2.2.3 アプリケーションプログラムとオペレーティングシステムの関係にお ける問題

 プログラムがコンピュータ・システムで実行される場合、通常OS(オペレ ーティング・システム:例えばMS-DOS,Window95,UNIX等(いずれも商 標))の制御のもとで、そのOSの提供する機能を用いて実行される場合が多い 。
 このようなOSとAP(アプリケーション・プログラム)との関係における 問題点を考えてみる。
 例1:特許発明が「コンピュータをA手段+B手段+C手段として機能させる」媒体 クレームであり、イ号は、A手段のプログラムがコンピュータ・システムのOS で実現され、記録媒体がB手段+C手段部分のプログラムを含むとともにA手段 についてはその実行指示だけを含むものである場合、このイ号の記録媒体は媒体 特許の技術的範囲に属するか。
 この場合、A手段として、OSが提供しているプリントアウト機能やGUI (Graphical User Interface)等が考えられる。OS側にどのような機能を分担 させるかは、技術の進歩とともに様々に変化することが予想される。上記の 媒 体クレームの機能、手段の一部が、ハードウエアで実現されている場合も考えら れる。
 クレーム記載の例として、新運用指針は「コンピュータに……手順Cを実行 されるためのプログラムを記録した記録媒体」「コンピュータを……手段Cとし て機能させるためのプログラムを記録した記録媒体」「コンピュータに……機能 C実現させるためのプログラムを記録した記録媒体」などを示している。これら は、いずれも、使役としてコンピュータに機能や手順を実行させるような記載と なっている。この「させる」対象として、様々なハードウエアやOSを含む「コ ンピュータ・システム」全体と解釈することができるか検討する必要があるだろ う。
 この場合は、特にこの「させる」という表現および「させる」対象である「 コンピュータ・システム」の解釈が重要となる。この場合、明細書中に本発明が 用いている「コンピュータ・システム」は、OSや周辺機器等のハードウエアを 含むものであることを明記することも有効であろう。
 また、イ号の記録媒体上にはB手段、C手段だけの場合(媒体上のプログラ ムでは、Aを実行させる指示もない場合)、直接侵害を構成しないであろう。こ の場合、かかるイ号の記録媒体が媒体クレームに対して間接侵害を構成しうるで あろうか。間接侵害を構成しえない場合には、装置クレームや方法クレームの間 接侵害としてのみ論じることになろう。この様な場合を想定して、B+Cがポイ ントであるならば、そのB手段+C手段の媒体クレームを記載すべきである。
 例2:OS中にある機能がON/OFFでき、ONにしたときに侵害となり、OFF のときには侵害とならない場合はどうであろうか。例えば、媒体クレームが「A 手段、B手段、C手段として機能させるためののプログラムを記録した記録媒体 」で、イ号はA手段はOS側にあり、このA手段をON/OFFできる場合であ る。
 例1と同様な検討が必要であろうと思われる。
 例3:媒体クレームが「コンピュータをA手段、B手段、C手段として機能させるた めののプログラムを記録した記録媒体」であり、イ号の手段プログラムは、ある OSでは媒体クレームの全ての機能が実現されず、他のOSでは全ての機能が実 現される場合。
 この例は、侵害となる動作環境が限られている場合である。この場合も動作 環境によっては侵害となる場合があるので、このプログラムを含むパッケージを 販売する場合は、侵害となるとかと思われる。

2.3 コンピュータ技術の技術的性格から生じる問題

2.3.1 「コンピュータ」「CPU」などの用語

 特許請求の範囲中の文言がその権利範囲の解釈に影響を及ぼすことはコンピ ュータ関連発明についても例外ではあり得ない。 この種の発明のクレームの典 型的文体は
 『○○するステップと、○○するステップと・.・・、○○するステップと を含む□□□方法』
 『○○する手段と、○○する……と、○○する手段とを備える含む□□□装 置』
である。この様な「方法」、「装置」にあってハードウエア資源の存在を明示 する必要があることがある。一般に、「コンピュータ」とか「CPU」について は「○○するステップ」を実行したり。「○○する手段」を備えているのが「コ ンピュータ」、「CPU」であるからことさらにそれらを明記することはない。 しかしながら並列処理、またはコンピュータ間のデータ伝送などが主題である発 明は、これらの存在(複数)が明示されることになる。この明示が本当に必要で あるかどうか、十分な配慮が必要であることを教えてくれる判例がある。

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