CAFC Update25

2005.10.20 

BROADCAST INNOVATION, L.L.C.
and IO RESEARCH PTY LTD.,
Plaintiffs-Appellants
vs.
CHARTER COMMUNICATIONS, INC.,
Defendant-Appellee
PCT出願に対する言及の必要性

1.概要

 IO Research(以下、原告)は配信データベースシステムに関するU.S. Patent No.6,076,094(以下、094特許)の所有者である。原告は、094特許の侵害であるとして、Charter Communications(以下、被告)を、コロラド州連邦地方裁判所に提訴した。被告は、特許は米国特許法第102(b)条(新規性)のもと無効であるとの略式判決を求めた。地裁は被告の主張を認め特許無効との略式判決をなした*1。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは、地裁が誤って094特許の優先日を判断したとして、地裁の略式判決を取り消し、差し戻し判決をなした。

2.背景

 094特許は、通信メディアのデータ放送が可能な配信データベースシステムに関する。原告はこの発明を、まずオーストラリアに出願し、その後、優先権を主張して、1993年11月26日にPCT出願をした。原告は1995年7月18日に米国に国内移行出願(08/436,336以下336出願)をし、5,737,595特許(595特許)を成立させた。
 595特許の成立前、出願人は継続出願(09/054,896、以下896出願)を行い、後に5,999,934(以下、934特許)を成立させた。さらに、934特許の成立前に出願人は分割出願(09/316,164、以下、164出願)をなし、後に本事件の094特許を成立させた。時系列で整理すると以下のとおりである。

1992年          オーストラリア出願

1993年11月26日   PCT出願

1995年 7 月18日   米国国内移行 336出願 595特許

1998年 4 月 3 日   継続出願    896出願 934特許

分割出願    164出願 094特許

 094特許の表紙または明細書には、原オーストラリア出願及びPCT出願に関する具体的な言及はなく、単に以下の事項が記載されているにすぎなかった。

「当出願は、1995年7月18日に出願された336出願(595特許)の継続出願である1998年4月3日出願の896出願(934特許)の分割出願である。」

地裁は、094特許にPCT出願に関するいかなる具体的言及(Specific Reference)もなされていないことから、出願日を336出願の日とし、PCT出願後336出願前に公知となった文献を引用して、米国特許法第102条(b)を根拠に、被告の求めた略式判決を認めた。原告はこれを不服として控訴した。

3.CAFCの争点

PCT出願に関する具体的な言及が存在しない場合、094特許の優先日はいつか?

 094特許は親出願に関する言及を含んでいたが、その表紙及び明細書にはPCT出願に関する言及は存在しなかった。少なくとも336親出願の日が、優先日となるのは明らかであるが、094特許にPCT出願に関する言及がない場合に、優先日がPCT出願日となるのか否かが問題となった。

4.CAFCの判断

 分割出願において国内移行出願への言及(Specific Reference)が記述されていれば、法定要件を満たし、優先日はPCT国際出願日となる

 地裁は優先日の決定に関し様々な法律及び規則を根拠とした。米国特許法第120条は先の出願に基づく優先権を主張するために米国特許出願に必要とされる要件を規定している。
米国特許法第120条
「第112条第1段落の規定,又は第363条の規定による態様によって,合衆国内で先に出願された特許出願において開示されている発明であって,当該出願がかかる先に出願された特許出願に明記された発明者又は発明者等により出願された特許出願は,当該出願が,最初の特許出願,又は当該最初の特許出願の出願日の利益を同じように享受することができる特許出願が,特許化され,放棄され,又は審査手続が終了する以前に出願されると共に,当該特許出願が,先に出願された特許出願を具体的に参照する部分を含むか又はそれ等を含むように変更されている場合は,先の特許出願の出願日に出願されたとみなされる発明が受ける効果と同一の効果を有する。
 先に出願された特許出願に具体的に言及する部分を含む補正が,出願の係属中の特許商標庁長官が定める期限までに提出されない限り,如何なる出願も本条に基づく先に出願された特許出願の利益を享受することはできない。特許商標庁長官は,当該期限内にかかる補正が提出されない場合は,それを本条に基づく利益の放棄とみなすことができる。特許商標庁長官は,故意によらずして遅延した本条に基づく補正の提出を受理するための手続(追加料金の納付を含む。)を定めることができる。*2
 また、規則1.78(a)(2)(i)には、
「§1.53(d)に基づく継続手続出願の場合を除き,先に出願した同時係属中の1又は複数の,仮出願でない出願又は合衆国を指定国とする国際出願の利益を主張する出願は,出願番号(シリーズ・コード及び整理番号からなる。)又は国際出願番号,及び国際出願日により先の出願を特定し,両出願の関係を説明した先の出願への言及を含めなければならない。かかる言及は,当該出願の係属中,かかる出願の実際の出願日から4月間か先の外国出願の出願日から16月間のうち何れか後のほうの期間内に行わなければならない。この期間を延長することはできない。本項により求められる言及が出願データシート(§1.76)の中に含まれていない限り,明細書の見出しの後の第一文の中にかかる言及を含めるか,又はこれを含むよう明細書を補正しなければならない。*3
と規定されている。地裁は、特許法第120条及び規則1.78を根拠に、094特許の優先日はPCT出願の国際出願日ではなく、米国国内移行出願時であると判断した。
 しかしながら、CAFCは、地裁の判断を覆した。まず、164分割出願(094特許)には、PCT出願の国内移行出願(595特許)について正しく言及されていた。さらに、国内移行出願は条約上効果的に、PCT出願の出願日と同じ米国出願日を持つ。以上のことから少なくとも分割出願において国内移行出願への言及(Specific Reference)が記述されていれば、米国特許法第120条及び規則1.78の法定要件を満たし、少なくともPCT国際出願日である優先日をもつと判示した。

5.結論

 CAFCは、094特許は少なくとも1993年11月26日(PCT国際出願日)の優先日を持つと判断し、地裁の略式判決を無効とし、地裁に本判決に従った審理を行うよう差し戻した

6.コメント

 近年米国へはパリルートよりもPCTルートで出願するケースが増加している。本事件はオーストラリア出願を基礎とするPCT出願に関するものであり、米国へ日本からPCTルートで出願する場合に参考となる。米国出願後、継続出願または分割出願を行うケースが多いが、先の出願への言及は親出願までで十分であり、PCT出願まで言及する必要がないことが判示された。判決文において、地裁がこのように誤った判断をなしたことに関し、CFACは同情のコメントを残している。本判決にかかわらず、先出願との対応関係を明確にすべく、これらを丁寧に記載しておくことが望ましい。

判決 2005年8月19日

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。

http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/05opinions/05-1008.pdf

【注釈】

*1 Broadcast Innovation L.L.C. v. Charter Communications, Inc., 03-WY-2223-AJ (BNB) (D. Col. Aug. 4, 2004)
*2 特許庁HP (http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/aippi/usa/pl/chap2.htm#law120)
*3 特許庁HP (http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/aippi/usa/pr/chap2-3.htm#law1.78


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