CAFC Update(33)
■2006.6.20■
MARK BRUCKELMYER, Plaintiff-Appellant, v. GROUND HEATERS, INC., Defendant-Appellee, 削除により公開されなかった事項も先行技術に該当する |
1.概要 出願時1年以上前に公開された他人の刊行物は、先行技術に該当する(米国特許法第102条(b))。本事件においては刊行物として用いられたものはカナダ特許であり、しかも該当する部分は補正により削除され公開されていなかった。この補正により削除された事項を閲覧するためには、カナダ特許庁に対し包袋資料の請求を行う必要がある。 この場合、この削除された事項が米国特許法第102条(b)にいう刊行物に該当するのか否かが問題となった。地裁は、刊行物に該当すると判断し、CAFCもこれを支持する判決をなした。 2.背景 Mark Bruckelmyer(以下、原告)は、U.S. Patent No 5,567,085(以下085特許)及びこれの一部継続出願であるU.S. Patent No 5,820,301(301特許)を所有している。これらは、コンクリート層を形成する前に凍土を解凍する方法を権利化している。原告は、Ground Heaters(以下、被告)らが特許を侵害するものとしてミネソタ連邦地方裁判所へ提訴した。 被告は、085特許等の10年以上前にカナダで発行された1,158,119特許(以下、119特許)を先行技術としてあげた。119特許の特許公報には、085特許に対応する事項は記載されていない。しかし119特許の元となる出願(以下119出願)明細書の図3及び図4には、085特許と同一の技術が開示されていた。この図3及び図4は審査の段階において削除され、公開されることなくカナダにおいて119特許が成立した。 この119出願の図3及び図4はカナダ特許庁において包袋書類を請求しなければ閲覧することはできない。原告は、かかる図3及び図4は米国特許法102条(b)にいう刊行物に該当しないと反論した。地裁は、原告の主張を退ける判決をなした*1。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。 原告はこれを不服として控訴した。 3.CAFCの争点 削除された事項が、公にアクセス可能であるといえるか? 米国特許法第102条(b)は、以下のように規定している。 次の各号の何れかに該当する場合を除き,何人も特許を受けることができる。 (b) 合衆国における特許出願日より1年を超える以前に,その発明が,本邦若しくは外国において特許され,若しくは刊行物に記載されていた場合,又は本邦において公然用いられ若しくは販売されていた場合*2 先行技術が刊行物に該当するか否かは、それが、出願前において「公にアクセス可能」であるか否かにより判断される。過去の判例(Wyer事件*3)においては、以下の場合に「公にアクセス可能」と判断される。 (i) 文書が、現実に配布されている場合、または (ii) 現実に配布されていない場合、合理的な努力を行う者及び当業者が、先行技術を見つけ出せ、認識でき、さらなる調査または実験を行うことなく発明を理解することができる範囲で利用可能な場合 119出願の図3及び図4は、本件特許出願前に現実的に配布されていないが、図3及び図4は、包袋書類に存在し、利用可能であったことに争いはない。ここで問題となるのは、合理的な努力を行う当業者が、119出願の図3及び図4を見つけ出すことができるといえるか否かである。 4.CAFCの判断 包袋書類にしか存在しない事項も刊行物に該当する Wyer事件においては、オーストラリアにおいて要約書が一般に公開された。一方、対応する特許出願は公開されていなかったが、オーストラリア特許庁にて検閲が可能であったので、当該特許出願は刊行物と判断された。なぜなら、その分野において関心のある当業者であれば要約書を手がかりに特許出願を検閲すると考えられるからである。 Wyer事件において、要約書が庁内の特許出願への手がかりになったように、CAFCは、公開された特許出願は、庁内の包袋書類へのロードマップとなるものであると述べた。この公開された特許出願を元に、当該出願に関心のある当業者であれば、包袋書類にのみ存在する図3及び図4へアクセスするであろうと理由付け、これらの図面も刊行物に該当すると判断した。 5.結論 CAFCは、カナダ特許庁により公開されていないが、包袋書類にのみ存在する図3及び図4は刊行物に該当すると判断した地裁の判決を支持した。 6.コメント 外国特許庁において、包袋書類にのみ存在する事項も、米国特許法第102条(b)の刊行物に該当すると判示された。訴訟等において無効資料がどうしても発見できない場合は、包袋書類を取得してみるのも一つの手である。 しかし、この判決に対しLinn判事は反対意見を述べている。要約は、技術の一部しか開示されていないから、当業者であれば、未公開の特許出願を庁へ請求して検閲するというのは理解できる。しかし、公開特許は要約とは異なり一般に全ての技術的事項が公開されるのである。そうすると、先行技術調査者、または明細書作成者等の当業者は、全ての技術が開示された公開特許のみを分析するのが普通であり、わざわざ包袋資料まで検閲することはないと考えられる。しかも119出願はケベックにあるカナダ特許庁に存在するのである。このような場合にまで本当に刊行物といえるのか?Linn判事は疑問を投げかけている。 なお、日本の判例においては、ベルギー国商工業所有権図書館において特許明細書が公衆に閲覧可能となったというだけでは、「公然知られ」に該当しないと判示している(「被告主張の特許明細書がベルギー国商工業所有権局図書館において公衆が閲覧しうるようになつたというだけでは、その閲覧しうるようになつた日からわずか一七日後にベルギー国に特許出願した者と同一の者によつてわが国に本件意匠の登録出願がされた本件の場合において、その事実のみによつては、いまだ本件意匠が意匠登録出願前に外国において公然知られていたものであるとすることはできない。」)*4。 |
判決 2006年4月20日 |
以 上 |
【関連事項】 |