CAFC Update(39)
■2006.12.20■
Aero Products International, Inc et al., Plaintiffs-Appellees, v. Intex Recreation Corp., et al., Defendants-Appellants, 特許権と商標権の2重損害賠償は認められない |
1.概要 ある商品を市場で保護する形態としては、特許の他、デザイン特許(日本の意匠に相当)、商標、著作権、及びトレードシークレット等が挙げられる。このように一つの商品に複数の権利、例えば特許権、商標権及び著作権等が重畳した場合、特許法、商標法、著作権法及び不正競争防止法等で多面的に商品を保護することができる。 このような商品に関し侵害が発生した場合、特許権侵害に基づく損害賠償の他、商標権侵害または著作権侵害等に基づく損害賠償を請求することができる。ライセンスが絡む場合は、契約違反に基づく損害賠償も請求することができる。 このように異なる損害賠償請求権が重畳する場合、過去の判例においては原則としていずれか一方の損害賠償請求しか認められていない。 本事件では特許権侵害及び商標権侵害が同時に発生し、双方の権利に基づき損害賠償請求権の行使が可能な状態となった。地裁は、特許権及び商標権双方の損害賠償請求権に基づく損害賠償を認めた。被告はこれを不服として控訴した。 2.背景 Aero Products International, Inc.(以下、原告)は、U.S. Patent No. 5,367,726(726特許)を所有している。726特許は、エアベッドの構造に関する特許である。また原告は当該特許製品に「ONE TOUCH」の登録商標(U.S. Trademark Reg. No. 1,839,444)を付してこれを販売している。 一方、Intex Recreation Corp.は726特許の構造をまねたエアベッドを製造し、しかも同一商標「ONE TOUCH」を付して、小売りであるQuality Trading Inc.及びWal-Mart Stores, Inc.(以下まとめて被告)に販売している。Quality Trading Inc.及びWal-Mart Stores, Inc.(以下、被告)はこれを消費者に販売している。なお、これらの商標は被告のWebサイトにも使用されている。 原告は、イリノイ州連邦地方裁判所へ特許権侵害及び商標権侵害として被告を訴えた。地裁は原告の主張どおり、特許権侵害及び商標権侵害を認め、損害賠償金として、$6.9million(約8億2千万円)を認めた*1。 損害額の内訳は以下のとおりである。 特許権侵害 故意侵害により懲罰的に$2.95million(約3億5千万)が2倍され$5.9million(約7億円) 商標権侵害 1million(約1億2千万円) 被告は、地裁がなしたクレームの文言解釈、特許有効性及び損害額の判断に対しCAFCへ控訴した。本稿では損害額の判断に焦点を当てて解説する。 3.CAFCの争点 特許権侵害及び商標権侵害に基づく損害賠償は2重に認められるか? 本事件においては特許権侵害及び商標権侵害の双方が認められ、それぞれ権利に基づく損害賠償請求の行使が可能となった。過去の判例によれば、このような2重損害賠償は原則として容認されていない。 被告は、この過去の判例に基づき地裁がなした2重損害賠償は誤りであると主張した。 これに対し原告は、過去の判例は、単一の不法行為に基づき、権利者に単一の損害を与えたにすぎない点で、726特許の侵害、及び、商標権侵害の2つの異なる不法行為に基づく損害を与えた本事件とは異なると主張した。 さらに、原告は、同一のビデオゲームカートリッジの販売に基づき、商標権侵害及び著作権侵害の双方に基づく損害賠償請求権の行使を認めた任天堂事件*2を根拠に挙げ、本事件においても特許権侵害及び商標権侵害の双方に基づく損害賠償請求権の行使が認められるべきと主張した。 4.CAFCの判断 複数権利の2重取りは、著作権の例外を除き認められない。 Catalina事件*3では、デザイン特許に係る権利に基づく損害(米国特許法第284条)及び特許権に基づく損害(米国特許法第289条)の双方が主張された。しかし、2重損害賠償は容認されず、デザイン特許のみの損害が認められた。 Junker事件*4ではデザイン特許に係る権利に基づく損害及び契約違反に基づく損害の双方が主張されたが、契約違反に基づく損害は2重損害であり容認されなかった。 Celeritas事件*5では、特許権、トレードシークレット、及び、契約違反に基づく3重損害賠償が主張されたが、いずれか一つしか認められないと判示された。 このように、2重損害賠償は原則として認められていない。これは多数関連する権利に基づく請求は、相互に重複が発生するため、損害額の認定において重複部分の認定が非常に煩雑となるからである。 CAFCは、原告の特許権侵害及び商標権侵害の双方に基づく損害は、同一の被告侵害品の販売によって生じたものであるから、過去の判例と同じく2重損害は認められないと判示した。 また、CAFCは、任天堂事件は採用できないと判示した。 任天堂事件は、被告が模倣カートリッジの販売を行ったことから、原告が、商標権侵害及び著作権侵害に基づく損害賠償請求を行ったものである。ここで第9連邦控訴裁判所は、商標権侵害及び著作権侵害双方に基づく2重の損害賠償を認めた。 これは、著作権法第504条(a)では、法定損害(statutory damage)の請求が特別に認められているからである(17 U.S.C. §504(a))。 著作権法第504条(a)は次のとおり規定している。 著作権法に基づく損害: 著作権の侵害者は以下のいずれかの責任を負う (1)著作権者の現実の損害(actual damage)及び侵害者のあらゆる追加の利益・・・; または (2)法定損害(statutory damage) すなわち、著作権者は、現実の損害または法定損害のいずれかを選択することができる。商標権に基づく現実の損害(ランハム法*615 U.S.C. § 1117(a))及び著作権に基づく現実の損害の組み合わせは2重損害として容認されない。 しかし、商標権に基づく現実の損害及び著作権法に規定する法定損害との組み合わせは容認される。このように、本事件と任天堂事件とは事案が相違することから原告の主張は認められなかった。 5.結論 CAFCは、2重損害を認め、商標権侵害に基づく損害として1億2千万円を認めた地裁の判断は誤りとした。そして地裁の判決を無効とし、本判決に従った審理をさらに行うよう命じた。 6.コメント 本事件では商標権に基づく損害額が減額されることになったが、特許権に基づく損害賠償(懲罰含め7億円)、特許権に基づく差止及び商標権に基づく差止は全て認められた。2重、3重損害は原則として認められない。複数権利が重畳する場合、最も損害賠償額の大きいものを一つ選択して主張すれば良い。 |
判決 2006年10月2日 |
以 上 |
【関連事項】 |