1.概要
本事件はUSPTO特許審判・インターフェアレンス部(以下、審判部)がなした米国特許法第103条(自明性)を理由とする拒絶に対する控訴審である。争点となった原告のクレーム構成要件は「generating
page data」stepであり、端的に言えば個人情報に基づいてWebページを生成するステップである。例えば個人の好みに応じた店のクーポンがWebブラウザに表示されるステップである。
一方、先行技術も顧客の特性に応じてカスタマイズされた広告をWebブラウザに表示する。しかし先行技術の広告は顧客の特性に基づく複数のハイパーリンクがWebブラウザに表示される。顧客はこのハイパーリンクを選択して好みの店にアクセスすることができる。
つまり、原告の出願は個人情報に基づくページがWebブラウザ上に表示される点で、個人情報に基づきセットされたハイパーリンクがWebブラウザ上に表示される先行技術とは相違する。
この場合に、米国特許法第103条における一応の自明性(prima
facie case)を認定できるか否かが争点となった。共にpage dataをgeneratingしているので、自明といえそうである。USPTOにおける審査及び審判部における判断は103条のもと自明であると判断された。CAFCは審判部の判断を覆し、自明ではないと判断した。ハイパーリンクはpage
dataの生成といえるかこれが争点となった。
2.背景
1999年9月23日原告は特許出願No.
09/401,198(以下198出願)を申請した。198出願はWebページを生成するシステム及び方法である。審査において198出願は先行技術(U.S.
Patent No. 5,933,811)からみて自明であると判断された(米国特許法第103条)。原告はこれを不服として、審判部に控訴したが、審判部は審査におけるこの判断を維持する決定をなした*1。原告は審判部による決定を不服としてCAFCに控訴した。
3.CAFCの争点
ハイパーリンクはページデータといえるか?ハイパーリンクの表示はページの生成といえるか?
争点となったのはクレーム41*2の下線で示す構成要件である。
41.Webページを生成するためのコンピュータにより実行される方法であって以下のstepを含む:
個人情報のためのプロンプトをメインコンピュータからパソコンへコンピュータネットワークを通じて送信するステップ;
前記プロンプトに対応して、個人情報データを前記パソコンから前記メインコンピュータへ前記コンピュータネットワークを通じて送信するステップ;
前記個人情報データに基づくWebページを定義するページデータを生成するステップ(generating page data)。
この構成要件に対応する事項として明細書には、インターネットを通じて顧客にクーポン等を送信する方法が記載されている。つまり、顧客は個人情報をパソコンに入力し、メインコンピュータへ送信する。メインコンピュータは顧客の個人情報にマッチするWebページを生成する。例えばこの生成されるWebページには、顧客の個人情報に基づくクーポンが貼り付けられている。顧客はパソコンに表示されたクーポンをプリントアウトして、小売店で用いることができる。
一方、先行技術は相互通信システムにおいて個人情報に基づきカスタマイズされた電子広告を配信するシステム及び方法を開示している。この先行技術のシステムにおいては、顧客へ送信されるカスタマイズ広告は、顧客の個人情報に基づき生成されるハイパーリンクを有する。つまり、先行技術においては、メインコンピュータが個人情報にマッチする店舗のサイトへリンクするハイパーリンクをWebページに埋め込み、このカスタマイズされたWebページを顧客へ送信する。顧客は表示されるWebページのハイパーリンクをクリックすることにより、特定の店舗のサイトにアクセスすることが可能となる。審判部はこの個人情報に基づくハイパーリンクをクリックすることにより、顧客はWebページへ導かれるから、クレーム41は当業者にとって自明であると判断した。
ここで、問題となるのはハイパーリンクがクレーム中の「ページデータ(page
data)」といえるのか、また、ハイパーリンクを表示することが「生成する(generating)」といえるのか否かが問題となった。
4.CAFCの判断
「ページデータの生成」は「データの創造(creation)または創作(origination)」を意味する
CAFCは、ハイパーリンクはWebページではなく、むしろ、インターネット上のアドレスにすぎないと判断した。そして顧客がこのアドレスであるハイパーリンクをクリックしたとしても、それはリンク先のWebページが表示されるにすぎず、クレームの「個人情報データに基づくWebページを定義するページデータを生成する」には到底関連づけられないと述べた。
またクレームでは「ページデータを生成する」と規定している。これは、そのページデータが生成されることを意味し、単に選択されることではないことを意味する。すなわち、本発明は新たにページデータを生成する点で、ハイパーリンクを表示し、これをクリックして予めサーバに記憶されているページを読み出して表示するにすぎない引用文献とは全く相違するのである。
つまり、「ページデータの生成」は「データの創造(creation)または創作(origination)」を意味するものと解釈される。CAFCは、ハイパーリンクの表示により「ページを生成する」ことが教示または示唆されていると判断した審判部の判断を誤りとした。
5.結論
審判部がなした「generating page data」の解釈は不当に広く、CAFCは先行技術は、「generating page data」を教示または示唆していないと結論付け、クレーム41に関する審判部の決定を無効とした。
6.コメント
自明性の判断において、個人情報に基づくハイパーリンクの表示は、個人情報に基づくページデータの生成を示唆するものではないとして、審判部の判断が覆された。なお、本判決についてはMayer判事が反対意見を述べている。日本における進歩性の判断と同じく自明性の判断は困難を伴うことが多い。自明性の微妙な判断が要求される場合に、参考となる判決である。
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