CAFC Update臨時号

2006.5.19 

米国最高裁判所判例紹介

eBay Inc.,
v.
MercExchange, L.L.C.,

特許が有効で、特許権の侵害と判断されても、
終局的差止請求権は4要素を満たさなければ行使できない


1.
概要

 MercExcahnge(以下、M社)は、ビジネス方法特許U.S. Patent No.5,845,265(265特許)の所有者である。一方、eBayはインターネット上でのオークションを運営している。M社は、eBayの「Buy It Now」機能が265特許を侵害するとしてバージニア州連邦地裁に提訴した。地裁は、特許は有効であると判断し、またM社の損害賠償請求をも認めた。しかし、地裁は米国特許法第283条の規定に基づく終局的差止(Permanent Injunction,永久的差止命令ともいわれる)を認めなかった。M社は、終局的差止が認められなかったことに対して、eBayは地裁の特許有効性の判断に誤りがあるとして、また損害賠償命令を不服としてそれぞれCAFCへ控訴した。CAFCは、特許の有効性及び損害賠償の点で地裁の判決を支持した。しかし、CAFCは地裁とは全く逆に、特許権侵害を理由にeBayに対する終局的差止を認めた。
 eBayはこれを不服として、最高裁判所に上告した。本件がビジネス方法特許であったということ、またCAFCが、「特許が有効で、特許権侵害が認められる場合、特別な事情なく終局的差止を下すことができる。」という一般ルールを判示したため、大きな議論を巻き起こした。この判決に対して、業界ではこれを支持するグループと、これに反対するグループとに分かれた。毎週のように新たな特許訴訟を提起されるマイクロソフト社等は、eBayの上告を支持する文書を最高裁へ提出した。
 最高裁判所はこれを受けて上告を受理し再審理を開始した。最高裁判所は、CAFCの判決を破棄し、終局的差止にあたっては、衡平の原則に従い、特許権者が以下の4つの事項を立証しなければならないと判示した。
(1)回復不可能な損害の存在(2)法による救済(損害賠償等)が不十分であること(3)両当事者に生ずる不利益のバランス(4)公共の利益が害されないこと

2.背景

 eBayは買い手が販売を希望する商品を出品できるWebサイトを運営している。M社は、ビジネス方法特許である265特許の所有者である。M社はeBayのオークションサイトにおける「Buy It Now」機能が、特許権を侵害するものとして、ライセンス交渉を試みた。しかし、この交渉は合意に至らなかった。M社はその後、特許権侵害としてバージニア州連邦地方裁判所に提訴した。陪審員はM社の特許は有効であり、また、eBayは265特許を侵害すると判断し、さらに損害賠償は妥当であると判断した。しかしながら、地裁は、米国特許法第283条の規定に基づく終局的差止(Permanent Injunction)の申し立てを却下した*1。  
 この控訴審においてCAFCは、特許の有効性を支持し、また損害賠償として2500万ドルの支払いを命じた。しかし、CAFCは、「特許が有効で、特許権侵害が認められる場合、特別な事情なく終局的差止を下すことができる。」という一般ルールを判示し、終局的差止の決定を下した。eBayはこれを不服として控訴した。

3.争点

 一般ルールか、4要素テストか?  米国特許法第283条は、以下のように規定している。 「本法に基づく訴訟について管轄権を有する裁判所は、特許により付与された権利侵害を防止するため、衡平の原則に従って、裁判所が合理的と認める条件に基づいて差止命令を下すことができる。*2」
 ここでいう差止命令には、仮差止と終局的差止とが存在し、本件では、後者の終局的差止がいかなる場合に認められるべきかが争点となった。
 すなわち、歴史的な衡平(エクイティ)の原則に基づけば、終局的差止が認められるためには、4要素を勝訴者が立証することが必要とされている。CAFCは、この歴史的な衡平の原則に基づく4要素テストは考慮せず、一般ルール、すなわち、特許が有効で特許権侵害が認められる場合、自動的に終局的差止が認められると判示したのである。つまり、特許権侵害において、より特許権に基づく終局的差止に大きなパワーを付与するのか、あるいは、伝統的な衡平の原則に従う終局的差止だけしか認めないのかが争点となった。

4.最高裁の判断

 (1)特許法においても、伝統的な衡平の原則に従う4要素テストが適用される
 歴史的な衡平の原則によれば、勝訴者に対し終局的差止を認めるかどうかを決定する場合、一般に伝統的な4つのテストが、適用されることが、最高裁で判示されている*3。
具体的には、勝訴者が以下の4つの事項を立証することが必要とされる。 (1)回復不可能な損害の存在(2)法による救済(損害賠償等)が不十分であること(3)両当事者に生ずる不利益のバランス(4)公共の利益が害されないこと
 そして、そのような救済を認めるか否かは、連邦地方裁判所による衡平の観点に基づく裁量により、また控訴裁判所もこれを再考することができるのである。
 最高裁は、これらの原則は特許法にも適用されると述べた。その理由として、最高裁は、過去の最高裁判例において、 衡平の原則の歴史的伝統からの逸脱は安易に認めるべきではない、と繰り返し判示していること、また議会(Congress)が特許法に、 そのような逸脱を示唆していたということは認められない、ということを主な理由としてあげた。また、米国特許法第283条は、 差止は「衡平の観点に基づき」下すことが「できる」と規定しているにすぎないと述べた。

(2)著作権法においても衡平の原則に従う4要素テストが適用される
 また、最高裁は、著作権法が特許法と同様に、「裁判所は差止救済を認めることができる」と規定しており(17 U.S.C.(著作権法)502(a))、過去の判例において4要素テストを立証しなければならないと最高裁が判示していることを挙げた*4。このように知的財産権法の一種である著作権法において衡平の原則に基づく4要素テストが採用されているので、特許法がこれから逸脱することは認められないと判示した。

5.結論

 最高裁は、地裁及びCAFCのどちらもが、衡平の原則に基づく4要素テストを考慮していなかったので、CAFCの判決を取り消し、本判決に従った審理を行うよう命じた。

6.コメント

 本事件においては、最高裁はeBayに対する終局的差止を認めるべきか否かの判断までは行っていない。特許法において終局的差止を認めるか否かは、他法と同じく衡平の原則に基づく4要素テストが採用される旨が判示されたのみで、本事件において、終局的差止が認められるか否かは、今後新たに議論されることになる。
 判決において最高裁は、例示として、大学研究者または個人発明家等の権利者は、現実に市場において特許発明を実施して利益を得ることよりむしろ、ライセンスをすることを希望すると述べ、そしてそのような権利者はかかる4要素テストをクリアするであろうと判示している。今後の訴訟において、この4要素に関する具体的基準が明らかになっていくであろう。

   
判決 2006年5月15日
以 上

【注釈】
*1 275 F. Supp. 2d 695 (2003)
*2 ヘンリー幸田著「米国特許法逐条解説 改訂版」社団法人発明協会p234
*3 Weinberger v. Romero-Barcelo, 456 U. S. 305, 311-313 (1982); Amoco Production Co. v. Gambell, 480 U. S. 531, 542 (1987).
*4 New York Times Co. v. Tasini, 533 U. S. 483, 505 (2001) (citing Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U. S. 569, 578, n. 10 (1994)); Dun v. Lumbermen's Credit Assn., 209 U. S. 20, 23- 24 (1908)


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