CAFC Update(36)
■2006.9.20■
LG Electronics, Inc., Plaintiff-Appellant, v. Bizcom Electronics, Inc. et al., Defendants-Cross-Appellants, (交差控訴人) 適法に部品を購入しても、明示的な条件がある場合 特許権は消尽しない |
1.概要 特許権者から特許製品を購入した場合、その段階で特許権は消尽し、その後購入者は自由に特許製品を使用・販売することができる。特許権者(LG)は条件付きで訴外Intelにコンピュータシステムに係る特許のライセンスを設定し、Intelはシステムに係る特許の構成部品であるマイクロプロセッサを製造している。Intelはこのマイクロプロセッサを第3者に販売することができる。 しかし、ライセンスには、第3者が、IntelのマイクロプロセッサとIntel製の部品とを組み合わせたシステムからなる製品を販売することは認めるが、第3者が、Intelのマイクロプロセッサと非Intel製の部品とを組み合わせたシステムからなる製品を販売することは認めないとする条件が設定されていた。 本事件ではIntelからマイクロプロセッサを適法に購入した第3者が非Intel製品を組み合わせた製品を販売する行為が、特許権の侵害となるのか、あるいは、特許権は消尽し、この第3者の行為には特許権が及ばないのかが問題となった。 2.背景 LG Electronics(以下、原告)はU.S. Patent No. 4,918645,5077,733等計5件の特許(以下、645特許等)を有している。645特許等は、コンピュータシステムバスの帯域効率増加システム及び方法を開示*1している。原告はIntelに対し、コンピュータシステム及び部品に関する全特許をカバーするライセンスを付与した。 Bizcom Electronics等(以下、被告)はマイクロプロセッサをIntelまたはIntelの正規卸売業者から購入し、これらをコンピュータに取り付けている。Intelは、これらの製品を被告へ販売することを原告との合意により認められている。 しかしこの合意には条件があった。すなわち、Intel製品を被告へ販売しても良いが、このIntelのマイクロプロセッサに非Intel製品を組み合わせて販売してはならないとの条件が付加されていた。 原告は、Intel製マイクロプロセッサと、非Intel製部品との組み合わせ製品は、645特許等を侵害するとして、被告をカリフォルニア州連邦地裁に提訴した。なお、原告は、マイクロプロセッサ自体の特許権は主張していない。 地裁はシステムに係る原告特許権は消尽したと判断し、特許権侵害は成立しないとの判決*2をなした。一方、方法に係る特許権は消尽しないと判断した。 原告はシステムに係る特許権の消尽の判断を不服としてCAFCへ控訴した。また被告は方法に係る特許権の消尽の判断を不服として交差控訴した。 3.CAFCの争点 (1)構成部品を適法に購入し、これに他の構成部品を組み合わせて販売する行為がシステム全体の特許権の侵害となるか?または消尽するか? 被告は原告のライセンスを受けたIntelからマイクロプロセッサを適法に購入し、これにIntel製でない部品を組み合わせた製品を販売している。原告、Intel及び被告間には、被告がIntel製マイクロプロセッサにIntel製の部品を組み合わせた製品を販売することを認める合意に至っている。しかし、被告がIntel製マイクロプロセッサに非Intel製の部品を組み合わせた製品を販売することを禁じている。このように、ライセンシーから適法にマイクロプロセッサを購入した被告がシステム製品を販売することが特許権の侵害となるか否か、すなわち特許権が消尽するか否かが問題となった。 (2)方法の発明に係る特許権が消尽するか? 方法の発明に係る特許権が消尽するか否かも問題となった。 4.CAFCの判断 (1)消尽論は、明示的な条件下での販売またはライセンスに対しては適用されない CAFCは特許消尽の原則について過去の判例を挙げ、次の原則を述べた。 消尽論は無条件販売(unconditional sale)により生じる*3。すなわち、特許製品の販売につき特段の定めがない場合、特許権は消尽し、その後、購入者は購入製品を自由に使用または処分することができる。 その一方で、消尽論は、明示的な条件下での販売またはライセンスに対しては適用されない*4。このような条件付きライセンスの場合、装置の販売価格よりも低い装置の使用権を考慮した価格が当事者間で協議され、これに応じた条件が設定されるからである。 原告とIntelとの間のライセンスは、コンピュータシステムの製造者がIntelのマイクロプロセッサと他の非Intel部品とを組み合わせること明確に拒否している。しかも、この条件付きライセンスにおいては、Intelが、被告に対しこのような条件が設定されていることを通知するよう義務づけており、Intelはこれを実行していた。このように原告とIntelには明示的な条件が付されたライセンスが設定されていた。 一方で、適法にライセンシーから部品を購入した購入者が、ライセンシー以外の製造者から購入した部品を組み合わせて販売することを禁ずる条件を設定したライセンスを認め、この条件に従わない場合、特許権が消尽しないとすることが妥当とする判断をサポートすべく、CAFCは以下の根拠を挙げた。 ニューヨーク統一商事法典N.Y.U.C.C. Law §2-202には「その契約文言がcomplete(全面的)かつexclusive(排他的)でない限り、矛盾しない追加の文言による補完を契約に認めている」と規定されている。従って、原告とIntelとの間の当該条件付きライセンスは有効であり、この明示的条件に反した被告に対しては特許権が消尽しないと結論づけた。 (2)方法の発明に係る特許権については消尽しない。 装置の販売によっては、方法クレームの特許権は消尽しないということは過去の判例により確立されている*5。そして、CAFCは仮に消尽論が方法クレームに適用されるとしても、販売は条件付きであったので、消尽論は適用されないと判断し、地裁の決定を支持した。 5.結論 CAFCは、システムに係る特許権の消尽判断について地裁の判決を差し戻し、方法に係る特許権の消尽判断について地裁の判決を支持する判決をなした。 6.コメント ライセンシーとの間で明示的に条件が設定されており、かつライセンシーがこの条件を第3者に通知している場合は、この条件が優先され、たとえ被告がライセンシーであるIntelから構成部品を購入していたとしても特許権は消尽しないとされた。これは特許権者と譲受人との間で特別な合意がある場合には、並行輸入品について特許権が消尽しないとした日本のBBS並行輸入事件*6と判断と同じくするものである。 |
判決 2006年7月7日 |
以 上 |
【関連事項】 |