CAFC Update21

2005.6.20 

Steven M. HOFFER, Plaintiff-Appellant
vs.
MICROSOFT CORPORATION,
International Business Machines Corporation
and Ariba Incorporated Defendant-Appellee
Whereby clauseの権利範囲解釈

1.概要

 Hoffer(以下、原告)は「対話式電子商取引ネットワーク及びユーザインターフェース」と称されるU.S. Patent No. 5,799,151(以下、151特許)を有している。原告はマイクロソフト及びIBM等(以下、被告)が、151特許のクレーム21を侵害するとして北地区カリフォルニア連邦地裁に提訴した。地裁は特許非侵害とする略式判決をなした*1。原告は控訴したが、CAFCは地裁の判断を支持する判決をなした。

2.背景

 151特許は、ユーザに索引から経済活動に関するデータを取得させ、複数のユーザ間で対話式に経済の話題に関するメッセージの交換を可能とするものである。原告は1995年7月24日に特許出願をし、1998年8月25日に151特許を成立させた。ユーザは索引により区分けされた経済トピックに関するメッセージをWebにて閲覧することができる。またユーザ間で経済の話題に関し協調的にメッセージを交換することができる。
 被告は、UDDI*2 ( Universal Description Discovery and Integration system)を用いた方法(以下、イ号方法)を実施しており、原告はイ号方法の使用が151特許のクレーム21*3を文言上または均等論上侵害するとして、北地区カリフォルニア連邦地裁に提訴した。
 地裁は、クレーム21に存在する「whereby(それによって)clause」(以下、whereby節)により権利範囲は限定解釈され、文言上及び均等論上イ号方法はクレーム21の技術的範囲に属しないと判断した。原告は、クレーム21に記載されたwhereby節を根拠に権利範囲を限定解釈した地裁の判断を誤りとしてCAFCへ控訴した。

3.CAFCの争点

いかなる場合にwhereby節により限定解釈されるか
クレーム21のwhereby節には以下のように記載されている。
それにより(whereby)、商取引ネットワークは、複数のリモートユーザ端末において、・・・集合的に対話式データ通信(interactive data messaging)を、前記トピック掲示板にて、同時実行することができるユーザをサポートする。」
 イ号方法は、whereby節に記載されている「対話式(interactive)データ通信」を行わないため、whereby節によりクレーム21の権利範囲が限定されるのであれば、非侵害となり、whereby節が限定要素とならないのであれば、イ号方法は侵害となる。裁判ではこのwhereby節により権利範囲が限定解釈させるか否かが争点となった。

4.CAFCの判断

Whereby節が単にクレームに記載された工程に基づく結果を記載しているにすぎない場合は、限定要素とならない。
Whereby節が、特許性に関して必須条件である場合、限定要素となる。
 原告は、地裁が「whereby」節がクレーム範囲を限定すると判断した点は誤りであると述べた。その根拠として、過去にCAFCが、「whereby節が単に工程に基づく結果を表現している場合、方法クレームにおけるwhereby節は意味を持たない」と判示した点を上げた*4。また原告は、ユーザ間の通信は、取引の索引トピックにおいて、公知のサブシステムの適用により、マルチモード通信及びテレビ会議に対して行われるものの、「対話式通信」は本発明に必要とされないと述べた。さらに、whereby節は単に全体的な目的のみを記述したのであり、「対話式データ通信」についてクレームを限定したのではないと述べた。
 しかし、CAFCはかかる解釈は、対話式データ通信として明細書に記述されている本発明の根幹に反すると判断した。この「対話式」要素に関して、「Summary of the Invention」には、
「ホスト端末システムにおいて、ユーザはリモート端末からメッセージを他のユーザに送信するため、また他のユーザからメッセージを受信するため、選択されたトピック掲示板を入力する。」
と記載されていることから、ユーザ間の通信は対話式であることは明らかである。このようにクレームの「対話式データ通信」は、発明の不可欠な要素として明細書に記述されているのである。CAFCは、「対話式データ通信」は特許性に関し必須の条件であり、クレームに記載された工程に基づく結果以上に重要性を持つものであると判示した。
 以上の理由によりCAFCはクレーム21が「対話式データ通信」に限定解釈されるという地裁の判断を支持した。
 イ号方法はこの「対話式データ通信」を行わないため文言上の侵害とならない。また均等論の議論に関して、CAFCは「対話式データ通信」の要素は本発明の本質的要素であることから、均等論上も侵害にならない*5と判断した地裁の判決を支持した。

5.結論

 CAFCは、whereby節による限定解釈を行った地裁の判断を支持し、またイ号方法が文言上及び均等論上も非侵害と判断した地裁の判決を支持した。

6.コメント

 クレームの作成にあたり、最後に機能的・作用的な表現を付け加えるべく「whereby」または「thereby」等を用いることがある。例えば、
XとYとZからなる物であって、それによって前記ZがX及びYを安定化させる」
と記載できる*6。判例はwhereby節により限定解釈される場合とそうでない場合とに分かれる。筆者はクレームには構成のみを記載し、whereby節は記載しない方が良いと考える。必要以上に限定解釈されるおそれがあるからである。発明の内容によっては機能的な文言を付加しなければ、先行技術との差異を出しにくい場合もある。その場合は、無用な限定解釈を防止するために、従属クレームにのみ記載しておくか、あるいは実施例に後の補正で追加できるよう記載するにとどめておくのがよい。
なお、特許の有効性に関する争点は本解説から割愛した。
ブラウザ特許訴訟(続編)の解説は、こちら
http://www.knpt.com/ronbun15/ronbun15.htm

判決 2005年4月22日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。

http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/04opinions/04-1103.pdf

【注釈】

*1 Hoffer v. Microsoft Corp., No. 01-CV-20731 JW (N.D.Ca. Nov. 24, 2003)
*2 UDDI:XMLを応用した、インターネット上に存在するWebサービスの検索・照会システム。企業各社がインターネット上で提供しているWeb技術を応用したサービスに関する情報を集積し、業種や名称、機能、対象、詳細な技術仕様などで検索可能にする仕組み。登録・検索はともに無料。Webサービスを提供する企業は、自社のサービスを「UDDIレジストリ」と呼ばれるリストに登録することができる。UDDIに参加するWebサービスは、SOAPと呼ばれるXMLベースのプロトコルによる通信に対応している必要がある。必要なときに必要なサービスを探し出してサービスを利用することが容易になるため、従来のような特定の得意先との固定的な取引を超えて、電子商取引の活性化に繋がると期待されている。「IT用語辞典」http://www.itmedia.co.jp/dict/
*3 151特許のクレーム21は以下のとおり。なお、争点には下線を付している。
21. A method of messaging among at least two remote user terminals ("RUTs") in addition to a host computer ("Host") that uses communications software and hardware to connect to a communication network that supports asynchronous transport mode and serial data transmission, said Host serving as a central messaging information center that provides a plurality of RUTs with data in an integrated application program interface ("IAPI") that coordinates the operation of said Host's other sub-systems that comprise
           a programmable application ("PA") supporting said IAPI menu functions, system commands, and store-and-forward messaging,
           an index system reflecting at least one published index that divides broad economic activity into mutually exclusive numbered topics that are used routinely in public and private sectors,
           a memory configured to correspond to said index system using an operating system, said PA's configuration editor for storage, and PA files,
           and said method comprises the steps of:
           storing in said Host's memory, file capacity calibrated to each subdivision of said index system;
           modifying said Host's memory, using said PA to store in a complete series those topic boards identified by multiple-digit numbers that match all multiple-digit numbers in said index system;
           storing inside said IAPI sufficient logical progressions of menus with commands for a user at any of said plurality of RUTs to select from said topic boards and enter a topic board matching an index number therein by entering input associated with said index number; and
           establishing communications over said network between said Host and said plurality of RUTs to enable said PA to control said Host's processing of said RUTs's commands, and transmit over multiple lines messages and data on a selected topic board;
           whereby a trade network supports users at said plurality of RUTs, who are each guided by said IAPI to select an economic activity, to identify that index topic that corresponds to said activity, to enter that topic board dedicated to said topic, and who are collectively able to concurrently engage in interactive data messaging on said topic boards.
*4 Minton v. Nat'l Ass'n of Securities Dealers, Inc., 336 F.3d 1373, 1381 (Fed.Cir.2003)
*5 Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 40, 117 S.Ct. 1040, 137 L.Ed.2d 146 (1997)
*6 Donald S. Chisum Elements of United States Patent Law §2411 (Second ed. 2000)


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