ドイツにおけるコンピュータプログラム関連発明の成立性

                      河野 登夫                             
<パテント2003.8 Vol.56(平成15年8月10日発行)に掲載>
                  

要約
 ドイツ特許法は、第1条で発明を定義しており、 コンピュータプログラムそれ自体を特許対象から排除していると読める表現となっている。本判決は、「単にコンピュータを使用しているという以上の技術的特徴を有している」という条件を満たす場合にはコンピュータプログラムそれ自体も特許法の保護対象とする、としたものである。

 
1.まえがき
 ドイツ連邦最高裁においてコンピュータプログラムに関連した発明についての成立性の判断基準を示す判決があった(2001年10月17日 X ZB16/00)。主たる判示事項は「発明の成立性が認められるためには、コンピュータプログラムは、単にコンピュータを使用しているという以上の技術的特徴を有している必要がある」というにある。これをEPOの審決例(IBMのComputer Program Product 事件 T935/97及びT1173/97)(1)と比較すると、EPO審決例は「更なる技術的な効果を必要とする」としており、本判決と少し異なっているが、方向性は同一であるということができる。
2.記録媒体/プログラムの保護の歩み
 2−1 ドイツ特許法第1条は特許性(第1項)及び成立性(第2,3項)につき以下のように規定している。
第1条
 [1] 特許は新規で、進歩性を有し、かつ、産業上の利用可能性を有する発明に付与される。
 [2] 特に、次に掲げるものは、[1]に定義する発明とはみなされない。
  (1) 発見、科学上の理論及び数学上の方法論。
  (2) 美学的な形態創作。
  (3) 知的活動、遊戯、又は営業活動のための計画、定則及び方法、並びにコンピュータ・プログラム。
  (4) 情報の提供。
 [3] [2]の規定により特許性が妨げられるのは、同項に掲げられている対象又は活動それ自体について保護が求められる場合に限られる。
                           (日本国際知的財産保護協会 発行 「外国工業所有権法令集」による)
 EPC第52条第2項(c)及び第3項と比較すると、コンピュータプログラムについては同様の規定ぶりであることが分かる。

 2−2 コンピュータプログラムの特許による保護を日米欧についてみると、以下のように、まずプログラムを記録した記録媒体を保護することが認められ、次いでプログラムを保護することが認められる、というプロセスを経た。
 1995年、USPTOは前年のCAFC判決(In re Lowry)(2)及び審理中の事件(In re Beauregard)を受けてコンピュータプログラムまたはデータ構造を記録した記録媒体が法定の主題である(発明の成立性を有する)との審査ガイドラインを発表した。これを受ける形て日本国特許庁は1997年4月1日以降の出願につき同様の扱いとすることになった。EPOでは記録媒体について格別の対応は行わなかったが、出願人は「プログラムを記録した記録媒体」は「プログラム自体」ではないから成立性は否定されないであろう、などの認識の下に「記録媒体」のクレームを記載する実務を行ってきた。
 1998年EPOの審判部はIBM事件2件T935/97及びT1173/97につき、コンピュータプログラムを記録した記録媒体、更にはプログラム自体に発明の成立性を認める趣旨の審決を下した(T935/97のクレームの主題はA computer program element、T1173/97のクレームの主題はA computer purogram product stored on a computer usable media)。この審決を受けて「コンピュータプログラムそれ自体」を非特許対象と定めているBPC52条2項(c)の改訂が審議されたが、実現に至らなかった。但し、EPOはこの審決を受けて「コンピュータプログラムそれ自体」を特許対象とする実務的運用をしている。
 日本国では2001年1月10日以降の出願には「コンピュータプログラム」及び「構造を有するデータ」を物の発明として請求項に記載することができる、との審査基準(3)を発表し、更に2002年9月1日施行の改正特許法第2条では「物(コンピュータプログラム等を含む)の発明」と規定して、「コンピュータプログラム」及び「データ」の発明の成立性を認めることとした。なおUSPTOはコンピュータプログラム自体を法定の主題として認めてはいない。
 以上は「コンピュータプログラムを記録した記録媒体」又は「コンピュータプログラム自体」であるが故に発明の成立性なしとはしない、という観点からの判断基準の変遷であり、その実体的内容に対しての発明の成立性も所要の条件を満たす必要がある。例えば日本の場合は、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されたもの」という要件が審査基準に規定されている。EPOにおける「 更なる技術的な効果」の要件もこれに当たる。言うまでもない事であるが、特許認可のためには新規性、進歩性についても満たす必要がある。
 このような流れの中で、ドイツ特許法における発明の成立性についてのドイツ連邦最高裁の判決がなされたのである。判示事項は前述の
 @発明の成立性が認められるためには、コンピュータプログラムは、単にコンピュータを使用しているという以上の「技術的特徴」を有している必要がある、の他に
 Aコンピュータプログラムが具体的な「技術的問題を解決」している場合または「技術的性質」を有している場合などには、上述の「技術的特徴」が有る、ということが出来る。例えばコンピュータプログラムが技術的プロセスに含まれる場合、または技術的考慮に基づいている場合には上述の「技術的性質」がある、ということが出来る。
 B以上の2つの条件を満たす場合、コンピュータプログラムクレーム(またはコンピュータ・プログラム・プロダクト・クレーム、記録媒体クレーム)は成立性有りとする。
 があげられる。以下、事件の概要及び判決を紹介する。
3.手続きの経緯とクレーム
 3−1 手続きの経緯
@1993年7月12日 ドイツ特許庁へ出願
A1998年7月6日
特許庁により主請求は拒絶査定
 →これに対して連邦特許裁判所へ審判請求
(補助請求でクレーム1〜21は認可)
B2000年2月29日 連邦特許裁判所第17部(審判技術部)の判決
主請求認めず
 →この判決に対して連邦最高裁判所へ上訴
C2001年10月17日 連邦最高裁判所第10部(特許部)の判決
 →連邦特許裁判所へ差戻
D2002年3月26日 連邦特許裁判所の判決
クレーム22〜24主請求;補正無し補助請求:若干の補正有り) →拒絶出願人は再度の上訴を断念
E2002年8月8日 特許庁は補助請求で認めていたクレーム1〜21を許可

 3−2 クレーム
 (3−2−1)Aの拒絶査定段階において認可されていた補助請求のクレーム
    1. 対応する欠陥のない文字列Siを含み、デジタル式に記録された文書から欠陥文字列Fiをコンピュータで検索及び/又は訂正する方法において、
        a)欠陥のない文字列Siの発生頻度H(Si)が確定され、
        b)可能性のある欠陥文字列fijが生成されるように、欠陥のない文字列Siは規則Rjにより変更され、
        c)文書中の文字列fijの発生頻度H(ij)が確定され、
        d)発生頻度H(ij)およびH(Si)が比較され、
        e)ステップd)における比較に基づいて、可能性のある欠陥文字列fijが、検索された欠陥文字列Fiかどうか判断される
ことを含むことを特徴とする方法。

    17.欠陥がない文字列Siが存在する文書中における欠陥文字列Fiの検索及び/又は訂正のための、特に文書処理用のコンピュータシステムにおいて、
      文書記憶の第1メモリ(1)、
      欠陥のない文字列Siの発生頻度H(Si)を記憶する第2メモリ(2)、
      可能性のある欠陥文字列fijの発生頻度H(fij)を記憶する第3メモリ(3)、
      規則Rjを記憶する第4メモリ(4)、並びに
      可能性のある欠陥文字列fijが生成されるように、規則Rjに従って、欠陥のない文字列Siを修正する修正手段(5)、
      可能性のある欠陥文字列fijの発生頻度H(fij)を確定する確定手段(6)、
      発生頻度H(Si)及びH(fij)を比較する比較手段(7)、及び
      比較手段(7)からの出力信号に基づいて、可能性のある欠陥文字列fijを欠陥文字列Fiに割り当てる割当て手段(8)を備える処理手段
を有することを特徴とするコンピュータシステム。

    20.機械的、光学的文字認識システムで下書き文書を生成し、該下書き文書を、欠陥文字列Fiを検索及び/又は訂正するクレーム17から19のいずれか一つのコンピュータシステムに与えることを特徴とするコンピュータシステムの使用。
 (3−2−2)Aの審判請求に際しての主請求クレーム
    22.プログラム組み込み可能なコンピュータシステムと相互/協働作用可能であり、クレーム1から17のいずれか一つにおける方法が実行される制御信号を記録してある電子的に読み出し可能なデジタル記録媒体、特にディスケット。

    23.コンピュータで作動する際、クレーム1から17のいずれか一つにおける方法を実行するための機械読み込み可能な媒体に記録されたプログラムコード付きコンピュータプログラム製品。

    24.コンピュータで作動する際、クレーム1から17のいずれか一つにおける方法を実行するプログラムコード付きコンピュータプログラム。
4.判決(抄訳)
  前書き
  a) コンピュータが実行可能な命令を含むクレームの内容が、データ処理装置用のプログラムの使用を可能にするという程度であるなら、コンピュータプログラム自体を特許対象外としていることから、そのような内容に特許性有りと認めることはできない。
   特許性有りと認められるクレームの内容は、具体的な技術的問題の解決に貢献すべきものである。
  b)  特許性を認めず、とされているもの(コンピュータプログラム自体)は、汎用記録媒体に記録されたものとして出願されたとしても、それだけで特許される訳ではない。
  主文
     連邦特許裁判所第17部の2000年2月29日付け判決は取り消す。
     本件はさらに審理するため連邦特許裁判所に差し戻す。
    
  理由
 A.1993年7月12日付けで、出願人はドイツ特許商標庁に「文書中の欠陥文字列の探索方法及びコンピュータシステム」を特許出願した。デジタル記録媒体に関連するクレームを含む主請求は拒絶された。1998年7月6日の査定で、出願人の補助請求のものが認可された。認可許可されたクレームのうち、1、17及び20は(3−2−1)のとおりである。
 1998年7月6日付け査定に対する審判では、出願人は拒絶された主要求を提出した。最終的に出願人は特許クレーム1から24に基づき特許の認可を請求した。クレーム1から21は認可特許のクレームと同一であり、クレーム22〜24は(3−2−2)のとおりである。
 連邦特許裁判所は審判請求を棄却した。出願人は、審判では法律的観点からクレーム22から24に関して特許を求めた。
 B.訴えを連邦特許裁判所に差し戻す。連邦特許裁判所が想定するように、クレーム22が特許性に欠けているか、あるいは、このクレームが特許になり得る主題を有しているかどうかについての最終判断を、連邦特許裁判所の事実認定に基づいて行うことが出来ないからである。
 I.出願書類の解釈に基づいて、連邦特許裁判所は、クレーム22は普通の記録媒体に関連するが、この記録媒体は、他の機械読み込み可能記録媒体とは、特許クレームのいずれかの一つに従う方法を実行できる記録を担持しているという点で異なる、と結論づけた。
 この点は法的に否定されたわけではないから、この解釈の結果は上訴で争えない。上訴は、コンピュータシステムに対する技術的インターフェースを有する制御要素を表していて、本発明の方法クレームの各ステップが実行されていくようなやりかたで、コンピュータシステムと相互作用する制御信号が存在するデータ媒体に、クレーム22が関連しているということを指摘することを目的としている。
 II.まず第一に、連邦特許裁判所は、クレーム22は少なくとも基本的な解決手段を含む教示がないという理由で、クレーム22に対する特許保護請求を拒絶した。そして以下のように認定した。すなわち、技術的教示という意味での発明は技術的問題に対する解決を含む。明細書の第3段落の2番目の文章によると、一連のクレームの目的は、文書中の欠陥文字列の検索及び/又は訂正の改良された方法、及び文書中の欠陥文字列の検索及び/又は訂正を行う改良されたコンピュータシステムを提供することであった。しかしながら、クレーム22で述べられているような、記録が蓄積されるデジタル記録媒体だけでは目的は達成できない。記録の個々の部分を事実上完全に解釈できるコンピュータシステムを用いることによってのみ方法の実行は達成されるのであり、そうすることで、所望の方法のステップを実行できる。
 
 連邦特許裁判所のこの認定に異議を唱える点は正しい。   
 
 出願書類に示されている目的に対する解決について、クレーム22はデータ記録の蓄積を教示しているだけであり、方法のステップ実行の制御信号の特徴を説明しておらず、コンピュータシステムにより解釈されるものであるという連邦特許裁判所の認定は失当である。クレームの表現によると、記録され読み取り可能なデータにより、特にクレーム1のような方法が実行されるように、クレームされた記録媒体が、プログラムをストアできるコンピュータシステムと相互作用できるはずである、ということを連邦特許裁判所が考慮していない。クレーム22に示されたものは、これによって実現できるコンピュータプログラムを提供する。もしクレームに示されたものが実現され、技術的に有用であり、所期の使用により所望の結果が得られるのであれば、本特許での追加的提案であるが、提案されたデジタル記録媒体自体、方法の具体的な実行手段であるということになる。出願が目的とする限りの解決にはこれで十分である。
 
 III.連邦特許裁判所はクレーム22の記録媒体を「データ処理装置用プログラム自体」とみなしており、特許法第1条第2項第3号及び第3項により、このクレームは特許保護から排除されるという考えである。

 1.コンピュータ専門家は「プログラム」というあいまいな術語をプログラムコードおよびその記録(プログラミングの段階に依らない)にのみ使用する、という厳密な解釈に基づいて、連邦特許裁判所は上述のような結論に達した。特許法第1条第3項と関連する第2項第3号が厳密な解釈を要求していたから、「データ処理機器用プログラム自体」という表現は、紙又は機械読み取り可能な記録媒体のような単なるテキスト担持体でのプログラムコードの提示又は記録を含んでいるとした。
 
 上訴で、この連邦特許裁判所の意見に異議を唱えるのも正しい。
 
 a) しかしながら、この見解に肯定的なさまざまな文献がある(Tauchert, GRUR 1997,149,154; Mitt. 1999,248,151; van Raden, GRUR 1995,451,457; より古い例としてSchulteの 特許法第5版、1994年 第1章 脚注74及び76)。一方で、同様に重要な反対意見もある。特にこれに関連して、ほとんど文言が同一のEPC52条2項c号及び3項の解釈に関する欧州特許庁のプラクティスが参照されていて、それによると、もし主題に<十分と認められる>技術的特徴があれば、適宜のコンピュータによるデータ処理と関連する主題は、この規定の意味する、「プログラム自体」とみなされない(1998年7月1日付審決、OJ EPO 1999, 609, 618 et seq., 620 et seq.- Computer Program Product/IBM: さらに、結論に関して、Busche, Mitt. 2000, 164, 171; Singer/Stauder, EPC, 2nd Edition, Art. 52, Footnote 49; Schar, Mitt. 1998, 322, 338; Bernhardt/KraBer, 特許法 第4版 Page 103; さらにBusse 特許法 第5版 第1章 脚注45末尾)。関連文献に取り入れられた観点は類似した結論に至る。この見解によると、「プログラム自体」は未だ技術的機能が備わっていない基本的なプログラムコンテンツとして理解されるべきであるとしている(例えば、Melullis, GRUR 1998, 843, 851; 同じような観点がAnders, GRUR 1990, 498, 499でも取られている。)。
 
 b) 連邦特許裁判所の見解は法的理由で認められない。 
 どのような種類のデータ処理装置用のプログラムをプログラム自体であるからとして特許保護から排除するかについては、コンピュータ専門家のみの理解に基づいて判断すべきでない。一般に法律の解釈について行うことであるが、表現に基づき、また事実及び法律の目的を考慮して判断しなければならない。

 aa) 法律自体の単なる用語の解釈からは、データ処理装置用プログラムは特許保護から全て排除される訳ではないし、また他の必要条件を備えているとしても全てのコンピュータプログラムに特許保護が与えられる訳でもない。全てのコンピュータプログラムに特許保護が与えられる訳ではないと言う後者の解釈の結論によると、クレームがコンピュータの使用を必要としているというだけでは、クレームに特許性があるとはみなされないという結論に至る。適宜のデータ処理装置に、ある命令を実行させることを実現するという内容の場合、このような基本的な必要条件を満たしている、という以上のある種の特徴がなければならない。データ処理はほとんど全ての生活分野において利用されていると見なせる。従って、この必要性の観点から、「新規で、進歩性を有し、かつ、産業上の利用可能性を有する」技術分野における問題解決法を奨励するために、一定期間独占的な特許保護を認める特許法が存在するということを考慮すべきである。こうしたことから、クレームの内容が、データ処理装置用プログラムの使用を可能とするというレベルを単に、又は少し越えているだけでは、コンピュータ実行可能な命令を含むクレームの内容に特許性があるとすることはできない。この観点から、クレームの内容の基本的な要素は具体的な技術的問題の解決に役立たなければならない。この前提条件に立てば、コンピュータプログラムとして又はデータ処理装置を使用する何らかの装置として保護されるとしても、クレームされた内容自体は特許保護に有用である。

 bb) 特許法第1条第2項第3号に該当しないコンピュータ関連の主題につき、データ処理装置のための保護されるべきプログラムの範囲を定めようとすると、従来の技術分野、即ち工学・物理・化学・生物科学に存在する問題を解決するために、コンピュータを使った方法ステップの処理を内容とするクレームは基本的に特許性ありという判断に至る。さもなければ、コンピュータを使ったデータ処理と関連するクレームの審査には、特許付与を正当化する特徴を有しているか否かを特許保護の目的を考慮して判断する事が必要になる。
 このことは、コンピュータ関連の特許出願に関する最近の判例ですでに定着している。例えば、−特許法第1条第1項の発明の技術性に関してのことであるが−、連邦特許裁判所は、クレームされた内容に従い、何が最も重要であるかについて全体的に考察することを要求した(BGHZ 143, 255, 263 - Logic Verification事件)。これは本件の評価に適用できる。本件に適用できる判例は他にもある。これらの判例によると、たとえば測定結果評価、技術的手段の操作の監視、または外部の制御/調整の効果を有する方法のような技術的プロセスに含まれていれば、プログラムは特許に成り得る(1980.5.13判決 X ZB 19/78, GRUR 1980, 849, 850 - Antilocking System事件(4))。もし解決策が技術的考察及びその実現・実行に基づいた知識により特徴づけられるならば、技術的対象を生産するという範囲内の中間段階で、データをチェックし比較するデータ処理装置により実行される方法は、原則として特許により保護される(BGHZ 143, 255, 264 - Logic Verification事件)。クレームがデータ処理装置自体の機能に関連しており、要素相互間の作用を可能とする場合も同様である(BGHZ 115, 11, 21 - Page Buffer事件)。特定の方法でデータ処理装置を使うためにデータ処理装置の構成を教示し提供する内容は、必ずしも特許性無しとする条件を満たす訳ではない(BGHZ 67,22,29 et seq Disposition program 事件(5)参照)。
 cc) 連邦特許裁判所が基本と考える特許法第1条第2項第3号の解釈を確認する。コンピュータプログラムを特許対象から排除していることについて説明された意義は、特許法第1条第2項の他の主題又は行為についてのものと同様である。もし具体的な実現又は実行との関連なしにクレームされれば、第1号で示されている科学上の理論及び数学上の方法論、並びに、第3号で示されている知的活動のための計画、定則、及び方法はいずれも、特許保護から排除されるだけである。しかしながら、もしこれらも具体的な技術的問題を解決するために使用され得るのであれば、基本的に特許に成り得る(BGHZ 67, 22, 26 et seq.-Disposition Program事件 2000.5.30, EPO 審決 - T 27/97, Tz. 3 - Cryptographie a cles publiques/FRANCE TELECOM事件も参照)。
 dd) 国内法により特許に成り得る発明分野が、欧州特許条約によるものと同じであるということを確実にするために、特許法第1条第2項第3号は、EPC規則52条第2項c号及び第3項と意図的に一致させた(BT-Drucks. 7/3712, page 27)。特許権を与えるコンピュータ関連の発明に関して、EPCが誕生した時にどの定義を選択するかについて、明確な考えは存在しなかった。EPCを完成するための外交会議の間、文言を定義しようとの努力がなされたが実らず、解釈は法律施行時に委ねることとしたことが明確に指摘されている(Document M/PR/I, page 28 Tz. 18 in: 特許認可に関する欧州方式の導入についてのミュンヘン外交会議のレポート)。
 しかしながら、欧州特許条約及びドイツ特許法に取り入れられた表現は、特許保護の範囲が徒に広がり、当時はまだ比較的新しい技術分野であったコンピュータ技術分野での開発が妨げてはいけないという点に配慮している。それゆえ、クレームの内容がコンピュータにより実現されるというだけの理由では、特許保護に関して従来から利用されてきた解釈に従い、技術に属さない分野のものは保護対象としないとするのは明らかである。一方で、クレームの内容がコンピュータ上で実行され、及び/又は、コンピュータの専門家による狭義の意味において、データ処理装置用プログラムとみなすことができるからといって、技術的プロセス又は考慮により特徴づけられている内容の特許保護を否定することは、厳しすぎることを意味する。
 2.クレーム22が特許法第1条第2項第3号によって特許保護から排除されるか否かについて、連邦特許裁判所は上述したところに従っての最終決定を下せなかった。

 a) 出願は文書中の欠陥文字列の検索及び/又は訂正と関連している。たとえ検索される文書が、コンピュータを用いた文書処理システムにより生成されているとしても、それだけでは技術的分野に含まれることにはならない。それゆえクレーム22が、要求されているように技術と関連している内容を含んでいるかどうかを評価する必要がある。つまり連邦特許裁判所が行っていない分析を必要としている。

 b) クレーム22は方法を直接的にクレームしていないからといって、更なる審査が不要であるというわけではない。クレーム22に含まれている内容は、このクレームがディスケット、つまり物理的対象(装置)と関連しているからというだけでは特許に成り得ない。
 特許出願の明細書によると、周知の文書処理システムは、いわゆる辞書を使用しており、この辞書は周知の言葉のリストを含んでいる。欠陥を検索するために、入力された文書の言葉は、辞書の記載事項と比較される。辞書を使用するには、比較的大きい記録スペースが必要である。また、辞書自体誤った記載を含むかもしれない。さらに、この辞書は定期的に更新されなければならず、このことによりさらに誤った記載をするかもしれない。
 これらの不利な点を克服するためのクレーム22で提案された解決策は、認可された特許クレーム1の方法を実行しないと実現されない。特定の目的に必要とされる情報を含んでいる一枚の紙のように、クレーム22で保護される記録媒体は、コンピュータによって方法を実行したい場合に使うことができる情報媒体を表している。上訴においても、本件でのデータ媒体自体は、特許性有りとする上で何らの寄与もしていないと理解される。出願人が上訴で再主張したように、クレーム22は、特許の方法が実行された場合だけでなく、方法の実行を開始させる手段に関連する主題にも、第三者に特許侵害者としての責任をもたせるために、格別の証拠を要することなく特許侵害を主張することができるようにすることを意図している。明らかにこの考えは、クレームを別個にたてることにより、幅広い特許保護を獲得したいという要求に基づいている。しかしながら、クレームされた内容において何が最も重要であるかという質問は別として、このクレームのカテゴリに基づいてのみ出願されたクレームが要求される特許性を備えているかどうかの質問に答えることは無意味である。
 BGHZ 133, 282 et seq.「言語分析装置」の判決において、クレームが産業的に生産できる装置と関連しており、産業上の利用性を有するから、文書処理に使用されるデータ処理装置が、技術的特徴を備えていると連邦特許裁判所が見なしたということは、クレーム22のカテゴリに関する前述の評価に対する障害ではない。なぜなら、上記事件において、当時問題となった一連のクレームの背後にあった問題に対する解決策を提供する装置の特徴が、審査すべきクレームであったからである。

 c) 本件を再審理する際、連邦特許裁判所は特に、クレーム22が関連するクレーム1から17の方法を評価しなければならないだろう。明細書から理解されるように、これらの内容は統計学から得られる知識に基づいている。もしこれらの内容がクレーム22にとって不可欠であるなら、このことにより上記の説明どおり、特許に成り得ないという事実に至る。しかしながら、反対の評価も完全に見込みがないとは思われない。
  補助請求で議論された特許の認可が否定されていないということは、クレーム22の評価において特許クレーム1〜17を含むことが障害とはならない。reformatio-in-peiusの原則(注:上級審では上訴された内容についてのみ判決を下せるということ)が適用できるから、本件はもはや全体が拒絶されることはない。しかしながら、本件に対してなされる判決に関して、クレーム22〜24及びその中身(クレーム1〜17の内容)に結合的効果を及ぼすことを意味するものではない。これらのクレームの特許性は法律的観点から再審理されるべきである。

 IV.クレーム22に対する特許保護を否定した連邦特許裁判所の判決は他の理由でも正当ではない。
 まず、特許庁は本出願が必要な単一性に欠けているという考えに基づいて、主請求を拒絶していた。クレーム22は先行クレームとは完全に異なった解決原理を含んでいた、とするが、実際を見る限り、この法律上の評価は正しくない。
 全てのクレームは同じ教示と関連する。対象の課題を解決するために、クレーム1〜21は、それぞれに、方法を使うか、あるいは目的に適したコンピュータを使用し、欠陥文字列の検索を実行する事を提案している。クレーム22から24は、方法を実施するために、記録媒体上のプログラムが使われるということをこの解決法にただ単に加えているにすぎない。これはクレーム1で既にクレームされている発明のアイデアの単なる特別な実施例にすぎない。さらに、単一性の欠如による拒絶は、連邦特許裁判所により確立された基準を否定するものであり、それに従い、特許出願を無用に分割するということはできるだけ避けなければならないのである(1971.6.29日判決 -X ZB 22/70, GRUR 1971, 512, 514 - Isomerization事件; 1974.6.25判決 -X ZB 2/73, GURU 1974, 774, 775 - Alkalidiamidophosphite事件)。

 V.クレーム23及び24については個別に審理するまでもなく、クレーム22の差し戻しの理由が適用される。クレーム22の認可請求とは別に、クレーム23,24の認可を求めている事実もない。従ってクレーム22〜24に関して包括的に判決した(Busse, 特許法、第5改訂版、Vor Section 34, Footnote 52 m.w.N.; 欧州特許庁2000.5.12審決, T728/98, OJ EPO 201, 319, 330 - pure Terfenadin/ALBANY事件)。
5.考察
 判決の前書きは特許性(成立性)を認める場合の条件ではなく、認めないことの条件を2項にして列記している。判示事項@として記載したものは、前書きa)の裏の解釈として引き出せるものであることは言うまでもない。前書きb)は審理の対象となったクレーム22が記録媒体に係るものであったから示されたものであろう。
 この判決は、ドイツ特許法第1条第2,3項に係る「コンピュータプログラム(それ自体)」の発明の成立性についての解釈を示したが、本件のクレーム22の発明の成立性の判断はせずに、連邦特許裁判所へ差し戻した。但し、判決理由のIIIの最終段落でreformatio-in-peius に言及していることから、許可されたクレーム1〜17についての成立性に連邦最高裁は否定的な見解を有している、と理解される。それは上述の段落の一つ前の段落でクレーム1〜17を統計学的知識に基づくものであると評価して、「技術的問題の解決」または「技術的性質」、従って「技術的特徴」の存在を否定していることからも読みとれる。これらに鑑みれば間接的にクレーム22の成立性を否定していると理解されるのである。事実、差戻し審でクレーム22〜24は拒絶となった。
  この判決で「コンピュータプログラム(それ自体)」はもちろん、コンピュータプログラムを記録した記録媒体も特許の対象になり得ることが明らかになったが、要求される「技術的特徴」については更なる判決などの積み重ねが必要である。
  コンピュータプログラムそれ自体及びコンピュータプログラムを記録した記録媒体を特許の対象とすることではドイツはEPOと軌を一にすることになった。しかしその中身についての成立性の判断基準、又は手法は両者で差がある。EPOは従前、先行技術との差違を特定し、この差違との関連で成立性を判断してきた。しかしながら前述の審決 T935/97及びT1173/97においては成立性を認めるために必要とする「さらなる技術的効果」は新規である必要はないとした。これは「効果」が新規である必要はない、と言っているのであり、構成要件の新規性に格別言及しているわけではないが、発明の成立性の審査手法は変化していくものと予想されている。本件判決にいう「技術的特徴の有無」特に、「技術的課題を解決」しているか否かの点は、従前のEPOの判断手法に近いように理解される。先の審決を受けたEPOの審査ガイドラインの変更と、ドイツでの実務の推移をみて検証する必要が有ろう。
  最後に本判決の英語訳を提供されたEP弁理士J.Betten氏に謝意を表する。

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
(1)例えばK.Beresford "Patenting Software Under the EPC"p24〜25 (2000)
Sweet & Maxwell
D.Schiuma「ヨーロッパ特許法におけるソフトウエア 発明の権利化」  知財管理 Vol.50 No.10 p1483〜1492 (2000.10)
(2)例えば谷義一 「ソフトウエア関連発明の特許法による保護の現状」"In re Lowry"   p291〜298 (1995.3)
(3)特許庁編 「特許・実用新案 審査基準」第Z部 特定技術分野の審査基準
     第1章 コンピュータ・ソフトウエア関連発明
(4)例えば関西特許研究会ソフトウエア研究班 「コンピュータ関連発明の保護(7)   ドイツ連邦共和国におけるコンピュータ・プログラムの特許性について」
   パテント Vol.36 No.4 p63〜77 (1983.4)
(5)例えば関西特許研究会ソフトウエア研究班 「コンピュータ関連発明の保護(8)   DISPOSITIONSPROGRAMM事件」 パテント Vol.36 No.6 p52〜67 (1983.6)

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