CAFC Update(42)
■2007.3.20■
E-Pass Technologies, Inc., Plaintiff-Appellant, v. 3Com Corp., Palm, Inc. and Handspring, Inc. et al., Defendants-Appellees, クレームの文言「カード」の権利範囲はどこまで広がるか? |
1.概要 本事件ではクレームの文言”electronic multi-function card”の「カード」の解釈を巡って長期間の争いとなっている。イ号装置はPDAであり、「カード」の文言がPDAにまで拡張されるか否かが問題となっている。 2003年になされた第1回控訴審*1では、CAFCはカードを、「業界規格サイズ」のカードに限定解釈した地裁の判断を誤りとし、審理を再び地裁に差し戻した。 では、この文言「カード」をどのように解釈すべきか?サイズを限定すべきでないとすれば、どの大きさ、またどのような形状のカードにまで権利範囲を及ばせるべきか? 2.背景 E-Pass Technology(以下、原告)はU.S. Patent No.5,276,311(311特許)*2を有している。この発明は、種類の異なる複数のクレジットカードを一の電子多機能カードで代用するアイデアである。この電子多機能カードはカードの個人データを記憶するストレージとディスプレイを有している。 2000年2月、原告は3Com及びPalm等(以下、被告)に対し311特許の侵害であるとして損害賠償及び差止請求訴訟を北カリフォルニア地裁へ提訴した。このとき被告は「Palm Pilot」の商標でPDA端末を販売していた。 第1回審理において、地裁は、クレームの「カード」を、「業界規格のクレジットカードの幅・寸法を有するデバイス」と判断し、PDAであるイ号装置は文言上侵害に該当しないと判断した。 原告はこれを不服として控訴した。CAFCは第1回控訴審において、カードの通常の意味からすれば、クレームの「カード」を、業界規格のクレジットカードサイズのデバイスと限定解釈するのは誤りであるとして、事件を地裁に差し戻した。 第2回審理において地裁は、カードは「固い物質からなる矩形板」を意味し、イ号装置は、文言上の侵害に該当しないと判断した。原告はこれを不服として控訴(第2回)した。 3.CAFCの争点 カードの権利範囲はどこまで広がるのか? 業界規格のクレジットカードサイズに限定されないとすれば、逆にカードの権利範囲はどこまで広がるのか。なお、明細書には、ユーザがカードを持ち運ぶことができると記載されているにすぎず、サイズに関しては全く記載されていない。 4.CAFCの判断 PDAはカードの文言に該当しない。 CAFCは、クレームの文言「カード」が、文言上イ号装置にまで及ばないとした地裁の判決を支持した。 CAFCは、第1回控訴審において、カードを規格サイズのものに限定すべきではないと判示したが、例えば、ガラス窓またはベニヤ板をカードと解釈する陪審員は存在しないと述べた。 Phillips判決で判示されたように、クレーム解釈で最も重要なのはクレームの文言そのものである*3。そして、クレームの文言解釈にあたっては、通常の意味というだけではなく、日常の目的に添う直接的な意味(straightforward name for an everyday object)として解釈しなければならないと述べた。 CAFCは、陪審員は複数のカードを財布内に持っているであろうと述べた。これに対してイ号装置は、筐体表面から突出するボタン、ジョイスティック、キーボード、筐体表面下に存在するスクリーン、スタイラス(入力用のペン)を保持するための孔、及び、開いたときに150度の角度をなすフリップカバーを有する。このことから、イ号装置は文言上クレームのカードに含まれないと結論づけた。 5.結論 CAFCは、イ号装置が文言上カードの技術的範囲に属さないとした地裁の判決を支持した。 6.コメント 311特許は、数多くのクレジットカードをまとめ一つの電子カードとすることがアイデアの根幹である。明細書作成時にはPDAで同一の機能を実現することまでは想定していなかったのであろう。 カードの文言解釈については決着を見たが、今後は均等の議論が行われる可能性がある。CAFCは、均等論における侵害の是非に関し、イ号装置と”electronic multi-function card”との相違が、実質的かどうかの判断を行わなければならないと最後に述べている。 |
判決 2007年1月12日 |
以 上 |
【関連事項】 |