CAFC Update(31)
■2006.4.20■
VARCO, L.P,Plaintiff-Appellant, v. PASON SYSTEMS USA CORP.,Defendant-Appellee, 選択ステップが手動処理に限定解釈されるか |
1.概要 本事件ではselecting step(選択ステップ)の解釈が問題となった。 選択ステップは制御用の複数の信号から一の信号を選択するステップであるが、 この選択が手動で行われるのか、自動で行われるかが問題となった。 機械制御に係る技術において、クレームの各処理を記載する場合、通常自動制御処理を想定して記載するであろう。被告のイ号製品はコンピュータにより信号の選択を自動制御処理しているが、地裁は、選択ステップはオペレータによる手動処理によるもの限定解釈し、特許非侵害と認定した。その一方で、控訴審においては手動処理に限定解釈されないと判示された。 手動処理と限定されたのは、なぜか?以下に地裁及びの判断を分析する。 2.背景 Varco社(以下、原告)はU.S. Patent No. 5,474,142(以下、142特許)を所有している。142特許は、自動掘削システムの4つのパラメータ(錐重、流体圧力、トルク及び回転数)に基づき、ドリルストリングの解放を制御するものである。2003年12月22日、原告は、Pason System社(以下、被告)の使用するイ号システムが、142特許を侵害するとして、被告をコロラド州連邦地方裁判所へ訴えた。 地裁は、142特許のクレーム14における選択ステップ(selecting step)は手動処理に限定解釈され、自動処理を行うイ号システムは技術的範囲に属さず、特許の侵害にあたらないと判断した*1。 原告はこれを不服として控訴した。 3.CAFCの争点 選択ステップが手動処理に限定解釈されるか? 争点となったのはクレーム14*2の下記のステップである。 selecting any one of said first signal, said second signal, and both said first and said second signals to control the release of said drill string 「前記ドリルストリングの解放を制御するための前記第1信号、前記第2信号、並びに、前記第1及び前記第2双方の信号のいずれか一つを選択するステップ」 地裁は、選択ステップを、「ドリルを制御するレギュレータに対するバルブセレクタを、オンまたはオフするオペレータの手動切り替えステップ」と解釈した。地裁は明細書の記載に基づきこの解釈に至った。明細書には以下の事項が記載されている。 「4つのパラメータ(錐重、流体圧力、トルク及び回転数)に対応する4つのレギュレータはセンサーから出力されるドリル信号を受け付ける。これら4つのレギュレータは、ブレーキを制御するエアモータへ空気制御信号を出力するため4つのセレクタバルブにそれぞれ接続されている。」 また好ましい実施例として、 「各レギュレータに対応する望ましいパラメータ群が、ドリルシステムにおいて自動制御を実現できるよう各レギュレータに対応する各バルブセレクタのスイッチをオン・オフする」 と記載されている。地裁は以上の明細書の記載から、バルブセレクタの手動操作が必要であると解釈した。 また、手動処理と限定解釈する根拠として、明細書の他の箇所をも参照した。明細書には、 「ドリルストリング内において、理想的なドリル液圧を維持する空気圧を送るべく、各レギュレータをセットするために手動キャリブレーション処理が実行されなければならない」、また 「キャリブレーション処理中において、オペレータは、レギュレータ内において、ノズルを動かすために手動でスクリューを調整する。」と記述されている。 地裁は、明細書に、「レギュレータは、使用前に手動でキャリブレーションされなければならないと記載されているので、「selecting step」はバルブセレクタの手動処理に加えて、選択されたレギュレータの手動キャリブレーションを必要とすると結論づけた。 4.CAFCの判断 (1)クレーム前段部分の記載により権利範囲が解釈される。 CAFCは、クレームの前段部分(preamble)に着目した。クレーム14の前段には 「ドリル錐のドリルストリングの解放を規制する自動(automatically)制御方法」 と記載されている。つまり、前段部分の記載を考慮すれば、各ステップは自動で実行される。CAFCはかかる記載は、地裁が解釈したようにバルブセレクタの手動処理及びレギュレータの手動キャリブレーションに限定されないことを示すものであると判示した。 過去の判例*3では、前段の記載事項が権利範囲を限定する場合と、限定しない場合とに分かれる。本事件においては明確に自動制御と記載しており、かかる記載により、手動処理に限定する理由はないと述べた。 (2)手動処理は初期設定及び初期キャリブレーションにすぎない また、CAFCは明細書を見ても、地裁の解釈は誤りであるとした。明細書には、オペレータが、バルブセレクタを用いて、レギュレータを手動選択する初期セットアップ処理が開示されている。また、明細書には初期設定の一部である手動キャリブレーション処理をも開示している。 このセットアップ処理を明確にするために、明細書は明示的に以下の事項を述べている。 「選択されるレギュレータが、ドリルストリングの解放を自動的に規制するであろう前に、」(初期セットアップまたは手動キャリブレーションが行われる。) 地裁は、この部分にのみ頼って手動処理を要件とした。逆に、明細書のこの部分は、クレームされた選択ステップに先立つ初期設定または初期キャリブレーションを記載しているのである。地裁は、初期設定及び初期キャリブレーションが、自動処理前にのみ手動で実行されるにもかかわらず、初期設定及び初期キャリブレーション後の自動選択処理までもが、手動で実行されると誤って判断したのである。 以上のクレーム及び明細書の記載から、選択ステップを手動処理に限定解釈した地裁の判断を誤りとした。 5.結論 CAFCは、地裁のクレーム解釈を誤りとし、地裁の判決を無効とし、さらなる審理を行うよう事件を差し戻した。 6.コメント 選択処理が自動で行われるか手動で行われるかが争点となった事例である。選択または入力等クレームの文言によっては自動または手動どちらとも解釈できる場合がある。 本事件においてはクレームの前段部分に自動(automatically)制御方法」の記載があったことから(もちろん明細書の記載も根拠とされたが)、手動には限定解釈されないと判断された。しかしながら、クレームの前段部分は必ずしも技術的範囲を判断する上で考慮されるとは限らない。前段部分で構成要件を特徴づけるよりも、後段部分及び明細書で明確に特徴づけることが必要であろう。 なお、他の構成要件(relaying step)も争点となったが紙面の都合上割愛する。 |
判決 2006年2月1日 |
以 上 |
【関連事項】 |