CAFC Update35

2006.8.20 


PRIMOS, INC.,
Plaintiff-Appellee,
v.
HUNTER'S SPECIALTIES, INC.
Defendants-Appellants,

Festo判決における禁反言の推定は反駁できる


1.
概要

 Primos(以下、原告)は、猟笛に関するU.S. Patent No. 5,415,578(以下、578特許)を所有しており、特許権侵害としてHunter's(以下、被告)を訴えた。本事件では578特許の文言「平板plate」の解釈が問題となった。被告製品の猟笛の一部は平板ではなく「ドーム」であるため、原告は均等であると主張した。しかし、この「平板」を含む構成要件は、審査段階において補正されていたため、被告は禁反言の法理により、均等論は主張できないと反論した。Festo判決*1では、原則として特許性に関する減縮補正があった場合は禁反言が推定され、均等論を主張できないが、一定の場合には、禁反言の推定を反駁することができると判示された。本事件においては、地裁は原告が禁反言の推定を反駁し、均等論を主張できると判断し、控訴審であるCAFCにおいてもこの判断は維持された。

2.背景

 578特許は猟笛に関する。これは猟師が動物の鳴き声をまねるために用いるものであり、口の中へ入れる振動板を備える。  図に示すように、振動板猟笛10は、フレーム18、音を発するために振動する薄膜22、可撓性の周辺端部12、及び、薄膜22上に広がる平板(棚)15を含んで構成される。ユーザは猟笛を舌の上に置き、舌と薄膜22との間のギャップを通じて空気を送り込む。空気は、薄膜22をふるわせ、特定の動物の鳴き声をまねる音を発する。



 2001年原告は、被告をアイオワ州連邦地裁に特許権侵害で訴えた。被告製品 「 Tone trough 」は、猟笛であり、 原告特許の平板の代わりに、薄膜上に広がるドームをもつ。 地裁 は、補正の理由が均等物と関係がなく禁反言が推定されないとした上で、平板とドームとは均等と判断し特許権侵害の判決をなした*2。 被告はこれを不服と してCAFCへ控訴した。

3.CAFCの争点

Festo判決の禁反言推定は反駁できるか?
  争点となったのは、578特許クレーム2 *3の「平板plate」の文言である。原告は、審査過程において、先行技術を回避すべく「平板plate」の文言を下記の如く補正した。
長さをもつ平板(plate having a length)、該平板は、・・・様々な位置にて前記薄膜部分の上で 異なる間隔をあけておかれている(plate being differentially spaced)。」
   当該補正が、特許性に関する減縮補正であることに争いはない。被告は、当該補正により、禁反言が推定され、「平板」と「ドーム」とを均等とする主張は認められないと述べた。これに対し、被告は、当該補正の理由は均等物とはほとんど関係がないと主張した。

4.CAFCの判断

減縮補正の根本的理由(rationale)が均等物に対してほとんど関係(tangential relation)がない場合、禁反言の推定を反駁できる
 Festo判決で述べられたように、クレームが、審査過程において特許性のため減縮補正された場合、禁反言の推定がなされ、均等論の主張は認められない。しかし、特許権者はこの推定を3つの方法により覆すことができる。その一つは、
減縮補正の根本的理由(rationale)が均等物に対してほとんど関係(tangential relation)がないこと である。
(1) 「長さをもつ平板(plate having a length)」について
 原告は、平板が「長さlength」をもつと補正した。しかしCAFCは、全ての物理的な物は長さをもつので、文言「長さlength」を追加することは、そもそもクレームの範囲を限定するものではないと判断した。
(2) 「異なる間隔をあけておかれている(plate being differentially spaced)」について  原告は、間隔を全く有さずに、薄膜上に載置される棚形状(shelf-like)を開示する先行技術を回避するために「異なる間隔をあけておかれている」と限定した。一方、被告製品は、薄膜上で間隔をあけておかれているドームを備えている。
 被告製品のドームは薄膜上で間隔を有していることから、全く間隔を有さない先行技術との差異を出すという補正の根本的理由と、被告製品の均等物とはほとんど関係がないといえる。すなわち、薄膜との間隔に関しては均等論を主張し得ないが、依然平板とドームとの均等は主張し得ることになる。
 従って、CAFCは原告が禁反言の推定を反駁し、均等論を主張(平板とドームとが均等であると主張)し得ると判示した。

5.結論    

 CAFCは、補正の理由が、被告製品の均等物に対しほとんど関係がないため、禁反言の法理が、均等論の適用を妨げないとする地裁の判断を支持する判決をなした。

6.コメント

 禁反言の推定を覆す他の条件としては
(1) 均等物が補正時に予測不可能(unforeseeable)であること
(2) 争点となる置換物を特許権者が記載できなかった合理的理由があること の2つである。Festo判決以降の判例を分析すると、本判決で争点となった条件に基づく反駁が認められるケースが最も多い。審査過程において、クレームの文言を補正することがほとんどであるから、均等の範囲を検討する際には、引例と比較してなぜそのような補正が行われたか、均等物がこの補正といかなる関係を有するか等を総合的に判断する必要があるといえる。

判決 2006年2006年6月14日
以 上

【関連事項】

判決の全文は下記のジョージタウン大学Law Centerのライブラリから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/05opinions/05-1001.pdf

【注釈】

*1 Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd., 344 F.3d 1359 (Fed. Cir. 2003).
*2 Primos, Inc. v. Hunter’s Specialties, Inc., No. C01-004 (N.D. Iowa Sept. 9, 2004)
*3 578特許のクレーム2

A game call apparatus to be completely inserted inside a person’s mouth for calling game, comprising:

a frame;

a membrane of material stretched over the frame;

a flexible and moldable peripheral edge extending outwardly from

the frame; and
a plate having a length, the plate extending generally upward from the frame and over a portion of the membrane, the plate being differentially spaced above the portion of the membrane at various locations along the length of the plate.


Copyright 2006 KOHNO PATENT OFFICE