CAFC Update(41)
■2007.2.20■
Plumtree Software, Inc., Plaintiff-Appellee, v. Datamaize, LLC,Defendant-Appellant, 方法発明とon sale barオーサリングツール発明の事例 |
1.概要 米国特許法第102条(b)は次のように規定している*1。 「次の各号の何れかに該当する場合を除き,何人も特許を受けることができる。 (b) 合衆国における特許出願日より1年を超える以前に,その発明が,本邦若しくは外国において特許され,若しくは刊行物に記載されていた場合,又は本邦において公然用いられ若しくは販売されていた場合*2」 米国特許法第102条(b)は所謂グレースピリオドを規定しており、特許発明について販売または販売の申し出をした場合でも、それから1年以内に特許出願をした場合、新規性が否定されない。この販売または販売の申し出を行った日から、1年を経過した場合は、米国特許法第102条(b)を理由として拒絶されることになる。この販売に基づく拒絶は、on sale barと呼ばれている。 本事件においてはオーサリングツールの作成方法に関する発明について、on sale barの適用の是非が問題となった。 2.背景 Datamize(以下、控訴人)はU.S. Patent No. 6,460,040(以下、040特許)及びU.S. Patent No. 6,658,418(418特許)を所有している。これらはオーサリングツールに関する発明であり、040特許は方法クレームを含み、418特許は方法及び装置クレームの双方を含む。オーサリングツールとは、文字、画像、動画または音声等、様々な素材を組み合わせたソフトウェアを作成するための支援ツールをいう*3。 本発明に係るオーサリングツールは、カスタマイズされた電子キオスクを作成する際に用いられる。実施例には、スキーリゾートにて、タッチスクリーンを通じて、スキー場の状態、ホテル及びレストランに関し、顧客に情報を提供する電子キオスクを作成するためのオーサリングツールが開示されている。040特許はキオスクそのものではないが、電子キオスクを生成するための方法を権利化*4している。 一方、Plumtree(以下、被控訴人)は企業のポータルソフトウェアを作成するソフトウェア会社である。2003年9月3日、控訴人は040特許の侵害であるとして被控訴人をテキサス州連邦地方裁判所に訴えた。2004年10月15日被控訴人は、040特許はon sale barにより特許は無効であるとの略式判決の申し立てを行った。被控訴人は、特許された方法は、critical date(出願日の1年前、限界日)前に、すでに販売の申し出がなされていたと主張した。 事実関係を時系列で示すと以下のとおりである。 1994年12月:発明者は、電子キオスクを作成するために用いるオーサリングツールの開発を完了した。 1995年1月17日:控訴人は、トレードショーに展示する電子キオスクを作成する申し出のために、スキー産業トレードショーのスポンサーであるSIA(Ski Industry of America)に対しプレゼンテーションを行った。そして、1995年3月のトレードショーの期間、電子キオスクを提供する申し出を行い、SIAがこの申し出を承諾したことにより、当事者間での契約が成立した。 1995年3月3日:トレードショーが開催された。トレードショーの初日直前で、電子キオスクは完成し、トレードショーにて、電子キオスクは展示された。この展示された電子キオスクは、特許発明に係るオーサリングツールにより作成された。 1996年2月27日:米国へ特許出願。限界日は1年前の1995年2月27日である。 95年3月のトレードショーにおいて展示された電子キオスクは、クレームの全てを具体化(embodied)していた点については、当事者間で争いはない。このことから、地裁はSIAとの契約も、040特許のクレームを具体化(embodied)したことになると判断した。 そして地裁は、当該契約は限界日よりも前であるので、被控訴人の主張を認めon sale barにより特許は無効であるとの略式判決をなした。控訴人はこれを不服として控訴した。 3.CAFCの争点 on sale barの判断はPfaff最高裁判決の2段階テストによる on sale barの判断基準はPfaff最高裁判決*5において判示された2段階テストによる。 第1条件:「製品は、商業上の販売または販売の申し出の対象でなければならない。」 第2条件:「発明は、特許出願のための準備ができていなければならない。」 第1条件及び第2条件が限界日前に満たされた場合、当該限界日前の行為により、新規性がないものとされる。 上述のように、94年12月には電子キオスクの開発は完了しているので第2条件は満たしている。本事件では、95年1月17日におけるプレゼン及び契約が、第1条件を満たすか否かが問題となった。 4.CAFCの判断 販売の申し出の対象が特許された発明であるか?方法クレームの全ての構成要件が申し出の対象であったかどうか? CAFCは地裁の判断は誤りであると述べた。本事件においては電子キオスクを作成するためのプロセス(方法)が特許発明であって、電子キオスクそのものが特許となっているのではない点に注意する必要がある。 方法特許におけるon sale barが争点となった事件としてScaltech事件*6がある。Scaltech事件においては、プロセスについて特許が付与されており、限界日前に当該プロセスが特許権者により使用されるという申し出がなされていた。この特許プロセスを使用するという申し出により、on sale barに該当すると判示された。 Pfaff事件の第1条件を判断する上で重要な点は、控訴人の商業上の申し出が「特許された発明」であるか否かにある。つまり、方法クレームの全ての構成要件に関し、販売の申し出を行った場合は、on sale barに該当する。 本事件においては、方法に係る特許発明の使用を要求していたかどうかは、契約書の記載から明確でない。当該契約書には、次のように記載されていた。 「バージニア州において1995年1月17日に、SIAに対し提示したように、インタラクティブタッチスクリーン情報センターを作成するのに必要なソフトウェア/ハードウェアパッケージを提供すること」 CAFCはこの記載が、(i) 控訴人に「特許された方法発明を実行(perform)することを要求しているのか」、または(ii) 控訴人に、「キオスクシステムソフトウェアを提供すること」のいずれを要求しているのかは不明瞭であると判示した。 このように、CAFCは限界日前における当該契約が、特許された方法発明のクレーム構成要件全てを実行することを要求しているのか否かは、明らかでないから、on sale barにより特許は無効であるとした地裁の判決を無効とした。 5.結論 CAFCは、on sale barにより特許を無効とした地裁の略式判決を無効とし、本判決に従って審理をさらに行うよう命じた 6.コメント 1年間ものグレースピリオドが認められる特許法第102条(b)は、米国特有の規定であり、販売後に特許出願されることも多い。そのため限界日前に販売または販売の申し出があったか否かが裁判所における争点となる。 on sale barの判断は、上述したようにPfaff最高裁判決において判示された2段階テストによる。本事件においては、オーサリングツールに係る方法発明により作成された物が申し出の対象であり、方法自体を実行することを申し出たわけではないため、特許は有効とされた。 本事件においては議論となっていないが、オーサリングツールのソフトウェア及びハードウェアに関しては販売の申し出を行っているため、方法以外のクレームはon sale barにより無効とされるであろう。 販売後1年以内に米国へ第1国出願をする場合、無用の争いを避けるためにも早期に出願手続きを行うことが望ましい。 |
判決 2006年12月18日 |
以 上 |
【関連事項】
|