A演算とルックアップテーブル 
 図1(a)にクレームの記述が、「速度を所定のアルゴリズムに従って演算して、指令値 を演算により求める」とある場合に、入力値である速度と出力値である指令値と の全ての可能性のある関係を予め演算しておき入力値をアドレス、出力値をメモ リの記憶値としてメモリに記憶させたイ号製品との関係が問題となる。即ち、ル ックアップテーブルにより結果を得ることが、上述したクレームの「演算し」の 概念に該当するか否かが問題となる。
 ルックアップテーブルは既に演算された結果、即ち、所定の関数を独立変数 と従属変数との対応関係として記憶したものである。よって、入力値に基づいて 、演算された結果である出力値が得られるものも、「演算し」の概念に含まれる ものと考えられる。
 尚、クレームにおいて、「演算し」を「決定する」又は「求める」という表 現に代えれば、より、ルックアップテーブル方式のものも含むと主張し易くなる であろう。しかし、リアルタイムで演算する概念と結果を対応表で得る概念とは 異なるのも事実であるから、求めるものも含む旨の記載をしておいた方がより好 ましい。
B処理対象である物理量の表現
 図1(a)に示す演算装置のクレームの記述が、「検出されたテーブルの速度と制御目標 値とから比例積分演算により指令値を演算する」とある場合に、テーブルの運動 エネルギー又は運動量検出して、その運動エネルギー又は運動量と、それらの制 御目標運動エネルギー又は制御目標運動量とから比例積分演算により指令値を演 算するイ号製品との関係が問題となる。
 即ち、運動エネルギーも運動量も速度に関連する物理量である。このように 、クレームが速度のように明確な物理量で記述されている時、その物理量と相関 関係にある物理量を検出して、その物理量に基づいて演算する場合をどのように 考えるかが問題となる。
 明細書作成時に、上記のことを認識している場合に、クレームの記載を「速 度」として、発明の詳細な説明において、「速度」は、直接的な速度の他、運動 エネルギー又は運動量等の速度と関連した物理量を意味すると書くことも考えら れる。しかし、物理学上の速度の定義に矛盾した定義になる可能性がある。
 又、クレームにおいて「速度」を「速度関連物理量」のように表現すれば、 安全かも知れないが、クレームの記述が不明瞭となる可能性が高い。さらに、速 度関連物理量とは直接的な速度の他、運動エネルギー又は運動等の速度と関連し た物理量を意味すると定義した時に、その他の物理量はどう扱われるかが疑問で ある。
 このようにアリゴリズムに特徴を有する発明の場合には、ある特定の変量と 特定の関係にある他の変量を用いて同様に処理しても、 同様な結果が得られる 場合が多い。これらに対応する一般的な解決法はないと思われるので、個々のケ ースに応じて、変量の記述方法に配慮をする必要があるだろう。

2.1.3 文言に対する均等適用論の可能性

@クレーム解釈論
 一般的に、クレームの解釈論は3つあるといわれている。ここで、文理解釈 論は、クレームの記載用語や文章の意味するところに即して解釈する論理であり 、拡張解釈論または縮小解釈論は、クレームの記載用語や文章に捉泥することな く、発明の目的、出願の経過、公知の事実などを斟酌することによってクレーム の範囲を拡張または縮小して解釈する論理である(日刊工業新聞社発行 工業所 有権用語事典参照)。
 どの解釈論が適用されるかにより権利範囲が極端に異なってくるので、裁判 所の解釈論を決定付ける要因、特に、クレームに関する要因は実務者にとって重 要な関心事である。
 ソフトウエア関連発明の場合、適用される技術分野が広範であることから、 均等論による拡張解釈の検討も重要である。そこで、ソフトウエア関連発明を規 定したクレームの文言に、均等論が適用される可能性を検討する。しかし、ソフ トウエア関連発明に関し均等論を直接的に適用した判例はまだ存在していないと 思われるので、他の分野の判決例に頼らざるを得ない点をご了承下さい。
 原則として、クレームの技術的範囲は文理解釈論により定められ(特許法7 0条)、例外的に、均等論や縮小解釈論が適用されると考えられる。文理解釈で は発明の保護が不十分であると裁判所が判断したときに「均等論」が適用され( 注4)、逆に、クレームの文言が機能的、抽象的で権利範囲が従来技術にまで及 ぶときには「縮小解釈論」が適用される。(注5)
 均等論が適用される為の要件は、一般的には置換可能性と置換容易性である 。置換可能性は特許発明の目的及び作用効果の同一性から判断し、置換容易性は 出願時に当業者が当然に想到し得る程度から判断される。(注4)

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