以下、診療・受付票発行方法事件 平5.11.30大阪地く平3(ワ)405号 を紹介する。
 原告Xは特許第1522020号発明の名称「診療受付票発行方法」の特許権を有 しており、その特許請求の範囲第1項は次のとおりである(特公昭63-63957号) 。

「患者の投入したカードの記録情報を読み込む読み取り情報手段と、診療科名 を入力する入力手段と、各診療科名の受付番号を印字して排出する受付票プリン ターとを備えた一又は複数の受付器と、前記読み取り手段によって読み込まれた 患者情報を記憶する記憶手段と、各診療科毎の現在の受付番号を記憶する記憶手 段と、その受付番号記憶手段によって記憶された受付番号をもとに各診療科毎の 新たな受付番号を設定する受付番号設定手段とを備えた一台の管理装置と、初診 患者の受付と診療費用の会計処理を行うホストコンピュータと、からなり、各受 付器が受け付けた再診患者の受付情報とホストコンピュータに入力された初診患 者の受付情報を前記管理装置に送り、この管理装置において、各受付器及びホス トコンピュータによって受け付けた患者の各診療科毎の受付番号を設定して該当 する受付器又はホストコンピュータへ送り、受付器において、その設定された受 付番号を受付票に印字して排出するとともに、ホストコンピュータから会計を修 了した患者の情報を前記管理装置側へ送ることを特徴とする診療受付票発行方法 。」

 図5はこれを図示したものであり、複数の受付器、1台の管理装置及びホストコン ピュータが必須であるとして明記されている。管理装置はコンピュータを含む装 置である。
 被告Yは、業として、ホストコンピュータとの通信用プログラムを組み込ん だ再来患者受付機を製造し、訴外の病院Z1,Z2に販売し、夫々のホストコン ピュータと接続して再来患者受付システムを構築している。
 病院Z1においては再来患者受付機はホストコンピュータに直接接続されて いる。なお、ホストコンピュータのプログラムは、再来患者受付機との通信のた めにホストコンピュータ側で使用される通信用プログラムも含めて訴外Wが製作 、販売した。
 図6 病院Z1のシステムを図示したものである。端的に述べれば本件発明の「管 理装置」の機能がホストコンピュータ内で実現されているのである。
 病院Z2においては再来患者受付機は中継管理機を介してホストコンピュー タに接続されている。なお、ホストコンピュータのプログラムは、訴外Vが製作 、販売した。
 そこで原告Xは、被告方法が本件発明の技術的範囲に属すること、被告装置 (ホストコンピュータを含む被告方法の構成機器全体をいう……判決文による) は本件発明の実施にのみ使用する物に当たること、及び通信用プログラムを組み 込んだ再来患者受付機をホストコンピュータと接続してこの再来患者受付機を販 売することにより被告Yは被告装置全体を製造販売していることになることを理 由に、被告装置の製造販売の停止と、被告Yが得た利益額相当の賠償とを請求し た。
 判決の要旨は「本件発明の構成要件には、受付器と称する端末機及びホスト コンピュータのほかに管理装置が存在する。被告装置は受付器及びホストコンピ ュータからなり、該ホストコンピュータが本件発明の管理装置と同一の機能を実 現するとしても、ホストコンピュータとは別体の管理装置を有しない被告装置は 本件発明の技術的範囲には属しない。」というものであった。
 判決の理由としては、
i) 特許請求の範囲で「1台の管理装置」の存在を明記していること、
ii) 唯一記載されている実施例が、ホストコンピュータとは別体の管理装置 を有するものであったこと、
だけでなく、
iii) 本件出願時の技術的背景から、本件発明が分散処理システムとしたこ とを主眼としたものであるから「管理装置」は「ホストコンピュータ」とは別体 のものであると認定すべきである
iv)原告Xの実施品が「ホストコンピュータ」と「管理装置」とが別体のもの であったことが挙げられている。」

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