ビジネス関連発明及びソフトウェア発明保護に向けた特許法改正案

2002年2月28日
河野英仁


1.特許法改正に向けて審議が重ねられており、2002年2月18日特許庁は「特許法等の一部を改正する法律案」を発表しました
http://www.jpo.go.jp/saikin/1402-041.htm)。

上記サイトには特許法改正案に加えて商標法改正案も記載されていますが、このページでは、そのうちビジネス関連発明及びソフトウェア発明に関連する改正案を説明すると共に、ビジネス関連特許及びソフトウェア特許にどのような影響を与えるのかを中心に説明していきます。

 なお、この法改正に至る経緯については、2001年10月17日付「現行特許法によるビジネス関連発明に対する保護の問題点」
http://knpt.com/contents/thesis/00006/ronbun6.htm)を参考にして下さい。

2.主な改正点

(1)物の発明に「プログラム」が追加され、ネットワークを通じてプログラムを提供する行為も、実施行為の1つに加えられます。
法律案は以下のとおりです。

特許法第2条第3項第1号
「物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」

 近年インターネットの拡大に伴い、ソフトウェアを提供する形態は、プログラムをCD−ROM等の記録媒体に記録して店頭で販売するというよりも、インターネットを通じてダウンロードさせることにより提供(配信)するようになってきました。従来の法律では、このインターネットを通じて提供する行為についてはカバー仕切れていなかったため、電気通信回線を通じた提供をも実施行為の1つとしたのです。

 これにより、第3者が無断で特許に係るソフトウェア(プログラム)を、インターネットを通じてユーザにダウンロードさせる行為も特許権の侵害であるということが明確になりました。

なお、平成13年1月の審査基準の改訂によりプログラムを物の発明として取り扱う旨が明確にされましたが、より趣旨を徹底させるため、条文上明確にしたものです。

(2)間接侵害規定の見直し
間接侵害の適用範囲が拡大されました。法律案は以下のとおりです。

特許法101条新設第2号
「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」

特許法101条新設第4号
「特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」

ビジネスモデル特許においては、インターネットを介して接続されたWebサーバとクライアントPCとの協調動作によって発明が構成されるケースが多いです。また、クライアントPCを一般ユーザが使用するケースも多いです。

 このような場合、従来では、悪意のあるX社が特許発明に係るWebサーバを盗用して実施していた場合でも、権利侵害として行為を中断させることができませんでした。

 これは、特許発明はその構成要素の全てを実施した場合に、初めて特許権の侵害と言えるからなのです。ところが、クライアントPCをこのX社以外の者が実施している場合、このX社は、本発明の全てを実施しているとはいえませんから権利侵害にはなりません。また、クライアントPCを一般ユーザが実施している場合は、そもそも家庭内での使用には特許権は及びませんから、同じくこのX社は特許権の侵害を免れます。

 そこで、法改正により、第3者が、悪意で課題の解決に不可欠なものを実施している場合は、その全てを実施していない場合でも特許権の侵害と見なされるようになりました。

 例えば、処理Aと、処理Bと、処理Cと、処理Dとからなる金融取引システムについて特許権が付与されており、処理A〜処理CについてはX社のサーバが処理し、処理DについてのみユーザのクライアントPCが処理するものとします。この場合でも、処理A〜処理Cの処理が課題の解決に不可欠なものであって、X社が悪意である場合は特許権の侵害となります。

 ただし、A〜Cの処理が広く一般的に流通している程度のものであれば、特許権の侵害にはなりません(かっこ書き)。

以上のように、インターネットの急速な発展に対応できる特許法の改正が着実に進んでいることが理解できると思います。

以上

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