個人情報は知的財産ですか?

 

福永 正也 2006.5.1


 個人情報保護法の施行以来、様々な情報の漏洩問題が世間を騒がせています。個人情報は、私たちの日常生活においても、ごく自然な形で第三者へ伝達されます。個人情報を個々人の知的財産として保護することはできるのでしょうか。

個人情報保護法での「個人情報」

   通常の諸取引で交換する名刺に記載されている情報は、私たちが真っ先に目にする個人情報です。すなわち個人情報保護法では、「特定の個人を識別することができる情報」を個人情報としています。個人情報をデータ化した個人データ、保有個人データについては、安全管理措置が所有者に義務付けられています。すなわち、従業者、委託先企業等の管理責任も所有者たる企業の責任の範囲内であり、内部統制すら行なっていない企業では、法令遵守すらおぼつかない、というのが現状です。

不正競争防止法での保護

  一方、不正競争防止法では、営業上の秘密情報、いわゆる「営業秘密」が保護対象となっており、個人情報は「営業秘密」の一部として考えることもできます。しかし、「営業秘密」であるためには、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3つを備える必要があり、例えば個人データを記録したコンピュータに従業員の誰もがアクセス可能であり、パスワードの設定すらしていない状態では、(1)秘密管理性を有しておらず、営業秘密に該当しないとの判例が多々存在します。例えば平成15年(ワ)16407不正競争行為差止等請求事件では、ペットサロンの従業員が、独立時に旧勤務先の顧客情報を用いて行なう営業行為が不正競争行為であるか否かが争われました。本事件では、旧勤務先の近隣にて同一業態で営業しているにもかかわらず、旧勤務先にて顧客名簿の取扱いがぞんざいであったために、該顧客名簿は営業秘密とは認められず、不正競争行為はなかったものと判断されています。したがって、きちんと体系付けられたセキュリティポリシー及びそれに沿った情報管理を行なっていない限り、個人情報を営業秘密として保護することはできないのです。

結局、どのような企業であっても、重要な情報に対するアクセス権限の設定及び運用、セキュリティポリシーの定期的見直し、といったごく当たり前のことを当たり前に実施していない限り、たとえ退職者により顧客情報が流出した場合であっても法的には何等保護する手段がない、ということを肝に銘じておく必要が有るでしょう。

◆営業秘密の法的取扱いについては、河野特許事務所まで、お気軽にご相談ください。

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