2 法律的基盤
郵便、電話、電信等古典的な通信しか存在しなかった時代に定められた日本
国憲法は情報の保護について次のように規定する。
憲法 21条
1項 集会、結社及び出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはなら
ない。
表現の自由については、一定の制約がある。例えばわいせつ文書、図画のホ
ームページへの掲載であるが、その摘発例がある。表現の自由は本稿の主題では
ないが、この制約と通信の秘密とが関連する問題としてプロバイダ又はネット管
理者の通信情報監視の問題がある。これについては後述する。
2項の通信の秘密保持についてはこれを守らせるために具体的な法律が用意
されている。その代表的な、また基本的なものは電気通信事業法である。そこに
は
3条 電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。
4条
1項 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2項 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る
通信に関して知り得た他人の秘密を守らな ければならない。その職を退
いた後も、同様とする。
という規定があり、憲法21条2項を具体化している。ここに電気通信事業者
とは電話会社のみならず、プロバイダも含まれる。
3、4条以外にも、電気通信事業に従事する者のみならず、他の者も通信の
秘密を侵してはならないこと、通信の妨害をしてはならないこと等が規定されて
いる。
電波法という無線電信、無線電話等に関する法律にも同様の規定がある。
なお通信の秘密を侵す、とは、通信情報を知得すること、漏洩すること、窃
用することを指す。また対象となる情報は、通信の中身(内容たる事実)と、発
・受信者のアドレス、氏名、パスワード、発信地等の外形的な事実とがある。
さて、上述した法律によれば一応は個人の情報又は通信者のプライバシーは
守れるかのようである。
しかし、商業ネット会社、BBS主催者は電気通信事業者ではないし、また
これらの者が取り扱う情報は、電気通信事業法においてその秘密を守るべしとさ
れている「電気通信事業者の取扱中に係る通信」とは直ちには言えない。それは
通信を終えて一旦記憶媒体に入っている状態にある情報が取扱の主体だからであ
る。この様な状態の情報が商用ネット会社によって覗かれるところとなっても直
ちに違法とは言えないのである。逆に、商業ネット会社等は不適切な情報(例え
ば公序良俗に反する情報、特定の人を誹謗する情報など)が多数の人に流れると
いう不都合が生じないように情報を監視する義務があるともいえる。しかし、実
際には膨大な流入情報を人手をかけて監視することは不可能に近い。
通信されて蓄積される情報、特に外形的な事実については、格別の規制がな
いだけではなく、通信情報の本質ではないとの意識があるから、知得され、利用
される虞がある。例えば個々の利用者のアクセス履歴、又は統計的データは特定
の者にとって利用価値がある、つまり経済的価値がある情報となる。この場合個
人からみれば被害の実感はない。たがだかダイレクトメールが増えることしか顕
在化しないからである。
一方、発信者、受信者が属する組織(会社、学校など)の管轄内には電気通
信事業法は及ばないから、ここでの通信の秘密は保証されない。その組織が通信
内容を検閲したり、通信履歴の監視をして発信者、受信者の人物評価に利用する
ことが考えられる。
更に、インターネット通信のデータパケットは、発、受信地が日本であった
としてもその途中で外国へ一時的に出ていくことがあり得る。このような場合、
その外国内での通信には電気通信事業法などの日本国の法律は適用されない。
以上に見たように通信の秘密は法律上十分に守られているとは言えないのである。
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