2.2.1 媒体クレームが記載できることにより、他の装置クレーム、方法クレ ームの解釈に影響があるか?

 新運用指針が認められた以後、クレームに媒体クレームが加わることによる 影響について考えてみる。
 例1:媒体クレームに下位概念である「コンピュータをA手段、B手段、C手段とし て機能させるプログラムを記録した記録媒体」が記載されており、装置クレーム が上位概念で記載されている場合、媒体クレームにより装置クレームが下位概念 であるA手段、B手段、C手段限定されてないか。
 これは、各請求項ごとに独立の発明(特許)があると解釈されているので( 注7)、従来からの上位概念クレームと下位概念クレームと同様に解釈されると 思われる。
 例2:媒体クレームを記載することにより、装置クレームや方法クレームの全部また はその一部をプログラムで実現していることを明示することになる。媒体クレー ムを記載することにより、装置クレームや方法クレームの解釈で、プログラムで 実現されているものに限定されてしまうことはないか。
 これも、各請求項ごとに独立の発明(特許)があることから、上記と同様で あると考えられる。
 例3:媒体クレームの認められる以前と以後とでは、クレーム解釈に変化はないか。 間接侵害の適用に変化がおきないか。
 たとえば、媒体クレームが認められた以後、媒体クレームを記載しない場合 、その媒体特許を意図的に除外したと見なされ、記録媒体を訴訟対象物とする装 置クレーム、方法クレームに基づく間接侵害の適用が難しくなることはないか。
 間接侵害は、そもそもクレームの構成要件全ての実施ではない場合において も、特許侵害を主張することができるものであるので、その特許侵害の対象がク レームに記載されている、されていないとは無関係である。
 しかし、媒体クレームが認められるようになった経緯、すなわち装置クレー ムや方法クレームでは、ソフトウエア関連発明の特許に対する間接侵害に対して は、その適用が難しいことが予想され、そのためにも直接侵害を主張できるよう にするためであることを考慮すると、媒体クレームを積極的に利用すべきである 。

2.2.2 モジュールの組み合わせにより実行されるプログラムにおける問題

 コンピュータ・プログラムは、コンピュータ・システムで実施するためには 、インストールという作業が通常必要である。この際に、インストール対象のソ フトウエア・パッケージに複数の機能単位のモジュールが格納されており、ユー ザが任意に所望の機能のモジュールを選択できることもあるであろう。
 この場合の問題点を考えてみた。
 例1:媒体クレームとして「コンピュータをa1手段とb1手段として機能させるた めのプログラムを記録した記録媒体」が記載されている。これに対し、イ号は次 のとおりである。A,Bの機能を実行させるためのプログラムを記録したソフト ウエア・パッケージであり、Aの機能の下位概念(あるいは実現法)としてa1 〜a3の3通りがあり、ユーザがA手段についてはa1〜a3から任意に一つ選 択でき、Bの機能については、b1〜b3から任意に一つ選択できるようになっ ている。AとBの機能は、両者が機能的に結合している場合と、機能的な結合が なく単に並置している場合とが考えられる。
 AとBの機能が機能的に結合している場合、このソフトウエア・パッケージ は、選択対象を全て含んでいるので、その選択の一部分のみが特許発明であると しても、侵害と考えるべきであろう。一方、AとBが機能的に結合してなく単に 並置しているだけの場合、直接侵害とできるか疑問があり、AとB間接侵害の適 用が検討される。
 なお、これは、従来の間接侵害では一番問題がある事例である。間接侵害で は、特許法第101条における「のみ」の解釈において、「特許発明の重要な構 成部分が使用されず、いわゆる遊んでしまう」(注8)場合に相当すると思われ る。
 例2:媒体クレームが「A機能とB機能の組み合わせをコンピュータに実現させる」 ものであり、イ号のソフトウエア・パッケージに、A、B、C、D……の多数の 機能がモジュール化されて互いに機能的に結合されず納められており、ユーザが それらのモジュールを任意に組み合わせることができるようになっている場合、 侵害となるか。
 A手段とB手段との組み合わせに意味がある場合が多いと思われるので、こ のパッケージは、部品の集合であると考えられる。これが直接侵害を構成するか 、間接侵害を構成するか(注9)、また間接侵害においての先に述べた「のみ」 の問題をどう解釈するかが問題となる。

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