1.概要
PC Connector Solutions LLC.(以下、原告)はディスクドライブに挿入されるアダプターを介してコンピュータと周辺機器との間のデータ転送を行う技術であるU.S.
Patent No. 5,224,216(以下、216特許)を有している。原告はSMARTDISK
Corp.等(以下、被告)が、216特許のクレーム1及び10を侵害するとしてフロリダ州連邦地方裁判所に提訴した。地裁は特許非侵害とする略式判決をなした*1。原告は控訴したが、CAFCは地裁の判断を支持する判決をなした。
2.背景
原告は、コンピュータと周辺機器との接続に関する技術を1988年に出願し、継続出願を行った後、1993年に216特許を成立させた。216特許の概要は以下のとおりである。コンピュータのディスクドライブに、周辺機器との接続が可能なアダプターを挿入する。当該アダプターは周辺機器のI/Oポート(入出力ポート)に接続される。このディスクドライブに挿入されたアダプターを介して、コンピュータと周辺機器との間で情報の転送を行う。
被告のイ号装置はフラッシュメモリー及びスマートカード用のディスク型アダプターであり、1990年代に製造が開始された。このアダプターはディスクドライブを通じてスマートカード等の記録媒体にアクセスできる。アダプター内に挿入されたフラッシュメモリー及びスマートカードは、コンピュータのディスクドライブに挿入され、アダプターを介してフラッシュメモリー(スマートカード)とコンピュータとの間のデータ転送が行われる。
原告は被告が、216特許のクレーム1及び10*2を侵害するとしてフロリダ州連邦地方裁判所に提訴した。地裁は、イ号装置と共に用いられるフラッシュメモリー及びスマートカードは、1988年出願当時に存在する「通常(normally)、在来型の(conventional)コンピュータI/O
ポートに接続できる」周辺機器ではないことを理由に、特許非侵害との略式判決をなした。原告はこれを不服としてCAFCに控訴した。
3.CAFCの争点
時間ベースの限定要素(Time-based limitation)により権利範囲が限定されるか
クレーム1の争点となった箇所は、
「通常(normally)、在来型の(conventional)コンピュータのI/Oポートに接続可能なI/Oポートを有する周辺機器」
である。またクレーム10も同様に、「伝統的に接続できるtraditionally
connectable」及び「標準のstandard」の文言が用いられていた。本事件では、I/Oポートを有する周辺機器が、conventional等の限定要素(裁判ではこれらの文言はTime-based
limitationと呼ばれていた)により出願当初(1988年)のものに限定されるのか、あるいは現存するものをも含むのかが問題となった。すなわち、イ号装置に用いられるフラッシュメモリー及びスマートカードが、標準の、または在来型のI/Oポートを有する周辺機器に該当するか否かが問題となった。
4.CAFCの判断
時間ベースの限定要素は、出願当初の技術に限定解釈される。
原告は、クレーム1の「normally connectible」「conventional」、クレーム10の「traditionally
connectable」及び「standard」の文言を誤って解釈したと主張した。すなわち、そのような文言で記述された周辺機器及びコンピュータI/Oポートを1988年出願当時に存在するものに限定したのは誤りであると主張した。原告は、これらの文言は、単にコンピュータに周辺機器を接続する仕方を明らかにしただけであると主張した。
CAFCは原告の主張に同意しなかった。その根拠として、クレームの文言は、明細書または審査経過中に、発明者が異なった定義を行っていない限り、クレームの文言は一般に元々の意味に解釈されると述べた*3。「conventional」「standard」等の文言は黙示的に時間的要素を有しているところ、明細書及び審査経過には、これらの文言に特別な意味を与える記述はなされていなかった。以上のことから、CAFCは1988年出願当時のI/Oポートを有する周辺機器に権利範囲を限定解釈した地裁の判断を支持した。
イ号装置に用いられるフラッシュメモリー及びスマートカードは、過去の出願当時のI/Oポートとは異なり2次元表面の接続電極をI/Oインターフェースに備えていることから、文言上の侵害には該当しないと判断された。
次に問題となったのは均等論上の侵害である。すなわち、出願時のnormally, conventional, traditionally, standardが意味するものと、将来のnormally,
conventional, traditionally, standardの意味するものとが均等と考えられるか否かである。しかしながら、CAFCは、
「均等の理論が、クレームの限定要素を無効にするならば、法律上均等論上の侵害はない*4」
とした。すなわち、均等論は限定要素毎に適用されるところ、均等論による侵害を認定するとすれば、クレームの「conventional」等の「限定」自体がそもそも意味のないものとなる。かかる場合にまで、均等論を適用するのは誤りであるとして原告の主張を退けた。
5.結論
CAFCは、出願当初の技術内容に限定解釈した地裁の判断を支持し、また特許非侵害との略式判決を支持する判決をなした。
6.コメント
関連する事件として、Superguide Corp. v. Directv Enterprises,
Inc.*5がある(http://www.knpt.com/cafc/2004.04.htm)。Superguide事件では、本事件と異なり、後に生じた技術も権利範囲に属すると判断された。「規則的に受信されるTV信号」、「ミキサー」及び「無線周波数情報」の文言は、出願当初に用いられていたアナログ信号だけでなく、侵害時に用いられるようになったデジタル信号をも含むと判断された。これらの文言に関し、明細書及び審査経過で既存のものに限るとの限定要素がなかったからである。本事件では逆に「conventional」及び「standard」等の時間ベースの限定要素(Time-based
Limitation)が致命的となった。特に必要がない限りこれらの文言をクレーム中に用いるのは控えた方がよいと思われる。
判決 2005年5月6日
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【関連事項】
判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/04opinions/04-1180.pdf
【注釈】
*1 PC Connector Solutions LLC v. SmartDisk Corp.,
No. 2:00-CV-539 (M.D. Fla. Nov. 10,
2003)
(original judgment); PC Connector Solutions
LLC v. SmartDisk Corp., No. 2:00-CV-539
(M.D.
Fla. Feb. 23, 2005) (amended judgment)
*2 216特許のクレーム1及び10は以下のとおりである(争点には下線を付した)。
1. In combination a computer having a diskette
drive, an end user computer peripheral device having
an input/output port normally connectible
to a conventional computer input/output
port, and a coupler which couples the computer
with the end user computer peripheral
device
without using a conventional computer
input/output
port: said coupler being sized and
shaped
for insertion within the diskette drive
of
the computer . . . whereby data is
transferred
from said computer to said end user
computer
peripheral device via said read/write
head
of said computer, said coupler, and
said
input/output port of said end user
computer
peripheral device.
10. A method for forming a data transfer
coupling between a computer having
a diskette
drive having a read/write head and
an input/output
port of one separate end user computer
peripheral
of a host of separate end user computer
peripherals
where each separate end user computer peripheral
is traditionally connectable to a computer
by means of an input/output port of
the computer
and the standard input/output port
of the
particular separate computer peripheral, said method comprising:
inserting a coupler having a stationary data
transfer element into the diskette
drive
. . . , and
connecting said coupler to the standard input/output
port of the separate computer peripheral
. . . .
*3 Carroll Touch, Inc. v. Electro Mech. Sys.,
Inc., 15 F.3d 1573, at 1577 (Fed. Cir.
1993) 「文言の特別な定義が明細書または審査経過に明確に記述されている場合に限り、特許権者は自身が辞書編集者になることを選択でき、そのもとの意味とは異なるやり方でその文言を用いることができる。」
*4 Tronzo v. Biomet, Inc., 156 F.3d 1154, 1160
(Fed. Cir. 1998).
*5 Docket No.02-1561 (Fed. Cir 2004)
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