U.S. PHILIPS CORPORATION,
Appellant
vs.
INTERNATIONAL TRADE COMMISSION,
Appellee
and
PRINCO CORPORATION,
PRINCO AMERICA CORPORATION,
GIGASTORAGE CORPORATION
TAIWAN GIGASTORAGE CORPORATION U.S.A,
and LINBERG ENTERPRISE INC.,
Intervenors.
抱き合わせライセンスが特許権濫用となるか
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1.概要
特許権者は特定技術に関する特許権を多数所有しており、この特定技術を使用するライセンシーとライセンス交渉を行った。特許権者は多数の特許を一まとめにした所謂抱き合わせライセンスを締結した。ライセンシーがその抱き合わせ特許群を検討すると、いくつかの特許は侵害しているが、残りの特許は侵害していないようである。ライセンシー側としては、侵害していない特許にはライセンス費を払いたくないため、個別の特許ライセンス契約を締結するよう特許権者に申し込んだ。
しかしながら特許権者はそのようなオプションを認めず、あくまで抱き合わせによるライセンスのみを認めた。これにライセンシーが納得せずライセンス費の支払いを中断したため、特許権者が米国国際貿易(United States International Trade Commission以下、ITC)に対し不服申し立てを行った。ITCはかかる抱き合わせは当然違法(per se illegal)及び特許権濫用(patent misuse)であると判断した。この決定に対し特許権者がCAFCへ控訴した。
2.背景
U.S. Philips Co.(以下、原告)はオレンジブック*1と呼ばれる文書に定義された基準に従うCD-R及びCD-RWの製造技術に関する特許を所有している。1990年以降原告はこれらの特許をパッケージライセンスとしてライセンスしている。原告は、どれだけの特許を使っていようとも、パッケージに含まれる特許を用いるライセンシーにより製造されるディスク毎に同一額のロイヤリティを課していた。CD-R及びCD-RWを製造するための特許技術にライセンスを求める者は、これら特許について個々のライセンスが認められず、パッケージ全体の特許よりも低額のライセンスが認められるということもなかった。
1990年代後期、原告はPrinco Co.及びGigastorage Co.(以下、被審人)との間でパッケージライセンス契約を結んだ。しかし被告はその後すぐ支払いを中断した。原告はITCに対し不服申し立てを行った。6つの特許を侵害するCD-R及びCD-RWを米国へ輸入する行為が米国関税法337条(a)(1)(B)及び同法1337(a)(1)(B)に反するというものである。
ITCは、原告のパッケージライセンス契約は、(1)オレンジブックに従うCD-RまたはCD-RWを製造するために必須の特許群、及び、(2)これとは逆に非必須の特許群(Farla特許, Iwasaki特許, Yamamoto特許, Lokhoff特許)を含むと認定した。ITCは原告が個別のライセンスを認めることなく、また、オレンジブックに従うCD-R及びCD-RWを製造するのに必須でない特許を不当に抱き合わせたと判断した。そして、ITCは原告の行為は当然違法及び特許権濫用に該当すると結論付けた*2。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。
3.CAFCの争点
抱き合わせに含まれる特許群に対する商用可能な代替技術が存在するか?
抱き合わせ取り決めが違法というためには、かかる抱き合わせにより反競争的効果を持つことが必要とされ*3、抱き合わせパッケージに、商業上利用可能な代替技術が存在する特許までをも含めた場合、かかる抱き合わせは反競争的効果を有すると判断される*4。つまり、抱き合わせは、特許権者が特許により与えられる権利を超えて市場利益を得るためにその特許を使用した場合に濫用となる*5。本事件においては、原告が抱き合わせに含めた非必須の特許群(Farla, Iwasaki, Yamamoto, Lokhoff)に対して商用可能な代替技術が存在する場合、特許権濫用となる。この商用可能な代替技術の有無が問題となった。
4.CAFCの判断
(a)代替技術の存在だけでは不十分である。代替技術に対するライセンスの希望があったか
2つの特許(Farla特許及びIwasaki特許)はCD上に情報の記録を制御する方法である。ITCは、訴外Calimetrics社(以下、Ca社)がFarla及びIwasaki特許を実行するための商用可能な代替方法を開発したと判断した。この判断にあたり、ITCは、Dr. Stephen McLaughlin(以下、Dr.:Ca社の主研究員)の証言に頼っている。Dr.は、Ca社が本技術を開発したこと、この技術を開発するにあたり、Ca社は本技術がCD-R及びCD-RWシステムに適用可能であると決定したこと、及びCa社はこのアイデアを実現するために多大な努力をしたと証言した。しかしながら、CAFCはかかる証言では不十分であると指摘した。CAFCは、単に代替技術が存在する事を提示するのみでは不十分であり、ライセンス希望者が特許の代わりに当該代替技術のライセンスを希望している事を示す必要があると判示した。
(b)代替可能性では不十分である。ライセンス時に現実に代替技術が存在している事が必要である。
Yamamoto特許(単一のビームを用いてマスターディスクを製造する方法)に関し、ITCは再びDrの証言を採用した。Drは、
「Yamamoto特許が意図している機能を実行するための代替方法を思いつくことは全く容易である。また、2つのビームを使用することは確かに可能である。」
と証言した。
しかしCAFCは、代替技術の利用可能性では不十分であり、原告のライセンス時において、Yamamoto特許に対する商用可能な代替技術が現実に存在している事を示すことが必要であると判示した。
Lokhoff特許はコンパクトディスクにコピービットを埋め込むことにより、コピー保護システムを提供するものである。ITCは再びDr.の証言を採用したが、Dr.の証言は単に、コピー保護は、コピービットに変えてコピープロテクションまたはユーザデータの埋込により、達成できるという見解を述べたにすぎなかった。CAFCは原告技術に対する商用可能な代替技術の存在を具体的に示していないと判断した。
以上の事から、ITCが原告の抱き合わせ取り決めは特許権濫用であるとした決定を取り消した。
5.結論
CAFCは上述の理由により、ITCの特許権濫用に基づく決定を差し戻し、本判決に従いさらなる審理を行うようITCに命じた。なお、本事件では、抱き合わせが当然違法(per se illegal)に該当するか、また抱き合わせが当然違法の原則(per se rule)の観点から違法であるか否かも問題となった。これらの詳細については紙面の都合上割愛するが、いずれも違法性はなくITCの決定は全て取り消された。
6.コメント
米国特許法第271条(d)*6に規定されているように、所謂抱き合わせ取引は条件付きで合法化される*7。特許権の抱き合わせ取り決めが違法か否かは個別具体的に判断されるが、本事件では商用可能な代替技術の存否が問題となった。本事件では代替技術が存在しさえすれば、特許抱き合わせは違法であるとする解釈に歯止めをかけるものである。CAFCは本事件のような特許抱き合わせの違法性に関し次のような基本的問題が存在すると判示した。
CAFCは、本事件の如く技術進歩の早い分野においては、時間の経過と共に様々な問題が生じる蓋然生が高いと述べた。つまり、ライセンス時に完全に合法であった取り決めは、特許権者が当初知らない技術開発または訴訟時に商用可能となった技術開発により、特許権濫用の法理の脅威を受けることになるということである。
このような論理は、ライセンス時に知り得ない理由によってライセンス対象を無効とするだけでなく、ライセンシーに訴訟に対する強いインセンティブを付与するものとなる。なぜならば、パッケージにおける一つのライセンスにかかる特許の代替技術を示すことにより、パッケージにおける全ての特許を権利行使不能とするものであるからである。以上の理由により、ITCの判断を拒絶したのである。
判決 2005年9月21日
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【関連事項】
判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/04opinions/04-1361.pdf
【注釈】
*1 オレンジブック:CD-MO/R/RWの仕様書。Part IではCD-MO、Part IIではCD-R、Part IIIではCD-RWについて規定されている。オーディオCDの仕様書であるRed BookにはCDの物理的な仕様についても記載されていたが、CD-Rの反射層などはCDと互換性はあるもののRed Bookには準拠していなかったため、Orange Book Part IIではCD-Rの仕様に配慮した形でRed Bookなどの先行仕様が定義され直されている。Orange Bookには書き込み速度などの規定もあり、技術の進化に伴って適宜見直しが行われている。Orange Book仕様書の表紙は橙色である。IT用語辞典(http://www.itmedia.co.jp/dict/)
*2 In re Certain Recordable Compact Discs &
Rewritable Compact Discs, Inv. No.
337-TA-474
(Int'l Trade Comm'n Mar. 25, 2004).
*3 Jefferson Parish, 466 U.S. at 12
*4 Jefferson Parish, 466 U.S. at 21-22
*5 Mallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc., 976
F.2d at 704
*6 米国特許法271条(d)(5):特許の侵害又は侵害幇助行為に対して,次に掲げる事項とは別のやり方で救済を受ける資格を有する特許権者は,これらの事項の1以上を行ったことを理由にして,救済を否定されたり,また特許の濫用又は不当な拡大とみなされることはない。・・・。(5) 周囲の状況から見て,特許権者が,当該ライセンスや販売に条件が付されている特許又は特許製品についての関連する市場において支配力を有していない限り,他の特許に関するライセンスの取得又は別の製品の購入に関して,当該特許についてのあらゆる権利に関するライセンス又は特許製品の販売について条件を設定すること。(特許庁HP http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/aippi/pdf/mokuji/us_tokkyo1.pdf)
*7 ヘンリー幸田著 米国特許逐条解説改訂版p211 社団法人発明協会
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