CAFC Update27

2005.12.20 

J. OLE SORENSEN and JENS E. SORENSEN,
Appellant
vs.
INTERNATIONAL TRADE COMMISSION,
Appellee
and
MERCEDES-BENZ USA, LLC,
Intervenor.

審査過程において明確かつ明白な放棄があったか

1.概要

 イ号製品は自動車のテールランプでありこのテールランプは第1プラスチック部材
及び第2プラスチック部材の2層からなり、色のみが異なる。
 一方特許も、第1プラスチック部材及び第2プラスチック部材を備え、本事件における争点を除き、イ号製品はクレームの全ての構成要件を備える。しかしながら、発明者は審査の過程において、引例を回避するために「第1プラスチック部材とは異なる特性(different characteristic)を持つ第2プラスチック部材」と減縮補正を行った。
 イ号製品は色のみが異なる同一分子構造からなるプラスチックを用いている。この場合、発明者の審査過程における主張を根拠に技術的範囲に属さないと反論することができるであろうか。
 ITCは、イ号製品は同じ特性のプラスチック部材を用いているので侵害に該当しないと判断した。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。

2.背景

 Sorensen(以下、原告)は自動車のテールランプの製造方法に関するU.S. Patent No. 4,935,184(以下、184特許)を有している。原告は、184特許の製造方法により製造されたテールランプを有する自動車を、Mercedes-Benz USA(以下、被審人)が輸入しているとし、国際貿易委員会(International Trade Commission 以下、ITC)に対し不服申し立てを行った。ITCは、原告が審査過程において「異なる特性を持つ」と限定したことを理由に、成形された物質が色を除く特性において異なっていなければならないとして、特許非侵害の判決をなした*1。原告はこれを不服としてITCを被告としてCAFCへ控訴した。

3.CAFCの争点

「異なる特性をもつ」と補正した場合に、色のみが異なる部材を用いるイ号製品が技術的範囲に属するか否か。
 イ号製品の2層成型物は第1プラスチック部材と第2プラスチック部材とからなり、色のみが相違する。
一方、出願時における184特許のクレーム1は「・・・
(b)第1成型溝に第1プラスチック部材を射出する
(e)前記第1プラスチック部材がそこへ入れられている間に、第2成型溝に第2プラスチック部材を射出する・・・」
である。発明者は米国特許法第103条(非自明性)の拒絶理由を回避するために、以下の補正を行った。
「(b)・・第2成型溝に、第1プラスチック部材とは異なる特性(different characteristic)を持つ第2プラスチック部材を射出する・・」
 かかる審査過程における補正により、第1プラスチック部材と第2プラスチック部材とは異なる特性を持つと限定されたが、これにより色のみが異なるプラスチック部材を使用するイ号製品が、特許発明の技術的範囲に属するか否かが問題となった。

4.CAFCの判断

審査の過程において明確かつ明白な放棄があったか。
 CAFCはクレーム、明細書及び審査経過の全てを総合的に勘案して、色のみが異なる部材を用いるイ号製品は、特許発明の技術的範囲に属すると判断した。つまり色も異なる特性の一つと解釈した。
 クレームには、第1部材と第2部材とが異なる特性を持つと規定しているが、この「特性」について特別な限定は行っていないことから、2つの射出された部材間の特性におけるいかなる相違も含まれると解釈される。
 また、発明者は明細書に、特性に関する例示の一つとして、色の相違等の透明度の相違を記載している。これは、分子構造に関連する可能性のある相違、または関連しない可能性のある相違であり、分子構造以外の異なる特性が、クレームの文言「異なる特性」に含まれることを示すものである。
 さらに、審査過程において、発明者は第1部材と第2部材とが異なる特性を持つと補正したが、色の相違等を含む広い範囲を排除すると述べたわけではない。クレームの範囲を限定解釈するためには、その限定について審査過程において明確かつ明白な放棄が必要とされるところ*2、発明者はこのような色の相違を含む特性に関して全く放棄していない。
 以上のことから、色のみが相違する第1プラスチック部材及び第2プラスチック部材を有するイ号製品は、特許発明の技術的範囲に属すると判断された。

5.結論

 CAFCは、ITCが、184特許のクレーム1の解釈を誤ったと判断し、ITCのクレームの解釈を差し戻し、非侵害の決定を無効とすると共に、本判決に従いさらなる審理を行うよう命じた。

6.コメント

 権利範囲解釈において技術的範囲に属すると思われる場合、次に拠り所となるのは審査経過における禁反言の検討である。本事件と同じく実務においても、微妙な判断が要求される場合が多い。本事件においては、審査過程における明確かつ明白な放棄がないことを理由に、技術的範囲に属すると判断された。権利範囲解釈の一参考例として意義がある。

判決 20051031

以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。

http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/05opinions/05-1020.pdf

【注釈】

*1 In the Matter of Certain Auto. Tail Light Lenses and Prods., Inv. No. 337-TA-502, Notice of Final Initial Determination (July 9, 2004) (Initial Determination); Notice of Final Determination (Aug. 20, 2004) (Final Determination).


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