平成12年 改正法 (平成12年1月1日〜)

掲載 H11.12.13


< 制度改正の趣旨 >

知的財産権は、とても重要な産業の基礎構造であり又は新規産業を生み出す技術の種倉となるものであります。
そこで、今回、わが国の経済社会の再生とともに更に一段と活力と魅力に溢れたものにすべく、知的財産権制度の充実を図る特許法の改正が行われます。


< 具体的な内容 >
 
A.出願・審査段階

(1)出願審査請求の期間が、従来の「出願の日から7年」から「出願の日から3年」に短縮されます(特48条の3等)。

【平成13年10月1日以後に出願されたものから適用/平成13年10月1日時点で既に出願され、特許庁に係属している場合は適用せず】

従来より、ある発明について特許権を得るには、先ず「特許権を下さい」と特許庁に求める“出願”という要式行為をした後に、更に「本当に特許権が欲しいので審査して下さい」と求める“出願審査請求”という行為を行います。従って、この出願審査請求があるまでは、特許庁内で、権利化する為の手続が行われません。
これでは、出願人以外の第三者は、出願された発明が権利化されるか否かなかなか知ることが出来ず、その間、将来権利侵害とならないように自分の製品を設計変更しようか?等の判断に労力を強いられ、又、迂闊に技術開発や新規事業を起こすことが出来ません。
そこで、今回の改正により、権利化される為の手続きが早く行われ、このような第三者の不利益が和らぐことが期待できます

(2)新規性が喪失する事由が拡大されます(29条1項各号)。

【平成12年1月1日以後に出願されたものから適用】

従来より、国が特許権を与える要件として、「その発明は誰が見ても新しいこと」という“新規性”が求められ、法文上、「日本国内においてのみ公然知られた発明や公然実施された発明」は、新規性なしとして特許されません。

(a) 今回の改正により、「外国において該当するこれらの発明」も同様に扱われます。
これにより、例えば、従来は判断されなかった「海外の製品販売の事実や海外発表の内容より把握される発明」も、新規性なしとして特許されない場合があります

(b) また、「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」も新規性なしと扱われます。
これにより、例えば、「インターネット上のみで開示され、雑誌や図書等に記載されていない技術情報より把握される発明」も、新規性なしとして特許されない場合があります
尚、新規性がなくなる時とは、上述の例でいうと、公衆がインターネットによりアクセス可能となった状態をいい、掲示された時点をいいます。

(3)新規性喪失の例外規定の適用範囲が拡大されます(30条)。

【平成12年1月1日以後に出願されたものから適用】

従来より、上記(b)のごとく新規性が失われたと思われる場合であっても、「試験の実施,刊行物による発表,研究集会における文書発表,博覧会の実施」等が原因で新規性を失った場合であり、且つ、その発明と同一の発明を出願をした時は、新規性は失われなかったと扱われて、手続きが進む場合があります(30条)。

(a) 今回の改正では、(2)-(b)の改正に併せ、「インターネットによる発表」により新規性を失った場合についても同様に扱われることになります。
これにより、例えば、(2)-(b)の「インターネット上でのみ開示され、雑誌や図書等で記載されていない技術情報により把握される発明」が原因で新規性を失った場合でも、30条の要件を満たす場合は、新規性は失われなかったと扱われて、手続きが進む場合があります

(b) 又、今回の改正により、新規性を失った発明と同一でない発明を出願した場合であっても、本条の適用をうけることでき、新規性は失われなかったと扱われて、手続きが進む場合があります。
これにより、従来は認められなかった「研究集会での発表の際には、学術的な意義や成果を重視した内容で文章を発表し、特許出願の際には、権利範囲や明細書の記載要件を重視した文章を記載すること」ができるようになり、例えば、大学職員等による権利取得も多くなると期待できます

(4)出願人が希望する場合、出願から1年6月前であっても、申請により出願公開を行う早期出願公開制度が導入されます。(64条の2,3)

【平成12年1月1日以後に出願されたものから適用】

従来より、出願の日から1年6月経過後に、出願された発明の内容を公衆に公開する“出願公開”がなされ、その後、出願人には、その発明を勝手に実施した者に対し金銭を要求できる“補償金請求権”が発生します。
裏を返せば、1年6月以前は、出願人が発明を実施した結果、第3者がそれを見てその発明を勝手に実施しても何も言うことが出来ません。
従って、今回の改正により、例えば、出願の日から1年6月以内に出願人はその発明を実施したいが第3者に模倣されるおそれある場合、まず、早期公開を申請し、出願公開をなし、早期に補償金請求権を生じさせる事により、第3者に対する抑止力が可能となります
但し、一旦請求した後にこれを取り下げることは出来ない点には注意する必要があります。

(5)その他、分割・変更出願等に係る手続きの簡素化が図られます。

【平成12年1月1日以後に出願された分割・変更出願から適用】 


B.特許・特許権付与後

(1) 特許料,出願審査請求料,実用新案技術評価書の請求料が引下げられました。(107条等)

【平成11年6月1日以後に収めた特許料より既に適用されています。/但し、平成11年6月1日以前に既に納付した特許料については、差額の返納はされません。】

(a) 従来、例えば、“第1年から第3年分までの特許料”は、「毎年13,000円に1請求項につき毎年1,400円を加えた額」でしたが、改正後は、「毎年13,000円に1請求項につき毎年1,100円(25%off)を加えた額」に引下げました。
 これにより、本来、請求項が多数必要な基本発明について、料金の関係から、請求項を削り保護が不十分になっていたという問題は緩和されたと期待できます

(b) 又、“出願審査請求料”についても、従来、「1件 84,300円に1請求項につき2,700円を加えた額」でしたが、改正後は、「1件 84,300円に1請求項につき2,000円(25%off)を加えた額」に引下げました。

(2) 特許料等の軽減,免除,猶予の規定(109条等)の適用対象に「法人」が追加されます。

【特許料については、平成12年1月1日以後に特許査定を受けた者に適用】
【審査請求料については、平成12年1月1日以後に当該手続をした者に適用】

従来、「資力のない個人」のみを対象に特許料及び審査請求料等を軽減,免除,猶予していた点を、「資力のない法人」についても適用されます。
これにより、例えば、従業者が発明をし、それを資力のない会社が出願して権利化する場合にも適用できます

(3)特許存続期間延長登録制度の見直しがされます(67条等)。

【平成12年1月1日以後に延長登録するための出願がされたもので、且つ、平成10年1月1日以後に国の承認を受けた者に対してのみ改正法を適用】

この制度は、製薬の発明等、実社会で製造販売するには別途に国の承認を必要とするものについては、特許権を取得してもその承認を得るまでの間は、結局、何も出来ないため、その期間分の存続期間の延長を認めるものです。
今回の改正では、この制度を利用しやすいように要件が見直されました。
これにより、特許権による保護が充実する結果、研究開発に投資した費用を十分回収でき、更なる研究開発への意欲増大に繋がると期待できます

(4)その他、手続上の話として、「訂正請求の見直し」,「審判手続における公証機能の充実」,「裁判と特許庁との侵害事情報の交換」,「電子情報処理組織の使用の拡大」があります。


C.裁判

特許権侵害訴訟においては、権利者(原告)は、相手方(被告)の侵害と思う行為を特定し、その損害の額を算定し、その旨を裁判所に明らかにする一方、相手方(被告)は、そのことを否定し、争っていくものです。

【平成12年1月1日以前に生じた事項にも改正法を適用】

(1) 侵害行為の立証の容易化が図られます。

(a) 相手方(被告)は、権利者の特定した侵害を思う行為が、「自分の行為でない」と否定するとき、単に否定するだけでなく、自分の行為の内容をも明らかにしなければならないものなります(104条の2)。
これにより、例えば、相手方(被告)の実施行為が工場内で行われている等、権利者(原告)が訴状のみでは特定困難な場合でも、相手方(被告)が、そのことについて明らかにしてくれることがあり、侵害行為の特定が容易になると期待できます
但し、その内容に営業秘密が含まれていると認められる場合には、相手方(被告)は、これを拒否することができます。

(b) 一の当事者は、他の当事者の申立を受け取った裁判所から、「侵害の立証等に必要な書面を提出しなさい。」という命令を受けることとなります〔105条〕。
これにより、命令を受けた一の当事者は、例えば、“営業秘密に関連する文書”だというだけで勝手に提出を拒むことは出来ず、裁判所が、ケースバイケースで、提出義務があるか否かを判断することとなり、侵害行為の特定が容易になると期待できます
但し、例えば、工場が火事になり文書が消失してしまった場合には、提出を拒否することができます。

(2) 計算鑑定人制度が導入されます。

裁判所は、一の当事者の申立により、専門家に損害額の計算に必要な事項の鑑定を依頼し、その際に、他の当事者は、鑑定に協力する義務を負わされます(105条の2)。
これにより、損害額の計算に必要な書類が、経理・会計の知識のいる略語を使用していたり、コンピュータ管理された帳簿の打ち出しデータである等、説明を受けなければ部外者には理解出来ないものである場合は、他の当事者は、これを説明する義務を負わされますが、損害額の算定が容易になると期待できます

(3) 損害額の立証の容易化が図られます。

当事者が損害額を完全に立証できない場合であっても、裁判所は、その権限によって、相当な損害額を認定し、これを損害賠償金とすることが可能となります(105条の3)。
これにより、例えば、侵害行為があった為に自分の製品の価格が値下げに追い込まれたという事情や、特許発明が自分の製品にどれだけ寄与しているかとかどれだけ利益を生み出しているのかまで考慮しなければならない場合、又は、一部の地域では侵害品の販売数量を立証できたが、他の地域での販売数量を立証することができない等、損害額の算定を完全に立証出来そうにない場合でも、権利者は、とりあえず相当損害額の賠償を算定して請求することが可能となります

(4) その他、判定制度の強化や、刑事罰の強化がなされます。

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