引き出物特許に取消決定

2001.11.13
河野英仁


1,概要

 引き出物特許(特許第3023658号)に対して異議申し立てがなされ、審理の結果、取消決定となりました。引き出物特許は、結婚式の参加者へ引き出物を直接手渡すのではなく、参加者(受取人)の名簿を作成しておき、これを参照して後日、引き出物を参加者(受取人)へ宅配業者が配送するという贈呈方法です。つまり引き出物の贈呈方法という、ビジネス方法そのものについて特許が付与されたのです。このようなビジネス方法そのものが特許されたことから、特許庁が今後もこのような発明に権利を付与するのか、あるいは、付与しないのか、その是非が審理されたわけです。

2,引き出物特許(第3023658号)の内容

 引き出物特許の内容について簡単に説明します。引き出物特許の請求項1は、

【請求項1】
 A.引き出物贈呈者が、
 A1.受取人名欄・受取人住所欄・数種に群分けして引き出物明細を記入した引き出物グループ欄を有する贈呈リストを用いて、
 A2.受取人と受取人別の前記グループを特定して
 A3.引き出物の送り届けを委託者に委託し、
 B.続いて、前記委託者は
 B1.前記贈呈リストに基づく受取人毎の送り先と送り届け日を確認整理し、
 B2.しかるのち、任意の輸送手段によって前記贈呈リストによる指定引き出物を、前記確認整理による指定場所へ指定日に送り届けする
 B3.ことを特徴とする婚礼引き出物の贈呈方法。

 となっています。
 なお、記載に誤りがあることから「贈呈者」を「受取人」と読み替えています。

 結婚式では、参加者に対して引き出物が結婚式場において手渡されることになっています。引き出物は食器であったりしてかさばり、重いものです。また、参加者別に引き出物の差をつけることができないため、一律にそれなりの価格の引き出物を用意して各参加者に渡していました。

 この発明は、この問題を解決するために、参加者に対し後日宅配により引き出物を送付します。つまり、結婚式の参加者の名簿はすでにあるわけですから、参加者(受取人)の氏名、住所、引き出物の種類(グレード別)が記載された贈呈リストを、宅配業者へ渡し、引き出物を宅配業者が各受取人宅へ宅配することとしたのです。

 これにより、参加者にとっては、重い引き出物をわざわざ持って帰る負担が解消され、贈呈者は参加者に応じた引き出物(たとえば親戚等には価格帯の高いもの、友人には価格帯の低いもの)を渡すことができるという効果が生じます。

3,特許異議申立人の主張

 複数の異議申し立て理由が主張されましたが、主に特許法第29条第1項柱書き(産業上利用することができる発明)の規定に反するというのが申し立て理由となっています。申し立ての理由の概要は以下のとおりです。

 (1)審査基準においてはコンピュータのハードウェア資源をどのように(How to)用いるかを記載しなければならないとされているところ、そのような記載が全くなされていない。

 (2)「委託者に委託し」、「送り届け日を整理確認し、」、「指定日に送り届ける」行為は人間の思考、精神活動の結果実行されるものであるから、自然法則を利用しているものとはいえない、つまり単なる人的な取り決めにすぎない。

4,特許権者の主張

 これに対して特許権者側の主張は概ね以下のとおりです。

 (1)「贈呈者リスト」は「たとえば問題欄・解答欄・学習事項欄等をレイアウトした構成に基づいて多数実用新案登録された学習帳」と同一区分原理に属する物理的構成である。

 (2)贈呈のための諸行為は人為的な行為ではなく、輸送車等の物理的な輸送手段によって行われる行為であり、ハードウェア要件を有している。

 なお、(1)の主張ですが、過去に見る者にとって見やすく理解しやすい平面的考案に係る学習帳が実用新案登録された例があり、本発明もこれを引用して特許性ありと主張したものです。ただし、この考案は特別な構成により、見やすい、理解しやすいという効果を生じるため登録されたものです。一方、引き出物特許の明細書には図面がなく、また視覚的効果等があるとの記載も全く存在しません。

5,審理結果

(1)結論

 特許第3023658号の請求項1に係る特許を取り消す。

(2)理由

 理由は概ね以下のとおりです。

 特許法第2条1項によれば、特許法上の発明であるといえるためには、「自然法則を利用」していることが要件となる。自然法則を利用しない、自然法側以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取り決め、数学上の公式、人間の精神活動にあたるとき、あるいはこれらのみを利用しているときは、特許法上の「発明」に該当しないとされている。

 引き出物を結婚式の出席者に贈呈することが、社会的慣習として広く行われていることを認定したうえで、引き出物特許を見ると、引き出物の贈呈者と引き出物を送り届ける委託者との行うべき役割を、A1〜A3、及び、B1〜B2でそれぞれ特定したものであり、社会的慣習のもとでの当業者間の了解に基づく人為的取り決めを利用したものである。

 そうすると、贈呈者、委託者の行為は自然法則を利用したものとはいえず、両者の行為全体から見ても自然法則を利用したものとはいえない。

 よって、請求項1にかかる発明は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しないので、特許法第29条第1項柱書きに規定されている「産業上利用することができる発明ではない。

6,取消決定を考慮した今後の対策

 引き出物特許が登録されたことから、一種の誤解が生じていました。しかし今回の決定により、ビジネス関連発明のクレームは、コンピュータのハードウェア資源をどのように(How to)用いるかを明確に記載する必要があることが明らかになったと思います。つまり、ビジネス関連発明は、コンピュータ応用発明と位置づけられ、ビジネスを、コンピュータを用いて実現する具体的なハードウェア構成、及びソフトウェア処理をクレームに記載する必要があります。また、人為的な行為をなるべく記載しないようにする必要があります。

 では、引き出物の特許の場合、どのようにクレームを記載すればよいでしょうか?

 問題となったクレーム1とは別に下記のクレームを作成しておくことが望ましいでしょう。

クレーム2

 通信網を介して接続された第1のコンピュータ及び第2のコンピュータを用いて、贈呈する引き出物の発送手配を実行する引き出物贈呈方法であって、
 前記第1のコンピュータにより、引き出物の受取人、住所、及び引き出物の種類を含む引き出物情報を受け付けるステップと、
 受け付けた引き出物情報を前記第2のコンピュータへ送信するステップと、
 送信された引き出物情報に基づいて、前記第2のコンピュータにより発送伝票を出力するステップと
 を備えることを特徴とする引き出物贈呈システム。

クレーム3

 通信網を介して接続された第1のコンピュータ及び第2のコンピュータを用いて、贈呈する引き出物の発送手配を実行する引き出物贈呈システムであって、
 前記第1のコンピュータは、 引き出物の受取人、住所、及び引き出物の種類を含む引き出物情報を受け付ける手段と、
 受け付けた引き出物情報を前記第2のコンピュータへ送信する手段とを備え、
 前記第2のコンピュータは、 送信された引き出物情報に基づいて、発送伝票を出力する手段と
 を備えることを特徴とする引き出物贈呈システム。

 このように、コンピュータ等のハードウェアを記載し、これをどのように用いるか、クレームに記載すると共に、明細書中には具体的な処理の手順を、フローチャートを用いて詳述しておく必要があります。

以上

Copyright 2001 KOHNO PATENT OFFICE