「製造・販売しても商品から発明内容の類推が困難な技術はノウハウとして秘匿する」という事業展開をする場合、又は特許出願をせずに商品を製造・販売した場合に、後からの特許出願で他社がその発明の特許権を取得し、特許権侵害の訴えをしてきたらどうしますか。このような場合でも、先使用権制度を利用して、商品の製造・販売を安定的に継続することができるときがあります。
☆ 先使用権制度とは
他社の特許出願時以前に、特許と同一内容の発明を完成させ、事業をし、又はその事業の準備をしていれば、他社が特許権を取得した場合でも、法律で定められた範囲内で、その事業を継続することが認められるという制度です。
☆ 先使用権が認められるためには
他社から特許権侵害で訴えられた場合に、他社の特許出願時以前に自己の発明が完成していることを立証するため、研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書などの研究開発行為を示す技術関連書類を証拠資料として、及び他社の特許出願時以前に事業が実施済又は準備中であることを立証するため、事業計画書、事業開始決定書、見積書、納品書、帳簿類、作業日誌、カタログ、商品取扱説明書などの事業関連書類を証拠資料として予め準備しておくことが重要です。
☆ 証拠力を高めるための具体的な手法
@ 公証制度の利用(確定日付、事実実験公正証書など)
公証人に私署証書に確定日付を付与し、又は公正証書を作成してもらいます。例えば、証拠資料をまとめて袋とじして確定日付を取得する方法、弁理士又は技術に詳しい弁護士を立会人として、実験事実に基づいて事実実験公正証書を作成する方法があります。また、予め公正証書などを作成しておくことで、仮に裁判所から証拠保全命令を受けた場合でも、公正証書等を開示することで、提出する内部書類を制限することができる利点もあります。
A その他の方法
民間タイムスタンプ、電子署名、郵便制度の利用などもあります。
☆ 発明の保護を万全にするためには
予め特許権侵害訴訟を想定し、的確な証拠資料を保管して、先使用権を立証することは困難であり、多くの時間と労力を必要とします。また、先使用権が認められたとしても、他社によるその発明の実施を排除することはできません。したがって、開発成果である発明を保護するためには、特許出願をして特許権を取得することをお勧めします。
◆ 特許出願については、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。
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