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米国特許法第101条に関する審査インストラクション策定される

執筆者 弁理士 河野英仁
2009年9月10日

1.USPTO(米国特許商標庁)は米国特許法第101条*1に規定する要件を具備するか否かの審査に用いる内部インストラクションを策定した。当該インストラクションは、法定主題に関するMPEP2106(IV), 2106.01 及び 2106.02を含む以前のガイドラインに取って代わるものであり、2009年8月24日以降の審査において利用される。

 ビジネス方法を含む方法のクレームに対する米国特許法第101条の判断基準を巡っては、現在最高裁におけるBilski v. Kappos事件にて争われている。次回の審理は2009年11月9日に行われることが決定しており、来年の春頃に最高裁が何らかの指針を示すものと予想されている。

 本インストラクションは暫定的なものであり、実質的な規則の制定を構成するものでなく、また、法的拘束力を有するものではないが、当面本インストラクションに則って米国特許法第101条の法定主題に関する審査が行われる。



2.インストラクションの内容は以下のとおりである。
 方法クレームが米国特許法第101条の要件を具備するためには、CAFC大法廷で判示されたMachine-or Transformation test(機械or変換テスト、以下M-or-T test)を満たさなければならない*2

 以下に示す、フローチャートに基づき審査手順を説明する。なお、クレームは「最も広い合理的な意味(BRI: Broadest Reasonable Interpretation)」に基づいて解釈する。


(1) ステップ1 機械テスト
 まず、方法クレームにおける当該方法が特定の機械に実装されることを要求しているか否かを判断する(ステップS1)。すなわち、方法クレームが特定の機械または装置と結びつけられているか否かを判断する。方法が特定の機械に実装されていないと判断した場合(ステップS1でNO)、ステップS2の変換テストへ移行する。

 また、ステップS1において方法が機械を実装している場合(ステップS1でYES)、ステップS3へ移行する。


(2) ステップ2 変換テスト
 変換テストにおいては、方法クレームにおける当該方法が特定物を変換することを要求しているか否かを判断する(ステップS2)。方法が特定物を変換していない場合(ステップS2でNO)、当該方法は米国特許法第101条にいう法定主題に該当しない(ステップS5)。

 方法が特定物を変換している場合(ステップS2でYES)、ステップS4へ移行する。

 ここで、物(article)の「変換」とは、「物」が異なる状態(state)または物体(thing)へ変化することを意味する。思考変化または人間の行動変化に見られる純粋な思考プロセスは法定要件を満たす変換とはいえない。

 電子データに関しては、数学的操作そのものは法定要件を満たす変換とはいえない。しかし、電子データの性質(nature)が異なる機能を有するように、或いは、電子データの性質が異なる用途に適するように、当該電子データの性質が変化する場合、電子データの変換と判断される。


(3) ステップ 3 直接導かれる命題
 クレームの方法が機械を実装している(ステップS1でYES)、または、後述する如く方法が特定物を変換している(ステップS2でYES)としても、M-or-T testから直接導かれる以下の2つの命題を満たさなければならない。

 2つの命題は以下のとおりである。
(i) 第1命題:特定機械の使用、または、特定物の変換はクレームの範囲に意味のある制限を課さなければならない。よって単なる使用分野の制限(field-of-use limitation)だけでは不十分である。

 ここで「使用分野」の制限とは、例えば、方法クレーム中に、「for use with a machine機械と共に使用するために」、または「for transforming an article物を変換するために」等の使用分野を単に限定するに過ぎない記載を意味する。かかる「使用分野」の制限はクレーム発明の範囲に現実的な制限を課すものではない。

 形式的に機械または変換の文言が記載されていたとしても、当該クレームは、機械が方法を実装することを必要としないものであり、または、方法のステップが物を変換させることを必要としないものであることから、第1命題としての要件を課したものである。


(ii) 第2命題:特定機械の使用または特定物の変換は、意味のない「余分な解決」動作(insignificant “extra-solution” activity)以上のものを含まなければならない。

 意味のない余分な解決動作とは、出願人により発明された方法の目的の中心とならない動作を意味する。例えば、方法の全ての適用(applications)が、何らかの形態でデータ収集を必要とする場合、当該方法において使用するデータを収集することは、クレームにおいて意味のある限定を課すものとは言えない。

 ステップS3においては、以上述べた「特定機械の使用がクレーム範囲に意味のある限定を課しているか否か?(使用分野の制限以上のものか?)」、かつ、「機械の使用が意味のない余分な解決動作以上のものか?」が判断される。ステップS3においてYESの場合、米国特許法第101条にいう法定主題の要件を満たす(ステップS6)。一方、ステップS3においてNOの場合、ステップS2へ移行する。


(iv) ステップ4 直接導かれる命題
 ステップS4ではステップS3と同様に、変換がクレーム範囲に意味のある限定を課しているか否か?(使用分野制限以上のものか?)、かつ、変換が意味のない余分な解決動作以上のものか?を判断する。

 ステップS4においてNOの場合、当該方法は米国特許法第101条にいう法定主題に該当しない(ステップS5)。ステップS4においてYESの場合、当該方法は米国特許法第101条にいう法定主題に該当する(ステップS6)。





3.具体例
 以下仮想クレームを設定し、各クレームが法定主題に該当するか否かの分析を行う。

(1)事例1
クレーム1
検索結果評価方法であり以下を含む、第1特性に基づき結果をグループへソートし、第2特性に基づき結果をランキングし、検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を所定の望ましい結果リストと比較する。


結論:クレーム1は法定主題に該当しない(ステップS5)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→NOである。
 BRIに基づけば、各ステップは、人またはプログラムされたコンピュータにより実行される可能性がある。そして、明示的に機械に言及しておらず、または本質的に機械を必要としていないため、NOとなる。ステップS2へ移行する。

 特定物を変換しているか否か(ステップS2)?→NOである。特定物の変換は存在しない。従って、クレーム1は法定主題ではない(ステップS5)。


(2)事例2
クレーム2
検索結果評価方法であり以下を含む、第1特性に基づき結果をグループへソートし、第2特性に基づき結果をランキングし、検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を、マイクロプロセッサを用いて、所定の望ましい結果リストと比較する。


結論:クレーム2は法定主題に該当する(ステップS6)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→YESである。
 比較ステップでは特定のプログラムされたマイクロプロセッサを必要としているからである。ステップS3へ移行する。
 機械は意味のある限定をなしており、かつ、意味のない余分な解決動作以上のものであるか否か?(ステップS3)→YESである。
 比較するステップは出願人により発明された方法の中心をなすものだからである。また単なる使用分野制限ではなく、意味のない余分な解決動作でもない。従って、クレーム2は法定主題に該当する(ステップS6)。


(3)事例3
クレーム3
検索結果評価方法であり以下を含む、 データベースから電子的に検索結果をダウンロードすることにより検索結果を取得し、第1特性に基づき結果をグループへソートし、第2特性に基づき結果をランキングし、検索の成功を評価するためにランク付けされた結果を所定の望ましい結果リストと比較する。


結論:クレーム3は法定主題に該当しない(ステップS5)。
分析:特定機械に実装されているか否か(ステップS1)?→YESである。
 検索結果を取得するステップでは、本質的にデータベースからデータをダウンロードするためにプログラムされたマイクロプロセッサを必要としているからである。ステップS3へ移行する。なお、BRIに基づけば他のステップは機械を必要としていない。
 ダウンロードするために必要とされる機械は意味のある限定をなしているか、かつ、意味のない余分な解決動作以上のものであるか(ステップS3)?→NOである。ダウンロードステップは出願人により発明された方法の中心をなすものではなく、意味のない余分な解決動作だからである。ステップS2へ移行する。
 特定物を変換しているか否か(ステップS2)?→NOである。特定物の変換は存在しない。従って、クレーム3は法定主題ではない(ステップS5)。



4.物のクレームについて
 米国特許法が保護対象とする発明は、「方法,機械,製造物若しくは組成物」のいずれかである(米国特許法第101条)。
 これらのカテゴリーに属しない場合は、米国特許法第101条の規定により拒絶される。これらのカテゴリーに属しないものとして以下が挙げられる。
(i) 信号伝送の一時的形態(伝搬電気・電磁信号)
(ii) 自然発生的な生命体
(iii) 人そのもの
(iv) 当事者間の法的契約上の合意
(v) 一連のルールにより規定されるゲーム
(vi) コンピュータプログラムそのもの
(vii) 会社

 「方法」のクレームは上述したM-or-T testにより判断される。一方「物」(機械、製造物若しくは組成物)のクレームは、当該物のクレームが全体的に司法上の例外(Judicial Exception:例えば抽象的アイデア、自然法則、自然現象、思考プロセス、数学的アルゴリズム、科学原理等)に該当するか否かを判断する。



5.最高裁Bilski v. Kapposの争点
 最後に、現在最高裁Bilski v. Kapposで問題となっている争点を整理しておく。主要争点は以下のとおりである。

争点1:M-or-T testは保護対象を不当に制限するか?
 米国特許法第101条は新規かつ有用な方法を保護対象としている。これに対し、最高裁も「自然法則、物理現象及び抽象的アイデア」を除いて、「いかなる」新規かつ有用な方法を保護対象とし、米国特許法第101条の保護対象に制限を加えることを拒絶している。CAFCは「方法」が保護対象に該当するか否かの要件としてM-or-T testを導入したが、当該要件が保護対象を不当に制限するか否かが問題となっている。

争点2:M-or-T testは有用なビジネス方法を排除するのか?
 米国特許法第273条*3は以下のとおり規定している。
第273 条 先発明者であることを理由とする侵害に対する抗弁
(3) 定義
本条の適用上,用語の意味は次のとおりとする。 ・・・ (3) 「方法(method)」とは,ビジネスを行う又はビジネスを運営する方法をいう。


 米国特許法第273条はビジネス方法特許を認める一方で、ビジネス方法に対する先使用権を認めるために議会が1999年に制定した規定である。CAFCが提示したM-or-T testは多くの有用なビジネス方法を特許法の保護対象から排除するものであり、これが議会の立法趣旨に反するか否かが問題となる。

 2009年8月の時点で約40もの法定助言者意見書(Amicus Curiae Brief)が提出されており本事件に対する関心の高さが伺える。上述したとおり、第1回審理は2009年11月であり、結論が出るのは来年春頃と思われる。
【関連事項】
USPTOの発表資料は下記URLより取得できます。 http://www.uspto.gov/web/offices/com/speeches/20090827_interim_el.htm

【注釈】
*1 米国特許法第101条は以下のとおり規定している。
第101条
新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる。
特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
参照。
*2 In re Bilski, 545 F.3d 945 (Fed. Cir. 2008)
詳細はhttp://www.knpt.com/contents/cafc/2008.11/2008.11.html
を参照。
*3 米国特許法第273条の一部は以下のとおり。
35 U.S.C. 273 Defense to infringement based on earlier inventor.
(a) DEFINITIONS.— For purposes of this section— ・・・
(3) the term “method” means a method of doing or conducting business;
前掲特許庁HP

◆ ここに示す判決要約は筆者の私見を示したものであり、情報的なものにすぎず、法律上の助言または意見を含んでいません。ここで述べられている見解は、必ずしもいずれかの法律事務所、特許事務所、代理人または依頼人の意見または意図を示すものではありません。

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http://www.knpt.com/contents/cafc/cafc_index.html

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http://www.knpt.com/contents/news/news00111/news111.html

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