〜顧客紹介とはどのような特許か〜
「Q&A インターネットの法務と税務」より
2001.9.28 |
河野登夫 |
Q | ビジネスモデル特許の一つとして、「顧客紹介」というしくみがあるそうですが、それはどのようなものでしょうか。 |
A | ご質問の「顧客紹介」特許(米国特許第6029141号)は代表的なビジネスモデル特許の一つであるワンクリックと同様、アマゾン社の権利です。日本へは特許出願されていません。 |
*解説*
顧客紹介の仕組み
この特許発明の仕組みの一例を示すと次の図のとおりです。
すなわち、販売者が図のシェフなどの販売協力者と提携して顧客の紹介を得る仕組みです。
販売対象が書籍に限らないことはいうまでもありません。
(1)「アマゾン」というウエブページ上の書店とイタリア料理のレシピを紹介するサイトを持っているシェフとが提携し、レシピサイトでシェフお気に入りのイタリア料理の新刊書籍を紹介します。
(2)紹介文を読んだ閲覧者がレシピサイトで取り上げられた書籍のタイトルをクリックすることでレシピサイトから「アマゾン」のサイトへ飛んで、「アマゾン」のカタログを参照して当該書籍を注文できるようにします。
(3)注文が得られた場合に「アマゾン」からシェフへ報酬を支払います。
販売協力の形態
提携者が販売に協力する形態はカタログの提示であると総括しており、前述の書籍紹介文の掲載も一種のカタログであると捉えています。提携者のカタログは販売者のカタログから抽出して作成したようなものといえます。いわば、提携者は仮想のセレクトショップ又は販売代理店であるとみなせます。
提携者が電子メールを用いて(潜在的な)顧客へ商品を勧め、またはカタログを送付する形態、および提携者による双方向テレビでのカタログを放映する形態も想定しています。
クレーム(請求項)は以上のような商業的仕組みのほかに、提携者登録の申込み、ならびに報酬の決定および支払いなどの電子化についても限定しています。
クレーム1の内容
クレーム1は以下のとおりです。クレーム1中の「ユーザ」は提携者です。
1.提携会員の支援による商品の販売方法において、 閲覧可能な商品カタログを有し、顧客が電子的に商品を購入できるようなサービスを提供するウェブサイトシステムを提供し; ユーザが、報酬を得て、カタログから商品を選択して推薦し、顧客をウェブサイトシステムに紹介する提携会員として活動するために、電子的に応募できるように成した提携会員登録システムを提供し; 前記登録システムに対するユーザの申込みに応え、ユーザに提携会員IDを与え、提携会員IDをコンピュータメモリ内に記録し; 顧客により選択された場合、ユーザの提携会員IDおよび推薦商品IDをウェブシステムへ転送させる商品特定リンクを有するハイパーテキスト文書を作成するための命令を電子的にユーザに与え; 提携会員IDおよび商品IDを含む依頼メッセージを受信し、商品の推薦と関連して提携会員により提供された商品特定リンクの顧客の選択に応えて顧客のコンピュータで作成された依頼メッセージから提携会員IDおよび商品IDを抽出し; 顧客のコンピュータへ、依頼メッセージから抽出した商品IDに対応するウェブページを転送し; 顧客に対する、前記商品/またはカタログ中の他の商品の販売をウェブサイトシステムによって行い; 依頼メッセージから抽出した提携会員IDを用いて提携会員を同定し; 前記販売に関する提携会員への報酬を決定し、コンピュータメモリ内に記録することを特徴とする商品販売方法。 |
クレーム17の内容
最も広い権利であると見られるクレーム17は以下のとおりです。クレーム17中の「ユーザ」は顧客です。
17.カタログから電子的に商品を購入できる販売者ウェブサイトシステムのユーザに対し、ユーザがアクセス可能な商品カタログから商品を、提携者の支援により販売する方法において、 複数の提携者をオンライン登録システムを使って登録し; 顧客が提携者のウェブサイトから追跡対象の販売者ウェブサイトへ紹介できるようフォーマットされたリンクを有するウェブページを作成するための命令の提携者への転送を開始し; 提携者のウェブサイトから販売者ウェブサイトへの顧客の紹介を追跡し; 結果としてカタログの商品を購入するに至る顧客の紹介に対する提携者の報酬を決定する商品販売方法。 |
クレーム36の内容
物の発明として捉えるべきシステムを主題とする独立のクレーム36は次のとおりです。
36 販売者の提携者が販売者のウェブサイトへ顧客を紹介するプログラムを実行する、コンピュータで実行されるシステムにおいて、 ウェブサイトへの顧客紹介を追跡できるようにフォーマットしたリンクを有するウェブページを作成するための命令に対するアクセスを提携者に提供し、また、提携者の登録を少なくとも部分的に自動化するために電子申請処理を提供する提携者登録システムと; 命令に従って提携者が提供したリンクの選択に応えて顧客コンピュータが作成した依頼メッセージに含まれた提携者IDを用いて行われる、提携者からのウェブへの顧客紹介を追跡する紹介処理システムと; ウェブサイトのカタログの商品の購入に至った顧客紹介に対する各提携者の報酬を決定し記録を保存する報酬システムを含む、コンピュータで実行されるシステム。 |
わが国における特許性
前記のようにこの発明は日本へは特許出願されていませんが、日本での特許性(発明の成立性)について考察してみましょう。
2000年12月28日、日本の特許庁は新しい審査基準を発表し
コンピュータ・ソフトウエア関連発明につき、プログラムを物の発明として認めることと、ビジネス関連発明(いわゆるビジネスモデルの発明)に対する審査の考え方を示しました。
この審査基準において、ビジネス関連発明は
コンピュータ・ソフトウエア関連発明の一類型であるとしています。したがって、発明の成立性が認められる(特許法第2条第1項に定義するように「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることと、特許法第29条柱書にある「産業上利用することができる」こととを満たしている。)要件も他のコンピュータ・ソフトウエア関連発明と同様に判断されます。この要件についての基本的な考え方は、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合にはその創作が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると認める、ということにあります。このような審査基準に照らせば、クレーム17はハードウエア資源についての具体的利用態様が示されておらず、成立性を欠くと言わざるを得ません。
これに対してクレーム1は、明示された顧客のコンピュータ及び販売者のコンピュータメモリのほかに、その前提としての販売者のコンピュータ及び提携者用のコンピュータ(「・・・命令を電子的にユーザに与え」などの記載から、提携者用のコンピュータが「ユーザ」として潜在的に記載されていると認められます)が存在し、それらを用いてのソフトウエアの処理が具体的に記載されていると言うことができ、クレーム1については成立性が否定されないと考えられます。
クレーム36はボーダーライン以下にあります。すなわち、顧客コンピュータの存在は明示されてはいますが、他のハードウエア資源の存在が明らかではなく、顧客コンピュータを用いての処理も依頼メッセージの作成だけであり具体性に欠けるからです。
以上
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