二 争点1(二)

 1 「会計を終了した患者」の意義

 本件特許請求の範囲には「会計を終了した患者」の具体的内容を明らかにす る記載はないから、本件明細書の他の記載等を参酌してその具体的内容を明らか にする必要がある。

 本件明細書の発明の詳細な説明では、従来技術の問題点について、「大きな 病院では、ホストコンピュータが設置されており、診察を終えた患者は、その診 療科で受け取った書類を会計窓口に提出し、この会計窓口で入力されたデータに 基づいてホストコンピュータが診察料の計算を行なうようにしている。この場合 、投薬を受ける患者については、その薬局の受付部で会計処理をしたことを確認 できるが、かかる投薬を受けない者或は投薬を放棄した患者については、各診療 科と会計科との連絡がないため、会計処理を行わずにそのまま帰宅しても、病院 側では把握できないという不都合があり、このように診察を受けながら費用を払 わないで帰宅する患者が、各病院においてかなりの数に上る。この場合において も、上記のような再診受付器においては、やはり単純に各診療科の診療を受け付 けるのみであることから、その日に受け付けた再診患者の氏名はその診療科で分 かるとしても、会計を終了したかどうかについては、各診療科では把握できず、 結局患者の良心に任せざるを得ないという不都合があった。」との記載があり、 本件発明の会計処理の作用効果については、「ホストCPU59側から、診療を 終えた患者の会計が終了したという情報が送信されると、該当の受付番号を消去 するとともに、各診療科の受付患者数をカウントダウンして、未診療患者の人数 を減算する。従って、診療を終わって会計を終えていない患者は、その該当受付 番号がいつまでも残っているから、これによって診療費用を支払わないで帰宅し た患者を把握することができる。」等の記載がある。したがって、以上の各明細 書の記載を総合して考えると、本件発明の会計を終了した患者の情報を管理装置 側へ「送る」究極の目的は、あくまでも「診療費用を支払わないで帰宅した患者 を把握する」ことにあるものと解されるとともに、現行の社会保険による診療報 酬制度のもとでは、患者が「診察費用を支払う」とはその「本人負担分」を支払 うという意味であることはいうまでもないから、本件発明の「会計を終了した患 者」とは、かような「本人負担分の支払までを完全に終了した患者」を意味する ものと解される。

 2 本件発明の構成要件の「送る」の意義

 (一) コンピュータ技術における情報(データ)通信の意味

 コンピュータ技術の分野において、情報(データ)を送ること、すなわちデ ータ通信とは、コンピュータや端末装置を通信回線で接続して情報の伝送及び処 理を行うこと、換言すれば、データ処理後における当該データを有機的に連繋さ れたファイルとして、送り先の所望のデータファイルに格納し、或は送り先に新 規ファイルを作成することを意味するものと解される。

 (二) 本件明細書の記載

 本件明細書の唯一の実施例中の記載に照らすと、本件発明の管理装置におい て、ホストコンピュータから送られた会計終了患者の情報に基づき、受診患者の 受付番号情報と会計を終了した患者の情報が連繋され、その結果書き換えられ又 は作成された情報の成果を格納するファイルが形成されていることは明らかであ るから、ホストコンピュータと管理装置との間で(一)において述べた意味での データ通信が行われるものと認められる。

 (三) 以上によれば、本件発明の構成要件「送る」とは、管理装置におい てホストコンピュータから送られた情報に基づき、その情報を格納するファイル を作成するか、或はその情報と受診患者の受付番号情報と会計を終了した患者( 本人負担分の支払までを完全に終了した患者)の情報とが連繋され、その結果書 き換えられ又は作成された情報の成果を格納するファイルが作成されることを意 味するものと解される。

 3 被告装置における受診患者の受付番号情報と会計を終了した患者の情報 が連繋されたファイル形成の有無

 第一、第二被告装置においては、本人負担分未払患者の情報と受付番号情報 とは連繋していないと認められる。

 4 被告装置と本件発明との対比

 1ないし3の認定を前提に、被告装置と本件発明とを対比すると、被告装置 においては、受診患者の受付番号情報と会計を終了した患者(本人負担分の支払 までを完全に終了した患者)の情報とが連繋され、その結果書き換えられ又は作 成された情報の成果を格納するファイルが形成されているとは認められず、しか も、前示のとおり、被告装置には、ホストコンピュータと別体の管理装置がない から、被告装置は、本件発明の構成要件の「ホストコンピュータから会計を終了 した患者の情報を前記管理装置側へ送ること」の構成を具備していないといわざ るを得ない。

 三 結論
 被告装置は、本件発明の構成要件の「管理装置」の要件及び「ホストコンピ ュータから会計を終了した患者の情報を前記管理装置側へ送ること」の要件をい ずれも充足しないから、被告装置を作動させて診療受付表を発行する被告方法は 本件発明の技術的範囲に属しない。

 参照条文 特許法 2条1項 70条


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