, 2003)
*2 訴訟の対象となっているクレームは以下のとおり

Patent

Disputed claim --> Parental Lineage

'960

15 --> 11 --> 1

32 --> 28 --> 18

34 --> 18

'670

8 --> 4 --> 1

'172

199 --> 194

'451

28 -->26 --> 1

248 --> 247 --> 246

309 --> 308 --> 250

313 --> 311

317 --> 313 --> 311

'592

40 --> 25 --> 10 --> 4 --> 1

150

278 --> 232 --> 186 --> 171 --> 156 --> 150

287 --> 150

653 --> 652

654 --> 653 --> 652

960特許のクレーム1
1. A system for transmitting originated information from one of a plurality of originating processors in an electronic mail system to at least one of a plurality of destination processors in the electronic mail system comprising:
at least one gateway switch in the electronic mail system, one of the at least one gateway switch receiving the originated information and storing the originated information prior to transmission of the originated information to the at least one of the plurality of destination processors;
a RF information transmission network for transmitting the originated information to at least one RF receiver which transfers the originated information to the at least one of the plurality of destination processors;
at least one interface switch, one of the at least one interface switch connecting at least one of the at least one gateway switch to the RF information transmission network and transmitting the originated information received from the gateway switch to the RF information transmission network; and wherein
the originated information is transmitted to the one interface switch by the one gateway switch in response to an address of the one interface switch added to the originated information at the one of the plurality of originating processors or by the electronic mail system and the originated information is transmitted from the one interface switch to the RF information transmission network with an address of the at least one of the plurality of destination processors to receive the originated information added at the originating processor, or by either the electronic mail system or the one interface switch; and
the electronic mail system transmits other originated information from one of the plurality of originating processors in the electronic mail system to at least one of the plurality of destination processors in the electronic mail system through a wireline without transmission using the RF information transmission network.
*3 Pellegrini v. Analog Devices, Inc., 375 F.3d 1113, 1117 (Fed. Cir. 2004) ("[As] the U.S. Supreme Court explained nearly 150 years ago in Brown v. Duchesne, 60 U.S. (19 How.) 183, 15 L. Ed. 595 (1857), . . . the U.S. patent laws 'do not, and were not intended to, operate beyond the limits of the United States.'")
*4 Deepsouth Packing Co. v. Laitram Corp., 406 U.S. 518 (1972) Deepsouth事件についてはバックナンバーhttp://www.knpt.com/cafc/2004.09.htmを参照されたい。
*5 Decca Ltd. v. United States, 210 Ct. Cl. 546, 544 F.2d 1070 (Ct. Cl. 1976)
*6 財団法人 知的財産研究所編、「米国におけるビジネス方法特許の研究」雄松堂出版p174-183


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