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家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアの中古品の公衆への譲渡が
著作権侵害に当たらないとされた事例

2002年4月30日
河野英仁


 テレビ・ゲームソフトの中古販売が著作権の侵害に当たるか否かについては、東京地裁、東京高裁、大阪地裁、大阪高裁においてそれぞれ判決が出されていた。最高裁判所は、東京高裁及び大阪高裁の判決を支持し「中古テレビ・ゲームの自由流通は合法」としてソフトハウス側の主張を退けた。判決の要旨は以下のとおりである。

【事件表示】 平成13年(受)第952号著作権侵害行為差止請求事件

【裁判所】  最高裁判所 第一小法廷判決

【判決】   平成14年4月25日 上告棄却

【事案の概要】 ソフトハウスが中古テレビ・ゲームソフトの販売は著作権の侵害に当たるとして、販売店側に対し中古ゲームソフトの頒布の差し止め及び廃棄を請求していた。

【争点】
@テレビ・ゲームソフトは著作権法第10条1項7号にいう「映画の著作物」に該当するか否か。
A著作権者であるソフトハウスが著作権法第26条1項に規定する頒布権を占有するか否か。
B著作物の複製品を適法に譲渡した後に、譲受人がこれを再譲渡する行為に著作権が及ぶか否か。

【判決の要旨】
@本件各ゲームソフトは、著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」であり、同法10条1項7号に規定する「映画の著作物」に当たるとした原審の判断は、正当として是認することができる。

A本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上、その著作権者が同法26条1項所定の頒布権を専有するとした原審の判断も、正当として是認することができる。

B特許権者が国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には、当該特許製品については、特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばない(消尽論)とされるところ、著作物又はその複製物を譲渡する場合にも、原則として消尽論は妥当するというべきである。とし、その理由として、

 著作権者が譲受人に著作物または著作物の複製をいったん適法に譲渡した後に、譲受人が著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり、ひいては「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反することになる。

 その一方で、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し、又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、その代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない。

 さらに、映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは、映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと、著作権法制定当時、劇場用映画の取引については、専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと、等の理由によるものである。このような事情から、配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については、これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡等する権利が消尽しないと解されていた。同法26条は、映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて、何らの定めもしていない以上、消尽の有無は、専ら解釈にゆだねられていると解される。そして、本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、市場における商品の円滑な流通を確保するなど、上記観点から、当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。とした。

【コメント】 これにより日本における中古テレビ・ゲームの自由流通に関する司法の立場が確定したといえる。

以 上 

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